71話「平穏は脅威から生まれ恐怖にて消える7」
ー八雲 響ー
「ふぅ、これで全員か?」
響 は一呼吸つきながら周囲を見回した。
草木は無く、雪埋もれた大地がそこには広がっていた。
所によっては高く崖になっている場所があれば、大きな亀裂を作る谷にもなっている。
そして、響 の周りには鋭利な刃物で引き裂かれた腕や脚、顔が散らばり、真紅の液体が真っ白な大地を染めていた。
今も 響 の鋭い爪からは同じ液体がポタポタと音を鳴らし銀世界に赤い斑点を作り出している。
「最初の怯えていた頃が嘘の様だな、主よ」
「レオ か...その話はしないって約束だろ!... で、そっちは片付いたのか?」
「うむ」
「アタイ的には手応えなくて詰まんないよ!」
「そう吠えるな黒雪豹」
「うっ...」
響 の後ろから甲高い声をあげた一匹の豹。その体躯は真っ白の毛に点々とある黒の斑点が目立つ。
そんな豹を戒めているのはアドバイザーの魔物の レオ だ。
「まあまあ、黒雪 のお陰で楽にすんでるから怒らないであげなよ」
「主がそう言うならいいだろう」
「ふぅ...助かった...」
「にしても、最近は侵入してくる人が増えてきたな」
ダンジョンが開通してから半年、最初の一週間はまるで来ず、今となってはそんな期間があったとは嘘の様に連日何者かがやってくる。
しかし、その誰もがそこまで強いわけでもなく 響 達で簡単にあしらえてしまう場合が多い。
場合が多い、と言うのも偶に戦闘から逃げられることや、戦わず逃げられてしまうことがあるからだ。
「この様なものが通常だ。強き者が来ることなど普通はない。仮にあったとしても強き者が倒されてときだ」
「あー、確かにな。強い奴がいるなら安心して見下ろせるけど強い奴が倒されたら危険だからな」
「そんな小難しい話はどうでもいいから次はもっと手応えがある奴がいいね!」
「ははっ、俺は来ないで欲しいけどね」
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最下層に着けば入り口には背中に巨大な氷山を背負った亀がいる。
「留守番ありがとうな」
「んー、儂はこんぐれんしかできんからのぉ」
「いやいや、助かってるよ」
「んー、儂も行けりゃあいいんじゃけれのぉ」
「ごめんよ、もう少しで『転移陣』が買えるから我慢してくれ」
「んー、頼むのぉ」
ゆったりと思い口調の大亀との会話を終えた 響 に大亀の氷山の上から飛来する白い物体があった。
「きゅーっ!」
「うおっ! 危ないじゃないか 丸ウサ」
「きゅ!」
白くフワフワな毛並みで丸くなっている兎を受け止め何度目となるかわからない注意した。
兎 も聞いているのか元気な返事だけは返した。
「さて、もう侵入者も来ないと思うしご飯に....ッ!?」
食事の準備をしようとした 響 の中に突如違和感が発生した。
それは、ここ連日感じた違和感。
しかし、今回は何かが違った。
「んあ? また侵入者かい?」
「......」
「きゅう?」
慣れてしまった異物が入ってきた様な違和感。それに混じって感じる嫌悪感と吐き気。
これまでには無かった、これまでには感じられなかった。
その未知と言う名の恐怖が 響 を襲った。
「...レオ」
「どうしたのだ? 侵入者なら殺しに行かないのか?」
「...違うんだ.....今までとは...何か...違うんだ!」
「主?」
伝えられないもどかしさが、言い表せない感情が 響 を追い詰めた。
ふと気がついた時には 響 は半透明の画面を出し侵入者と思しき存在の位置情報を確認した。
「ッ!?」
「どうしたのだ主ッ!?」
「....近い」
「ぬ?」
「もう、半分以上侵攻されてるっ!」
「なんだと!?」
そして....
