柔和な笑顔
カーテシーで挨拶をするために、椅子から立ち上がり、こちらへ向かってくる騎士の姿を見た。
白シャツに天鵞絨色のセットアップ、首元のタイには翡翠の飾り。
アッシュブラウンの長髪に眼鏡をかけている。瞳の色は紫紺色。
スラリとした体躯で騎士なのだろうと一目で分かった。
「こんにちは、レディ。エルン騎士団長の紹介で、こちらへ足を運ぶことになった……ジャスパーと申します。あ、この名前は、仮の名です。団長から、先入観を排除するため、本名は名乗る必要がないと言われているので」
ジャスパーは眼鏡をくいっと上げて笑顔になる。
柔和な笑顔にホッとした。
ラベンダーティーを飲んでも、緊張は完全になくなったわけではなかったのだと実感する。
「はじめまして、ジャスパー卿。私は、えー、そうですね。ジャスミンとでも呼んでいただければ。今日は、よろしくお願いします」
確かに本名を名乗る必要はないと言われていたが、では何と名乗るか。
そこをちゃんと考えていなかった。
家門の名にローズがあったから、安易な発想で、ジャスミンとしてしまったが……。
もう少し、なんとかできなかったかと、言った後、すぐに後悔している。
だが……。
「ジャスミン! いい香りがしますよね。わたしの屋敷の庭に咲くジャスミンは、毎年素晴らしい香りで楽しませてくれます」
思い付きで決めた名前に、こんなに反応してくれるなんて。
ジャスパーは初対面から、なんだか優しそうと思えた。
「あ、どうぞ、座ってください」
「はい、ありがとうございます」
ジャスパーが着席すると、メイドがすぐにそばにやってくる。
そして飲み物の希望を聞かれた。
「……ジャスミン嬢はもしやラベンダーティーを飲まれていたのですか?」
「は、はいっ。その、お恥ずかしいことに、緊張してしまい」
「ははは。そんなわたしごときに緊張の必要などないのに! そうだ! ハイビスカスティーにオレンジジュースを足すと、見た目も美しく、味も美味しいですよ」
それは確かに美味しそうなので、二人で同じものをお願いした。
どうやらいろいろ茶葉が揃っているようで、可能な限りリクエストに応えてくれるようだ。
「ジャスミン嬢は、甘い物がお好きですか?」
「はい。ジャスパー卿は、いかがですか?」
「ええ、好きですよ。騎士の訓練はハードなので、すぐにお腹もすきます。練習場にお菓子を持ってきて、こっそり食べている見習い騎士もいたりするのですよ。……わたしもその一人でした」
これにはビックリ! でも育ち盛りなのだろう。














