魔が差して(モザイク処理は故障した:ユアンサイド)
【警告】変態注意
無防備に脱力した肢体から汗が流れ落ちて床を湿らせる。床に擦れてまくりあがった服の下から晒される素肌。髪は肌に張り付いて上気した頬、漏れる声は湿っぽい喘ぎ声。想像を掻きたてるに十二分な完全なる挑発行為を男の家でやらかす、その心は。
「いやぁ、暑くて死んじゃう。もう、だめぇぇぇ」
胸元の服を引くたびに見えそうで見えないその先は、見せようとしているのか見られても構わないと思っているのかどういうつもりなのか問い詰めてやりたい。
男だと偽ってアーサーの家に居候して、ジャックと平気で密着する。そこまでは相手が男だと騙されているから良い。だけど僕は知っている。そのことをロッカも知っている。
なら何故やる!?
「ふざけんな腹をしまえ! 胸元をパタパタするな! 変な声を出すなあああ!!」
「窓開けてこっち来て扇いで。熱中症で死んじゃう」
完全に殺しにかかってんだろ、こんなもん!!
そもそも気軽に入り浸るロッカがどういうつもりなのか僕には理解出来ない。日頃から仮面だ、キモイだ好き勝手な言いようで僕を貶めるくせに、特に用がなくても一人でやってくる。別に僕じゃなくてもガキ共だっているんだから暇ならそっちに行けばいいのにだ。
僕にとって唯一気が抜ける場所を侵してくる。当たり前の顔をして。
「死んじゃう」
声が途切れてロッカがそれ以降喋らなくなる。
いや、分かってる。自分のハンデを出来るだけなくすためなのかは知らないけど、女であることも大人であることも隠しているせいで、ここでしか気が抜けないんだ。本当に馬鹿な女だな。
ばらしてしまえば良いんだ。アーサーだって今更気に入ってるロッカを完全に突き放すわけがないんだから。気まずくはなるだろうし居候も出来なくなるだろうが、それはそれで新しい関係だって築けるはずだ。そりゃロッカの努力次第だろうけど自業自得じゃないか。
苦しそうなロッカの息が漏れる。かなり辛いらしい。
窓を見る。あんまり開けたくはない。が、開けないとロッカがこのまま苦しむ。ここに来たのが悪いんだ。僕が窓を開けたがらないことくらい知ってるくせに。
窓に手をかけて少し開ける。外から入る風で多少部屋の空気が変わった気がした。
チラリと振り返ってもロッカが機嫌よく元気に喋る様子はない。溜息が出て、僕は仰ぐのに適していそうな本を探ってロッカの元に近づいて胡坐をかいて仕方なく扇いでやる。ロッカの薄目が弱弱しく開いて、無言でまた閉じられる。
出会った当初は短かった髪も少しは伸びた。このままもう少し伸ばせば男になんて間違われないだろうに。
「んっ」
顔がわずかに傾いてこちらを向く。扇ぐ風で汗が目元に流れたのか涙と同じように目からこぼれた。なんとなく見てはいけないもののような気がして目を右にずらして、顔が歪む。
しまった。よりによって、こっちに目をやるんじゃなかった! 馬鹿ロッカが、腹を丸出しにしていたせいで扇ぐたびに揺れる服の裾で、見えそうで見えないチラリズム再びに。
「……こ、れは、僕が悪いのではなく」
扇げと言ったのはロッカだ。顔を横目で見れば穏やかな顔をして寝息を立て始めて完全に無防備そのものになっていた。
手に力が籠った。本が大きく風を起こして服が捲れ…………。
本を取り落として片手を押さえつける。
ち、違う。今のはちょっと力加減を間違えてだな。
心臓が早鐘を打つ。僕までこの夏の熱気に頭をやられていたらしい。暑さには比較的強いつもりだったが絶対に熱にやられている。そうだ、やられている。扇ぐべきは僕の頭だ!!
落ちた本を拾おうとして、視線がまた肌に吸い寄せられる。汗が流れ落ちていくのがやたら遅く感じる。肌に浮かぶ水玉は落ちそうで落ちない。上に目が滑って柔らかそうなヘソの凹みが目に入る。汗が流れ込んで貯まっているヘソを指で押すと形がそのままグニャリと変わって指が肌に沈み込む。指を押し込んだまま腹のクビレをなぞれば汗がそのまま零れ落ちて、流れ落ちて追いかけてきた汗が僕の指を濡らす。
ロッカの汗で濡れた指を見る。
薄暗い部屋の中に差し込むわずかな光でぬらぬらと光る体液に、喉が異常な渇きを訴えてそのまま口に指を含んでしまった。
…………やばい、僕何してるんだ。
床に倒れて仮面ごと顔面を覆う。
暑さによる汗じゃないものが全身から吹き出す。
これ、完全に変態行為だぞ。
いや違う、これは、その。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉっ」
なんで僕が暑い自室で一人我慢大会やらなくちゃならないんだよ、くそったれえええええええ!!