68話「平穏は脅威から生まれ恐怖にて消える4」
屋敷に踏み入れると目に入るのは黒い汚れや埃が目立つ赤いカーペット。
腐敗し所によっては陥没している木造の床や壁、階段。
階段の近くには石で作られた像があるが、今は壊され何の像かは分からない。
「これは...お化け屋敷って言うより本当にあった屋敷か?」
レイジ は周囲に見入り更にその足を進める。
レイジ の歩みに ゼーレ と パンドラ も同調する。
そして...
「「「ッ!」」」
突如としてドアが閉まった。
「ッ!」
真っ先に動いたのは パンドラ だった。
急いでドアの元に駆け寄るが一歩届かずドアはその口を閉じた。
「闇よ...」
パンドラ は闇の剣を作りドアに斬りかかるもドアには一切の傷跡をつけることはできなかった。
「やっぱりか...」
「あ、貴方様、分かっていたのですか?」
「俺たちの世界じゃあこれは定番だからな。入ったらドアが閉じで出られなくなるって言うのが」
「ほうほう、これがお化け屋敷なんだね!」
パンドラ の動揺に レイジ は落ち着かせるように説明をした。
レイジ の説明を聞いてか、レイジ の落ち着きを見てか パンドラ は先ほどまでの焦りを鎮めた。
「そ、それでしたら早く言ってくださっても良かったのに...」
「悪い、本当に起きるか半信半疑だったからな」
「...わかりました」
振り返り屋敷を見渡すと先程までとは変わり大きな光源となっていたドアが閉じたため、周囲を照らすのは点々と天井付近に置かれボンヤリと照らす蝋燭だけとなった。
「じゃあ、進む...って ミサキ と ハクレイ はどこ行った?」
「そ、そう言えば居ませんね」
「さっき走ってどっか行っちゃったよ」
周囲を見渡す レイジ に ゼーレ が答えた。
「マジかよ...」
「ミサキちゃん居るから大丈夫じゃない?」
「それもそうか」
「ところででお兄ちゃん、この階層に階層主いるの?」
「ああ、居るぞ」
そう言って レイジ は半透明に画面を開いた。
そこには現在の位置、階層の構造と階層主の名前が載っている。
「階層主の名前は『テトラ』で、この屋敷の何処かにいるっぽいな」
「テトラちゃんかー、お話しできるといいなー」
「呑気なこと言ってるがお前は何でここにいるんだ? いつもだったら最下層で待ってるだろ?」
「えぇー、最下層で待っててもつまんないじゃん。それに、お兄ちゃん達も強くなったし ゼーレ が行っても守ってくれるでしょ?」
ゼーレ は軽い口調で上目遣いに レイジ を覗き込んだ。
その目には何かしらの期待の光が爛々と宿っている。
「はぁ、分かったよ」
「やたー! じゃあお兄ちゃん ゼーレを守ってね?」
「パンドラ 頼んだ」
「承知しましたわ」
「えぇ!? ゼーレ はお兄ちゃんに守って欲しいな!」
「ハクレイ が見つかったら ハクレイ に守らせよう。アイツの方が適任だからな」
「違うよ!? ハクレイちゃんじゃなくてお兄ちゃんだよ! ゼーレ を守るのに適任なのはいつだってお兄ちゃんだよ!」
「あー、はいはい、機会があったらな」
「言ったからね! 言質とったからね!」
「覚えてたらな」
そう言って レイジ は軽くあしらい暗く見えにくいため慎重に足を進めた。
そして、その背後では...
「ゼーレ様、その機械は何でしょうか?」
「あ、コレ? これは音を録音する機械だよ」
「音? それが何の役に立つのですか?」
「ふふふー、秘密。乙女には秘密がいっぱいあるのだよ」
ゼーレ と パンドラ が小さな声で会話が繰り広げられていた。
ゼーレ は人差し指を口元に添え悪戯っぽく質問に返答すると パンドラ に見つかった機械を丁重にポケットにしまい レイジ の後を追いかけた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
「なぁーんも居ないっすね」
「ん...」
屋敷の二階。
ハクレイ と ミサキ は レイジ達を置き去りに既に二階への階段を駆け上がっていた。
一階同様に腐敗の進んだ壁や床。点々と存在する唯一の光源の蝋燭。そして、一階とは違い廊下を挟んだ左右には幾つもの扉。
「とりあえずどうするっすか?」
「たんさくの...ていばん...へや...かくにん」
「さすが ミサキ先輩、分かってるっすね」
「ん...」
戦慄したと言わんばかりに声のトーンを下げながら賞賛の言葉を送る ハクレイ。
その雰囲気に気を良くしたのか ミサキ もどこか誇らしそうな表情を浮かべている。
「じゃあ...行くっすよ」
「ん...」
恐る恐る ハクレイ は一番近くの扉に手をかけた。
ノブ式の扉はガチャリと小気味の良い音をたてながらゆっくりと動いた。
「こ、これは...」
ハクレイ の視界の先にあったのは古ぼけた寝室だった。
埃被った寝具やタンスなどの生活品。
天井の角には蜘蛛の巣が張り巡らされその古めかしさを一層際立たせている。
そして、カラス製の窓は無惨にも割れ外から差し込む月光が部屋の中を照らしていた。
「む...」
「ザ、寝室っすね。何かめぼしいものはあるっすかね」
「...........ない」
「早いっす! まだ何も探してないっすよ!?」
「もう...みてきた...」
ミサキ はその体を僅かに浮かせながらそう言った。
「さ、流石っすね」
「ん...つぎ...」
「りょ、了解っす」
今度こそ演技なしで戦慄した ハクレイ は ミサキ に従い部屋を出た。
その光景はさながら隊長と部下の構図によく似ていた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
「一階は何もなしか...」
一階を一通り見て回った レイジ が呟いた。
厨房、大広間、倉庫等を見たがどれも埃が被った状態だった。
その中で一番ひどかったのは厨房の倉庫。
中のモノは腐り、特有の匂いが充満していた。
あまりの腐乱臭に レイジ 達は探索を途中で切り上げるほどだった。
「アレ、何の匂いだろうな...」
「厨房の倉庫のこと?」
「そう」
「肉の腐った匂い...に似てた気がしますわ」
「そうなん? っていうか何でわかるんだ?」
「魔界では度々出会いますから」
「そ、そうか...」
匂いの正体に気づいた パンドラ が自信満々に答えるも、その裏にある過程に何とも言えない レイジ は次の言葉が出なかった。
「じゃー、二階に登ろっか」
レイジ の心情を知ってか知らずか ゼーレ はそう言い、二階への階段を登り、レイジ と パンドラ も ゼーレ に続いた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
二階に着けば左右に扉がいくつも並んでいた。
ただし、その扉は全て開かれていた。
「あー、これは ハクレイ 達の仕業か?」
「そうじゃないかな?」
「ですと、ここを探しても何もないのではないでしょうか?」
「そうなんだよな。だが、一応探しておくか。見落としがあるかもしれないし」
「分かりました」
「はーい」
パンドラ と ゼーレ の了承を確認した レイジ が手前の部屋に入ろうとした時...
「ひゃああああああああああぁぁ!!」
上の階で ハクレイ の悲鳴が響き渡った。
何だかクトゥルフっぽいぜ...




