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【番外編】秘された恋の果て

ここからは番外編になります

基本1話完結です。


 

 オーギュスト(エイデン)は向かいのソファーに座っている立腹の婚約者アレクシラになんとも言えない目を向ける。

 

 「エイデン」

 「…」

 「エイデン」

 「…アレクシラ」

 「何かしら?エイデン」

 

 思わず頭をかく彼を彼女ニコニコと見るだけで何も言わない。かれこれ十数回はこのやり取りをしている。

 

 鎧の着ていない視界はひらけていて、アレクシラの顔もよく見えるが、付き合いの長いエイデンだからこそわかる。彼女アレクシラは怒っている。

 

 「悪かった」

 「どうしたの?エイデン」

 「…」

 

 どういえばいいのか分からないが確実にアレクシラは怒っているのをエイデンは確信して、ため息をこぼす。

 

 こうなった原因はオーギュストと名乗っていた彼の本名がエイデンだったことだろう。アレクシラの父である国王レオンハルトが知っていたのに恋人である自分に教えなかった事を怒っているのだろう。

 

 彼女自身オーギュストがエイデンであると知ったのは式典でだった。

 

 「エイデンは母がつけたのだと聞いた」

 

 仕方ないと口にしたのは、父が亡くなった後にエイデンを育ててくれた侍女ドーラに聞いた話だ。

 

 「産まれたばかりの俺の瞳は涙で濡れていたのに熱く燃えているように見えたそうだ、だからエイデンと自然と口から出たのだと」

 「…そう」

 「それを知ってるのはもう俺とお前しかいない…それでいいだろう?」

 「別に怒っていないけれど、そう、だからエイデンと…」

 

 アレクシラは少し不貞腐れた様子で座るエイデンの隣に座り広く硬い彼の肩に寄り掛かる。

 

 「まるで奇跡みたいな話ね」

 「そうだな」

 「顔も知らない人に恋をしたのに後悔はなかったのよ、でも共に歩める未来を夢みても叶わないと思っていた」

 

 でもそれも叶うなんてとアレクシラが目を伏せる。琥珀の瞳が伏せられるだけで酷く胸が騒いだ。

 

 「お父様が賛成してくれるのはいいの、お父様のことも大切だもの、でも貴方の口から聞きたかった」

 「…」

 「お父様の知らない名前の理由…うん、なんだかそれを知れただけで喜ばしいの…ねぇエイデン」

 「なんだ?」

 「貴方が好きよ、鎧のオーギュストも鎧を脱いだエイデンも」

 

 貴方が叔父様の子で、私の従兄弟だったとしてもそれは変わらないのよとアレクシラが言えばエイデンは目を見開き固まる。

 

 琥珀の瞳が高い位置の赤い瞳を射抜く。

 

 「ねぇ、エイデン」

 

 それだけで甘く痺れるような心地良さが胸を占めるのだからアレクシラにエイデンは頭が上がらない。

 

 「王太子としてやらねばならないことだらけだ」

 「そうね」

 「王族として学んだことも無い」

 「ええ」

 「ただ、父上が国王だっただけだ」

 「それは私もだわ」

 

 アレクシラが相槌をうちつつ微笑む。駄々をこねる子供を相手するかのようにゆっくりと。

 

 「でも貴方だから私は好きになったのよ」

 「ああ…」

 「いいじゃない、国王案外向いていると思うわ、だって貴方とお父様よく似ているもの」

 

 思わず驚くエイデンにアレクシラは可笑しそうに笑う。

 

 「頑固で負けず嫌いだけど認めた相手は決してないがしろにしないじゃない?」

 「…」

 「きっとお父様がしなくても貴方ルベリオンの事手助けしてたでしょうし」

 

 エイデンが何も口にしなくてもアレクシラは分かるようでやっぱりねと呆れたようにこぼした。

 

 「断言する貴方は立派な王になれるわよ、いい? 貴方は私の夫になるの、そのおまけで王になるだけだって考えればいいのよ。」

 「王位をおまけ扱いとは…」

 「いいじゃない、他の貴族たちは逆に王位のおまけの私だと思ってるんだもの、エイデンは私と結婚する為にキュラスだって解決して見せたんだから」

 

 王になりたくて私を利用したなら別だけどねと付け加えたアレクシラにエイデンは「当たり前だろ」と返す。

 

 それはさも当たり前のことを語るような声色だった。

 

 「俺に必要のはアレクシラだけだからな、成程…確かに王位はおまけかもしれん」

 

 アレクシラと結婚出来て王位を捨てれるなら王位は捨ててしまいたいからなとあっけからんに言ってのけたエイデンをアレクシラは心底愛おしそうに目を細めた。

 

 「だから、貴方が良かったのよエイデン…名前がなんであろうと、出身がなんであろうと、そう言える貴方が好きよ愛してる」

 

 エイデンはやっと拒み続けた言葉をやっと口にする。頭の隅には父の言葉が確かにあったのだが、エイデンを産んで庇い亡くなった母は認めてくれる気がしていた。

 

 

 「俺も愛してるさ誰よりも永遠にな」

 

 いつもは無い返答にアレクシラは頬を赤らめて口を閉じる。喜んでいるのは確かだろうとエイデンはそのまま彼女を観察することにした。

 

 

 のちに正気に戻った彼女の軽い拳をもらうことになるのだが彼と彼女は確かに幸せを感じていたのだった。

 

 

 

 

 

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