77話「崩壊の足音6」
レイジ達は何とか冒険者達の追っ手から逃れ建物の陰で呼吸を整えて居た。
「クソッ、こんなの想定してなかったぞ!」
「うぅ...ごめんねお兄ちゃん。ゼーレ が冒険者ギルドなんか紹介しちゃったから...」
「ゼーレ のせいじゃねえよ。それこそ俺の見通しが甘かっただけだ」
レイジ はそう言って落ち込む ゼーレ の頭に手を置いた。
しかし、ゼーレ の後悔と不安の表情は晴れない。
そこに.,,
「いたぞ! 囲め!」
どこから発見したのか一人の冒険者が レイジ達を見つけ大きな声で周囲にいる他の冒険者に声をかけた。
「チッ、もう気づかれたのかよ」
レイジ は悪態を吐きながら ゼーレ の手を引き再度別方向へ走り抜けた。
「お兄ちゃん、これからどうするの?」
「この街から出るのが最優先だが...」
不安に彩られた ゼーレ が尋ねてきた。レイジ としても一応は目的地の方へ走っているがその結果は予想通りだった。
「やっぱそうはいかねえよな」
走った方向には町に入ってきた時に通過した城門。
しかし、今はその大きな門は中に居る獲物を一匹たりとも逃さない監獄の如く扉は閉ざされ、大勢に兵士が武器を構えて居た。
「囲め! 手足を切り捨てても構わん!何としてでも捕まえろ!」
一際目立つマントを羽織った兵士の号令で一斉に他の兵士が武器を振りかざし レイジ達 目指し突撃を仕掛けた。
「退くか...」
「「「「「うおおおおおおおおぉぉおおお!!」」」」
レイジ がそう判断した時後方から大勢の人と、轟音のような雄叫びが雪崩のように押し寄せてきた。
前方には兵士、後方には冒険者、左右は建築物が立ち並ぶがその隙間からは何者かが潜んで居ることは明白だった。
「...万事休す...か」
「...お兄ちゃん」
最悪の事態に半ば諦めを感じた レイジ に ゼーレ が声をかけた。
その表情は絶望も後悔もしておらず、ただただ、真っ直ぐに レイジ を見ていた。
「お兄ちゃん...私を置いて...逃げて」
ゼーレ の口からハッキリとそう言われた。
「お、お前何を...」
「逃げてお兄ちゃん。お兄ちゃん一人なら逃げれるでしょ?」
「な、冗談を言うな!」
「冗談じゃないよっ!」
ゼーレ の叱咤が飛んだ。
「冗談なんかじゃ...ないよ...」
表情には絶望も後悔もない。しかし、膝は震えていた。肩も同様だ。
表情には出さないように気丈に振る舞っていることが ゼーレ の叱咤で ようやく気が付いた。
そんな様子を見た レイジ は一つため息を吐いた。
「...却下だ」
「ッ! どうして!」
却下されるとは思っていなかったのだろう ゼーレ は強く反発した。
そんな ゼーレ を他所に レイジ は武器を構えながら手早く理由を口にした。
「ゼーレ を残して俺だけが逃げるのは妥当じゃないからだ」
「だ、ダメだよ! お兄ちゃんが死ねばミサキちゃん達はどうするの! 皆んな死んじゃうんだよ! ゼーレ なら... ゼーレ なら死んでも他の子達は守れるんだよ!」
「ゼーレッ!」
「っ!」
自分の身よりも仲間の安全を考える ゼーレ に今度は レイジ の叱咤が飛んだ。
「誰かが誰かの為に死ぬ...そんなのはもう十分なんだよ」
一年前のあの日。
レイジ は強大な魔物と相対した時、自身を守ったあの勇敢な魔物を思い出した。
もう、アイツのような犠牲を出したくない。
もう、あの時のような思いは感じたくない。
もう、逃げるだけの自分には成りたくない。
「だから...何としてでも生き抜くぞ ゼーレ!」
「っ!」
レイジ は ゼーレ の腰に手を回した。そして、高速で片手に持つ蛇腹の剣を振り抜いた。
一度振り抜けば兵士の首を吹き飛ばし、隣にいる兵士の腕を切り落とし、その近くにいる兵士の足を傷つけた。
雄叫びと、血と、金属の打ち合う音が支配する街の一角。
押し寄せる兵士や冒険者は湯水の様に湧き出る。
レイジ はそんな物量を物ともせずに剣を振り抜き、自らを鼓舞し抗い続けた。
そんな レイジ を真下から見る ゼーレ の頬にはいつの間にか涙が流れていた。
拭いきれない涙は レイジ の胸元に頭を埋め隠した。
そして、いつの間にか レイジ の服を強く握り、目を瞑り全てを委ねた ゼーレ の震えは止まっていた。
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押し寄せる冒険者達の奥で一人の男が状況を見守って居た。
(ダンジョンマスター...な。単騎であの強さは異常だな。コッチもBはある程度いるがAは少ない...どうするか...)
「クソがッ!離せ!」
そんな風に俯瞰していると足元で騒ぎ立てる声が上がった。
視線を向ければ ロート が手足を縛られた状態で転がって居た。
「まあそういきり立つな、鬼妹」
「私がアイツを殺す! だから邪魔すんな!」
「お前ェ、今暴れたらどうなるか分かってんのか?」
「知らん!」
「知らんって...」
そう言って呆れる男のそばに一人の冒険者がやって来た。
「ボールスさん、どうやら騎士団の連中は部隊長格を揃えてるみたいですよ」
「お、もう動き出したか。そんじゃあ、そろそろ前にいる連中に下がる様に言ってくれ。巻き込まれたら死んじまうからな」
「は、はい!」
ボールス と呼ばれた男のその言い分に恐怖を感じた冒険者は足早に戦前に走っていった。
戦前に走る冒険者の背中を見届けると ボールス は再度足元で拘束されている ロート へ視線を向けた。
「つう訳だ。そろそろ動くぞ」
「....」
「何だ、急に静かにしやがって」
「別に...ちょっと頭冷えただけ...」
「そうけ。そんじゃあ下の連中が引いたら奴を叩くぞ」
「お姉ちゃんの仇は...私が殺す」
ボールス によって拘束を解かれた ロート は立ち上がり静かに、強く想いをこぼした。
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レイジ の闘いぶりを後方で見ていた一際目立つマントを羽織った兵士が居た。
(何という執念...気迫だ。これが噂に聞くダンジョンマスターか...とんだ化け物ではないか)
戦いの様子に驚愕する兵士の元に別の兵士が走り近づき、膝をついた。
「副団長、報告です! 住民の避難、各部隊長への通達が完了いたしました。今すぐにでも行動を移せます!」
「うむ、ご苦労。これ以上無駄な犠牲を出す意味はない」
兵士...副団長と呼ばれた男は報告して来た兵士を一瞥すると直ぐに戦いの中心地へ目を向けた。
「では...開戦といくか」
そして、副団長と呼ばれた男は右手を大きく上げた。
「全兵に告ぐ!足止めは終いだ。死にたくない奴は退がれッ!」
そう言うと同時に副団長と呼ばれた男の右手は勢いよく下げられた。
役者のいない導入に終わりが告げられる。
そして、役者の揃った舞台の幕が上がる。
次回、騎士団隊長格、上級冒険者 vs レイジ
果たしてレイジ達の運命は如何に...




