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手紙  作者: ひいらぎ 梢
11/11

世界で一番幸せな家族

異世界からの手紙が届けられた日、ふと思い付いて愛娘の好物を手紙に供えることにした主人公夫妻。その後彼らの目の前で起きたこととは……

喜八郎は眼前の光景に唖然とした。


仏壇の位牌をおいた辺りに立て掛けた手紙が光を発し、まるで呼吸するかのように点滅していたのだ。思わず知らず彼は隣で呆然と立ち尽くしている妻を引き寄せ、自分の身を盾にして庇った。


と、そのやや上の中空に直径1.5メートル程の光の文様=魔方陣が突然浮かび上がった。万華鏡のように多彩な色を放ちゆっくりと回転するそれは、あたかも昨今流行りのプロジェクションマッピングのようだ。


その万華鏡の前面にぼんやりと小柄な人間の姿が浮かびあがってきた。カメラのピントが合うようにその像はゆっくり(かたち)を結んでいき、やがて美しい少女の姿になった。


年の頃は就学するかしないかだろうか。腰まである輝く(しろがね)の髪。抜けるような白磁の肌。薔薇色(ローズピンク)の頬に深い藍色の瞳と蕾のような赤い唇。そしてその小さな唇が動いてこんな声が聞こえてきた。


「あー、あ、あ……アメンボ赤いな、あいうえお。隣の客はよく柿食う客だ……ねぇ保険屋さん、私ちゃんとしゃべれてる?」

「ああ、大丈夫。心配ないよ」

「ふぅ…日本語話すの久しぶりだから、なんか緊張しちゃうな(汗) お昼の校内放送でもこんなことなかったのに」

「ほら、時間ないから、早くご両親にご挨拶しなきゃ!申し訳ないが俺の魔力の限界ってやつもあるしね」

「うん!宜しくお願いしまーす!」


突然目の前に現れた怪異現象に驚きを隠せない2人は、少女と画面の外にいるであろう「保険屋さん」の間の抜けたやり取りを聞いて、気が抜けたようにお互い顔を見合せ頷いた。そう、その少女は間違いなく彼らの娘、風香=リディア ホワイト リースリングだった。


少女は正面に向き直るとドレスの裾を両手でつまみ、片膝を折ってちょこんと(こうべ)をたれ、二人に淑女の礼をした。そしておもむろに踊りはじめた。


それはもともとペアのダンスのようで、少女は見えない相方に両手をさしのべ弧を描きながら、さほど広くない部屋の中空を右へ左へと滑るように動き回る。回転する万華鏡も彼女の動きを合わせてさながらスポットライトの如くめまぐるしく七色の光を明滅させた。


やがてダンスが佳境に入ったのだろう。彼女は右手を垂直に上げ、左腕は肘を折って横へ付きだし、くるくると回り始めた。と、数回回ったところでふらふらとバランスを崩し尻餅をついた。


「おい、大丈夫か!」


喜八郎は思わず仏壇の方へ身を乗り出し、中空から落ちんとする小さな娘を受け止めようと身を乗り出した。


「大丈夫、お父さん、これは幻なのよ」


仏壇に突っ込まんばかりの勢いの彼の腰にみどりがしがみつく。必死に引き戻したせいで勢い余って二人もその場に尻餅をついた。


その間に当の本人はパッと身を起こして、ペロリと舌をだし右手で頭をかく。その仕草は彼らの娘が失敗したときのお決まりのそれだった。


「あいたたぁ……えへへ、まぁたやっちゃったぁ(笑) いっつもここでずっこけてボルドー先生に叱られるんだよね、あはは…」


娘は屈託なく笑ってから、両手を後ろ手に組んでちょっと上目遣いの顔で自慢気に二人に話しかけた。


「お父さん、お母さん、お饅頭とカレーのお供えありがとう!きっと分かってくれると思ってた。あたし二人にどうしてもサプライズがしたくて、保険屋さんにお願いして手紙に魔法をかけてもらったの!ね、ビックリしたでしょ!これ幻影魔法っていって発動条件が揃うと私の姿が動画みたいに見えるんだって!」


手紙の隅っこに書かれていた「落書き」はその発動のトリガーだったのだ。


「さっき踊ったのデビュタントの踊りなんだよ。中々上手でしょ!でもさー、毎日毎日練習厳しくて大変なんだから。ほらぁ、ここなんかこんな擦りむいちゃってさ…」


そういいながらおもむろに長いスカートの裾をたくし上げて擦りむいた膝を見せる風香。


「おいおい風香ちゃん、レディなんだから、そんなはしたない事しちゃダメだぞ(笑)」

「ベーだ、いいんだもん」


突っ込む「保険屋さん」に可愛らしい舌を出して応えるリディア。その掛け合いに座り込んだままの二人は顔を見合わせ思わず笑みをもらす。


「やれやれ、あいつ相変わらずだな(笑)」

「ホント(笑) 三つ子の魂百までね」


「このドレスも今日出来たばっかりなの!ね、可愛いでしょ。パパやグランパにはまだ見せてないんだけど、2人には特別先行公開しまーす!ホント大サービスなんだからぁ」


それからは堰を切ったように溢れでる風香の言葉が二人の心を満たして行った。5年の空白を一瞬で埋めようとするかのように銀髪の少女は身振り手振りを交え、感情豊かにとめどなく話続けた。


だが終幕(エンディング)は唐突にやってきた。


「風香ちゃん、盛り上がってるとこすまないが、もうそろそろ限界だ。ちゃんとご両親にお別れのご挨拶を…」


すこし苦しげな男の声が画面の外から響く。


『保険屋さん』の魔力の限界が近付いていた。気がつけば走りすぎて息が切れたかのように、魔方陣の明滅も早くなっていた。


「あ、ご、ごめんなさい!もう少しだけ頑張って!お願い…」


その声に一瞬心配げな表情を浮かべた少女は画面の外にいるであろう「保険屋さん」に小さな両の手を合わせてから、再び二人に向き直る。


「いまはこうやってあたしの姿しか届けられないけど、あたし頑張っていーっぱい魔法の勉強するっ!そしていつか逆転移して二人に会いに行くから!だからそれまで絶対元気でいてね!約束だよ!また手紙書くか…」


最後の言葉を言い終わらぬうちに中空の魔方陣は忽然と消滅した。それとともに愛娘の姿は一瞬にして掻き消えた。


そして夫婦二人は静寂(しじま)の中に残された。


「見たよな、俺たち…」

「ええ…」


「ホントに生きてるんだな…風香(あいつ)

「ええ…」


「よかったな…」

「ええ…」


「おい君、他に何か言えないのか?」

「.だって…」


喜八郎が振り替えるとそこには静かに大粒の涙を流す彼の妻の姿があった。


一瞬狼狽する彼の肩を両膝立ちになったみどりの暖かな両腕が後ろから優しく抱きしめる。そして彼女は夫の顔に甘えるように後ろからそっと左の頬をよせた。


「あなた、私たち幸せね…」


背中に妻の体温(ぬくもり)と心地よい重みを感じながら喜八郎はこう呟いた。


「ああ、間違いない。俺たちはいま世界で一番幸せな家族だ」


Fin

さてお陰さまで手紙 第11話お届けできました。長い間お付き合い頂き感謝です。


この結末自体は結構前から決まってはいたのですが中々絵が浮かんで来なくて時間ばかりかかってしまった感じてす。


ちなみに今回の幻影魔法は一回のみのもので、何度も繰り返し見ることは出来な一回と言う設定てす。奇跡の有り難みって大事ですから。


 ではまた別の作品でお会いできれば幸いです。ありがとうございましたm(_ _)m

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