72話「崩壊の足音1」
出だしはこの人達。
これで全ての時間軸が一致する。
ー異世界某所ー
冒険者ギルドの最上階、一人の大男は机に置かれあ山のような資料に目を通していた。
「ふぅ...」
「お疲れ様です。読み終えましたか?」
最後の一枚を読み終え、深いため息を吐くと近くで待っていた女性が声をかけてきた。
「ああ、一通りはな」
「そうですか。それでは如何だったでしょうか?『ザイト』の被害と現在の調査結果は?」
「そうだな...」
そう言って大男は考え込んだ。
大男が読んだ資料は半年前に『ザイト』と呼ばれる村で起きた『突発的魔物発生現象』についてだった。
調査員として派遣された者が到着した時には多くの魔物の死体と共に村民は全員無残な姿に変わり果て、建物は全て全壊、更には火に手が周りその周辺の森林にまで被害が及んでいた。
結果、数多くの人手を送る事となったが未だに片付けが終わることはなく復興の目処も立っていない。
「重機械も送り込んでんだろ?」
「ええ、勿論です。ですが、村及び周辺の地面に亀裂まで入っていますからそう早くは進まないのですよ」
「かー! こんな事なら村一つで済んで良かったと言って良いのか、悪いのやら」
「村民や村出身の方々には悪いですが、私個人は村一つで済んで良かったと考えますよ」
「だろうな。こんなのが更に増えてたら後何年世界が滞っていただろうな.....で」
大男は言葉を区切った。
その一瞬で纏っていた軽い雰囲気は消え、重たい者が場を支配した。
「この死亡人数だが...住民票で提出されている数と合っていない...これどういう事だ?」
「...どうやら、本当にキチンと読んでいたみたいで安心しました」
「そうけ。で、どういう事だ?」
「それは調査資料を書いた後に発覚した事実です。死亡した村民の中に『植人族』が一名居ました」
「『植人族』? 人型の魔物じゃないのか?」
「いいえ、体内を調べた結果、魔石が無かったため間違いなく『植人族』の方だったのでしょう」
「何でそんな所に居たんだ...? コッチの方が住みやすいだろうに」
「それは人それぞれなのでは?まあ、否定はしませんが」
「それで、そいつの身元はわかったのか?」
「いいえ。わかっているのは小学生ほどの女の子と言うぐらいです」
「....まぁ、何か事情があったんだろう。運がなかったなぁ」
大男は嘆息をつきながら資料をまとめ女性に手渡した。
女性も大男から資料を受け取り、別の資料を手渡した。
「...え?まだ何かあったの?」
「『ザイト』の資料を渡したのは昨日です。こちらは今日の物です」
「うそぉ...」
大男は嘆きながらも渡された資料をペラペラとめくった。
そして、途中のページでその指を止めた。
「マジか...ついに補足したか」
そこに書かれているのは勇者が後半年以内で戻ってくる事だった。
勢いよく顔を上げれば女性が涼しい表情でそこにいる。
「それで、如何致します?」
「......人を集めろ」
「はい?」
「勇者が帰還と同時に例のダンジョンに総攻撃をかける」
「....本気ですか?」
「本気だ。勇者が居れば潰せるとは思うが何か嫌な予感がする。ダンジョンにいる職員は六ヶ月後以内に全員喚び戻せ」
「...わかりました。人員の方はどの様に?」
「A級以上の冒険者、更に勇者の足を引っ張らない様なやつを何人かだな」
「....」
「悪いがここで仮にでも勇者が倒されれば最悪だ。もう俺たちに打つ手がなくなる。
現状、勇者ですらかなりの時間をかけても踏破できて居ないダンジョンもある」
「...わかりました。ではその様に」
そう言って女性は部屋を退出した。
残った大男は一人冷たい物を感じながら呟いた。
「嫌な予感がする...」
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ー涼宮 零・立花 香・八雲 響ー
簡素な部屋。
部屋の中にあるのはテーブルが一つと椅子が三つ。それ以外に特出するものは一切ない部屋で 涼宮 零、立花 香、八雲 響 の三人は向かい合って座って居た。
「では、次の行動を説明するわ」
「「...」」
「次は 神ノ蔵 レイジ のいるダンジョンに行くわ」
「....」
「ま、待った!」
「...何、八雲 響?」
「お、俺は 涼宮さんの言った真実が納得できない」
「それは当然ね。根拠を言っていないもの」
「な、なら...」
「言う必要はないし、言っても時間の無駄。有るべき真実を伝える、これだけで十分」
「だ、だけど...」
零 の一切の余裕も与えない言葉に尚も食い下がる 響。
そんな 響 の手を隣に座って居た 香 が両手で包んだ。
「響君、落ち着いて?」
「か、香...」
「あんまり邪魔すると.....コロシチャウヨ?」
「ッ!?」
響 は 香 の目に自分は自分で写って居ない様に感じた...否、感じさせられた。
まるで邪魔者。その寸前に自分はいるのではないかと思えてならない。
「ウソウソ、冗談だよぉ」
「.....」
怯える 響 をどう思ったのか先程までの眼差しを一変させ 香 は可愛らしい仕草で虚取って見せた。
「....」
なおも黙ったままの 響。
思い出すのはダンジョンマスターとして選ばれたあの日。
香 に絶望を叩きつけたあの声の主。あの日さえなければ、ダンジョンマスターにさえならなければ 香 はこんな豹変を遂げなかったのではないか?
そう思えば思うほど、彼女をどうやったら救えるのかを考えてしまう。
そして、それと同時に思い浮かべるのは何もできずに殺されてしまった レオ の存在。
無力を感じる無力な少年は最後の抵抗とばかりに目の前にいる少女、零 を睨みつける。
「....」
「話を進めるわよ」
「はいはい」
「神ノ蔵 レイジ のダンジョンに侵攻するのは今から六ヶ月後。そこで....」
零 は一度息を吸うといつもと変わらない無表情で、無機質で、無感情な声で続けた。
「アドバイザーの魔物を殺す」
その冷たく重い声色が簡素な部屋を通り過ぎていった。
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ー???ー
光源一つない部屋で男は椅子に座りジッと虚空を見ていた。
「....」
そんな静かな部屋にノックする音が響いた。
「....開いてるぞ」
「失礼するわ」
そう言って入って来たのは報告書を持った女性だった。
「よぉ、アンタか」
「よくこんな場所で過ごせますね...マーダ」
暗い部屋にいた人物、マーダは口元を釣り上げ女性に向き直った。
「暗い場所が好きだからな」
「そうですか」
「で、ここに来たってことは?」
「勇者の到着予想がついたわ」
「へぇ、そりゃあ何時になったんだ?」
「六ヶ月後。今は有力者を集めているの」
「成る程、勇者の期間と同時に総攻撃をかけるか。上も本気ってことか」
「その様ね.....何故...」
「勇者を殺すのか、か?」
「っ!」
「簡単な話だ。俺にとって必要な事だからだ」
「...その理由は?」
「言えないね。言っても伝わらないし時間の無駄だ」
「...そう」
沈黙が場を支配した。
一秒か、一分か、ただ静かな時間が過ぎ去っていった。
「さて、これ以上ないみたいだし俺は行くわ」
「....」
「アンタには感謝してる。色々と手を回してくれてありがとな」
「....」
「じゃあな」
「まっ...」
マーダ が別れに言葉を告げた次の瞬間には女性の前からその姿を消していた。
女性の視界にはただ闇が広がり、静寂が彼女を包むだけとなった。




