大いなる勘違い
「はい、その通りです。それができなかったのが当時の僕で、できたのが彼女なんだと思います」
なるほど。イーサン自身が持ち得なくて、でも欲している揺るぎない自信を持つその女性に心惹かれたのね。
「今は十五歳の自分に比べれば、経験も積みましたし、自信は持てるようになりました。騎士という職責に関しては。でも恋愛は……。まだまだです。十五歳の当時と変わりません」
「それはつまり……クラエス副団長が好きになった女性は、今も昔も変わらず高嶺の花……ということですか?」
「そうですね。そこは今も昔も変わりません。当時はただただ圧倒されました。彼女に想いを伝えられるだけの一人前の男になりたい……そう決意し、さらに訓練に励むことになりました」
そこで思わず尋ねてしまう。「なりましたよね?」と。
だがイーサンはとんでもないですとばかりに首をふる。
「先程話した通り、仮面舞踏会の僕を見たら分かりましたよね? 一言も声を出せなかったのです。少しは成長したかと思いましたが……まだまだです」
「そうでしょうか?」
「はい。ローズベリー伯爵令嬢の助けが必要です」
これには「そうですか……」と尤もらしい返事をしているが、私の心中は複雑になっている。
だってどう考えてもイーサンは、どんな女性も虜にできそうだった。それは容姿の素晴らしさは勿論、彼が優れた人物であるからだ。二十歳の若さで副団長に就任できたのは、努力と実力の賜物だろう。
どんなに努力しても、報われないことがある。それを結実させることができたのは、イーサンに実力があるからだ。容姿端麗、文武両道ときたら、天狗になってもおかしくないのに、恐ろしいほど謙虚でピュア。しかもギャップ萌えの逸材だ。
そんなイーサンなのだ。
相手の女性は高嶺の花かもしれないが、イーサンだって……、イーサンは……。なんて表現すればいいのかしら? ハイスペック男子? スパダリ? ともかくその女性とは、対等に渡り合えると思うのだ。だからイーサンはもう、くよくよする必要はないのに! なんて大いなる勘違いをしているのかしら。
そう思うのと同時に。
これはもう単純に。自分が醜い心の持ち主と思ってしまうが、ジェラシーだ。
私が初めてキスをしたいと願った魅惑の唇の騎士様がイーサンだった。そのイーサンは高嶺の花という女性に、五年間片想いをしている。正直、その女性が羨ましかった。
羨ましい……なんて思ってはいけない。
イーサンは無理でも、きっとイケオジなエルン騎士団長は、私に素敵な騎士様を紹介してくれるはずなのだから……!

























