「来た!?」
轟音が鳴り響いた。
その大音量は 響 の言葉を潰し、砂を巻き上げ、視界を妨げた。
ただ見えるのは入り口にある三人の人影。
そして、入り口にいた大亀が横たわり倒されてしまっていること。
そして、コツコツ、と小気味良い足音を立てながら砂煙から三人の人影が近づいた。
「マスター、到着いたしました」
「ええ」
「ひ、響君っ!」
機械仕掛けの少女と 涼宮零 そして、立花香 がその正体を現した。
「か、香!? それに...涼宮さん!?」
「お久しぶり、が正しい表現かしら」
「響君助けに来たよ!」
「た、助け? 言ってる意味がわからないよ!」
「言葉通りよ。やりなさい」
「はい、マスター」
零 の指示が下りた瞬間、機械仕掛けの少女の背部からは二つのジェット噴射機が露わになり、起動した。
ゴウゴウ、と音を立てるジェット機はすぐさま爆発的な推進力を作り出し、少女を対象の元へ高速移動させた。
「ッ! さ、させないよ!」
「邪魔です」
そんな少女の行く手を遮ろうと 黒雪豹 が進行線上に立つも呆気なく吹き飛ばされてしまった。
「黒雪ッ!」
「待つのだ主ッ!」
響 は叫ぶ レオ の制止を振り切り 黒雪豹 の元へ駆け寄った。
「黒雪!」
「う...うぅ...」
「よ、良かった...」
顔面を強打され、意識は失っているものの命に別状がない。
そのことを分かった 響 は安堵の息を漏らす。
そして、邪魔者がいなくなったとばかりに少女は レオ に視線を向けた。
レオもまた肉食獣特有の鋭い眼差しを向ける。
「では、任務を果たします」
「貴様等...一体何が目的だ! 貴様等もダンジョンマスターであろう!」
「私はマスターの命に従うだけです」
「傀儡が! ダンジョンマスター...ッ!?」
レオ は 零 達に向き返りあることに気がついた。
「貴様等...アドバイザーはどうした...?」
「....」
「どうしたのか聞いてるのだ! 答えろ!」
低く、鋭い声が草原を駆け抜けた。その目はこれ以上ないくらいに開かれ、今もなお周囲を見渡し求める存在を探している。
「アドバイザー...ね...」
「答えろ!」
「いいわ。その答えは....死んだ、よ」
「し、死んだ...だと...?」
「正確には私は殺した、ね。そして、アッチは死んだ、よ」
「殺した? 死んだ? ....なら貴様等の目的はッ!」
「ええ、理解が早くて助かるわ。私達の目的は貴方を殺すこと」
「何故だ...何故その様なことをする!」
「何故? そんなの私達に利益があるからよ」
「我等が死んで利益があるだと? 逆ではないか! 我等は貴様等を補助するために居る!我等は生きてこそ意味があり、死んでは利益など起きんぞ!」
レオ は 零 の言い分を聞き全くの理解ができなかった。
そして、ただ吠えることだけとなりその叫びは...
「そう。それなら貴方は知らなかっただけね」
零 には何一つ届かない。
顔色一つ変えず、淡々と結果と結論だけを 零は述べた。
「もう用はないわ。やりなさい」
零 の指示が降った瞬間 レオ の足が一本吹き飛んだ。
「グルアアアアアアアアァアアッ!!??」
一匹の獅子の声が、悲鳴が、叫びが響き渡った。
「レオッ!」
「ダメ!」
レオ に駆け寄ろうとする 響 の腕を 香 が掴み止めた。
香 は 響 を心配して 零 と レオ が会話している間に 響 の近くに来ていた。
「香!?」
「行っちゃダメ!」
「でも...レオが!」
「行っちゃダメだよ....行くと...」
「ッ!」
香 の腕を振り抜いて レオ の元に駆け寄ろうとする 響 だが腕が抜けない。
幾ら手加減したからと言っても微動だにしなかった。
続けて力を入れても結果は変わらなかった。
そして...
「行くと...ミンナ フコウ ニ ナルヨ ?」
「ッ!?」
一瞬にして変貌した 香 の雰囲気に気圧されてしまった。
逆らってはいけない、振りほどいてはいけない、立ち向かってはいけない。
響 の本能がそう警鐘を鳴らした。
「ね? だから、ここで待ってよ?」
「.......」
何も答えられない。ただ、額と背中に冷たい物が流れるだけだった。
そんな 響 を見て納得したと受けたったのか 香 は 響 の腕から自身の腕を取り除きことの結末を見守った。
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レオ は死んだ。それが戦闘の結果だった。
レオ の死体の周囲には爆圧の跡、鋭く抉られた地面、そして真っ赤になった草達。
そんな跡地を見て 響 は涙が止まらなかった。
何がいけなかったのか?
何が悪かったのか?
どうしてこうなったのか?
何で俺には止める力がないのか?
どうして助けに動けなかったんだ?
悔やんでも悔やみきれないその後悔は 響 の頬を流れる涙と同じくらいに拭いきれない物だった。
「八雲 響」
泣き崩れる 響 に 零 が近づいた。
「貴方には二つの選択肢がある」
「.....」
零 は淡々とした声色でそう言った。それを 響 は怨敵を見る様な眼差しで睨みつけた。
「二つの...選択肢だと...?」
「一つ、私達と共に来ること」
「...何が選択だっ...お前達が...お前達が奪ったのだろう!」
「二つ.....この場で死ぬこと」
「ッ!?」
食って掛かろうとした 響 の側頭部に金属の筒が当たった。
確認しなくても 響 は理解した。銃であると。
「私達が貴方を襲ったのはあの獅子を殺すこと。現に、魔物達は死んでいない」
「れ、レオ を...殺すだけ...?」
「そう。そしてその理由は私達が利用されているから」
「利用...? レオが...?」
未だに怒りも、涙も、恐怖も治まらない 響 は拳を強く握りしめながら問うた。
「知らないことは罪であり、人は知らないことで恐怖を感じる。今から話すのは真実。奴等は...」
そう言って 零 は一つの真実を 響 に語り始めた。
締めは他のダンジョンマスター達。
これでダンジョンマスター達の時系列が並びました。
やっと、ローファンタジーに戻ってこれる...かな?




