ここは正念場
「ならば養子だ」
「それはダメだ」「なぜだ?」
父親とイケオジなエルン騎士団長が顔を見合わせる。
「イーサンのあの才能は、血筋だと思う。できればイーサンにはちゃんと結婚し、後継ぎをもうけて欲しい。……とはいえ、子は授かりものだ。そこでダメだったなら仕方ない。養子を迎えるのは手だろう。そうだとしても」
イケオジなエルン騎士団長の碧眼の瞳がキラーンと輝く。
「イーサンは完全無敵かと思ったが、唯一弱点がある。それは……恋愛力のなさだ。レディの扱いが分からないと思う。レディが喜ぶような行動は、一切できないだろうと断言する」
「「なるほど」」
思わず父親と声が揃ってしまう。
「イーサン副団長のことはよく分かりました。そのイーサン副団長と私への頼み事はどうリンクするのでしょうか?」
「よくぞ聞いてくれた。ローズベリー伯爵令嬢! 君はかつて社交界の華と言われたぐらいだ。きっと恋愛力が高いと思う。レディがどんなふうにされると嬉しいのか。喜ぶのか。ぜひイーサンへ教えてやってくれ!」
「えっ、わ、私が、ですか!? でも私は離婚されたような女ですよ……」
するとイケオジなエルン騎士団長は首を振る。
「そもそもあのウス・レイリー男爵とローズベリー伯爵令嬢が結婚したというのが、不思議でならない。君であればいくらでも選べただろうに。しかも結婚後は屋敷へこもりがちで、たまに街へ出ても元気がなかった……と噂で耳にしたことがある。社交界から遠ざかったようだが、それにはきっと事情があったのだろう。そもそも訳ありの結婚だったのでは? 離婚した今、君は自由なんだ。昔の輝きを取り戻すといい」
この言葉に父親も私も、つい涙腺が緩みそうになる。
分かってくれる人は分かってくれていた。
それが嬉しく、かつたまに街へ出かけた私を見て、心を痛めてくれた人がいたのかと思うと……。
「恋愛についてイーサンへ教えることで、君自身の恋愛運も高まるかもしれん。休眠中だった昔の勘を取り戻す、いい機会では? 騎士団には将来有望な未婚の騎士が山ほどいる。この提案、引き受けてくれたら、自分が推す騎士を、ローズベリー伯爵令嬢に紹介することを約束しよう」
そうだ。私は恋愛偏差値が恐ろしいほど高かったはず。例えバツイチになっても、悲観する必要はない。この世界に転生し、知識を実践して、効果も確認できている。
それにイケオジなエルン騎士団長は、素敵な騎士様を紹介してくれると、約束してくれたのだ! 引き受けない手はないと思う。この依頼を見事にやってのけて、バツイチでも幸せを掴んでやる!
「いい目の輝きだ。ローズベリー伯爵令嬢。では早速だが、明日から一ヵ月よろしく頼む」
これにはビックリで目が点になる。「明日から早速」はまだしも、「一ヵ月」とは一体!?
「イーサンは上級指揮官時代から、休暇を一切とらずにここまできていたことが発覚した。身を粉にしてくれるのは嬉しいことだ。しかし休暇をとることも大切。イーサンには『自分が命じたら、強制的に一ヵ月休むように』と命令してある。ローズベリー伯爵令嬢も自由の身だから、明日からの一ヵ月、時間をとることは可能だろう?」
確かに私は前世で言うなら出戻りニート状態で、時間は有り余っている。しかし一ヵ月か。一ヵ月で恋愛力ってそんなに上がるものかしら? まあ試してみないと分からないか。それに……素敵な騎士様を紹介してもらえるのだ。
一瞬。
仮面舞踏会で見かけた、魅惑の唇の騎士のことを思い出す。
もしかしたら、あの騎士を紹介してもらえるかもしれない……!
ここは正念場だろう。
「承知しました! では明日からでお願いします!」