63話「罪深きゲッケイの落とし子4」
前半は茶番。後半はちょいシリアス。
どうぞお付き合い下さい。
「ミサキ...ミサキ...」
名前が『ミサキ』と決まった少女は分かりにくいが喜んでいた。
その証拠に口元が僅かにだが上がり、頬が少しだが朱色に染まっている。
「終わった...」
対する レイジ はようやくの思いで恐怖から解放された。
その目は遥か遠くを見つめ、顔色は蒼白になっている。
「お疲れー」
そんな レイジ の様子を見て慰めに来たのか茶化しに来たのか ゼーレ がやって来た。
「...あ! ゼーレお前!」
「いやー、中々面白かったよ!」
「面白いわけあるか! 死ぬかとお思ったわ!」
「良いじゃん良いじゃん! コレがレイ...ミサキちゃんの愛の表現だよ!」
「嫌だよそんな愛の表現! 気に入らないからって理由で『どこ切って欲しい?』って聞かれんだぞ!?」
「もー、それが可愛いじゃないかー」
「最初は爪を剥ぐって言い始め、次は指を切る...終いには....食べるって....」
「愛されてるねぇ」
「コレが愛なのか!? 絶対 ミサキ は俺のこと...」
「なに..ますたー...?」
「ヒッ」
自分の名前が呼ばれた瞬間、技能を使ってまでして レイジ のことへ戻って来た。
「ミサキちゃん 良かったね!」
「うん...」
「ところでさっき言ってた食べるってお兄ちゃんの何を食べるの?」
「ぜんぶ...」
「全部?」
「そう...ぜんぶ...ぶつりてきに...」
「物理的に!? 何俺調理でもされるの!?」
「ますたーを...かんじる...ずっと...いっしょ...」
「もうやだ...」
「それに...あ、これ...いってよかったっけ...?」
ミサキ は何かを確認するかの様なそぶりを見せた。
そして エイナ の入っているカプセルを一瞥した。
「ま...いっか...エイナも...ますたーの..髪とか爪とか...あつめてた...」
「エイナッ!?」
「道理で最近見ないと思ったらそういうことだったのか!」
「ゼーレ お前もか!?」
レイジ は以前爪を切りたいけどゴミはどこに捨てれば良いかと ゼーレ に相談した時
『ダンジョンが勝手に吸収するからそこらへんに捨てておけば良いよー』
と言っていたことを思い出した。
「あとは...パンドラも...」
「はい、私がどうかしましたか?」
ミサキ が パンドラ の名前を出した丁度の時、偶々やってきた パンドラ は食いついた。
「ますたーの...ふく...においかいでた...」
「パンドラさん!?」
「ッ!? な、なななぜそれを、ではなくそ、そんなことしてまませんわ!」
明らかに動揺する パンドラ。
さながら名探偵を気取った様に ミサキ は言い放った。
「私の...めは...ごまかせ...ない...!」
「何やってるんすか? やけに騒がしいっすよ」
騒ぎにつられてか ハクレイ までもがやってきた。
「は、ハクレイか...。そうだ! お前は変なことしてないよな!?」
「へ、変なことっすか?」
「そうだ! 俺の髪や爪を集めたりとか」
「しないっすね」
「服の匂いを嗅いだりとか」
「やらないっすね」
「俺を調理して食べたいとか」
「思ったこともないっす」
「は、ハクレイッ!」
レイジ は色々な意味で歓喜した。
やっとマトモな人材がいたことに、ハクレイ の重要性に今になって気づいた。
だが...
「このまえ...ますたーの...おふろ...のぞいてなかった...?」
ミサキ の一言に ハクレイ に抱きつきそうになっていた レイジ の動きが止まった。
「ッッッッッ!?」
「は...ハクレイ...?」
「はくれいの...のうりょく...だんじょんないなら...どこでも...みほうだい...」
「な、何故それを!?」
「私は...しってる...ますたー...まもるため...」
「な、なら先輩達だって...」
そう言って誰かが誰かに罪をなすりつける戦いが始まった。
この時 レイジ は強く思った。
一日も早くダンジョンを出ようと。
一日でも早く強くなろうと。
理由は、怖いから。いつかこの少女達に色々されるんじゃないかと不安になったから。
(頑張りぃや旦那)
(妖刀...)
(旦那も案外...嫌じゃないんやろ?)
(...)
そう、レイジ の中では ミサキ達を憎むことも嫌うこともなかった。
純粋に嬉しかった、という気持ちは強かった。怖いと感じる部分もあるが。
だから レイジ はより一層に エイナ を救いたいとも思い日々が足早に過ぎて行った。
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ー異世界某所ー
冒険者ギルドの最上階では一人の大男と女性、ロートがいた。
「マジかよ...」
「ギルドに所属するAランクが事実上の負け、騎士団の副団長は死亡、暗殺ギルド幹部は行方不明、ですか」
「う...うっぐ...ひっぐ...」
大男と女性は ロート から今回の以来の結果を聞いていた。
ロート が片腕を失い、一人で帰ってきたと聞いた時点で嫌な予感はしていた。
それがこうも最悪の結果を生み出しているとまでは考えていなかったために驚愕の度合いは大きかった。
「だって! 意味わがんないんだもん! なんなのあいづ!」
ロート は ミサキ を思い出しているのか涙を流し、手近にある物に怒りをぶつけている。
「...」
「...」
その様子を見かねたのか大男が女性に目配せをした。
その目配せの意味を理解した女性は ロート に近づいた。
「ロート、あなたは頑張りました。辛かったでしょう。今は少しでも良いから落ち着きなさい」
「ぞんなの!ぞんなのむりだよ!」
「...わかりました。では、下に行って休んで下さい。腕の方も回復魔法をかければ治るでしょう」
「...........」
「ロート?」
「.....わがっだ」
そう言って ロート は渋々だが部屋から出て行った。
「....はあああぁぁ」
「随分...長いため息ですね」
「そりゃあ深いもんを吐きたくなるでしょ」
「でしょうね」
「まさかまさかとは思っていたが、ここまでとはな....」
大男の表情は次に起きることを予想しているのかより一層の疲れが見える。
「...もう止めらんねぇぞ」
「止められませんか?」
「ああ、無理だね。この世界でアイツを止められるやつなんて居やしねえよ」
「本当に無理なのですか?...元勇者パーティー騎士である貴方でも?」
女性が言った一言が余計だったのか大男の顔つきは真剣そのものになった。
「...ああ、無理だね。幼馴染として言ってやれるくらいはできるが現役退いて15年。流石に止めるには歳食い過ぎただろ」
「....」
「お前はどの位でアイツが戻ってくると思う?」
「勇者達は今、魔王のダンジョンの中腹にいるでしょう。遅くて一年ほどかかるのでは?」
「はぁ...そうだよな、一年しかねぇんだよな。一年であのダンジョン潰せると思う?」
大男の問いに女性は暫く考え答えを出した。
「無理でしょうね。騎士団はこの件を切っ掛けに動かないでしょう。暗殺ギルドも同様。冒険者ギルドとしてもAランク以上を集めそう攻撃しても良いでしょうが話を聞く限りでは割に合わない被害が出るでしょう」
女性の答えと同意見だったのか大男はまたもや深いため息を吐いた。
そして、瞑目した。
「....そりゃあ、娘を殺されたんだ...怒るのは分かるけどよぉ」
「...」
短くない付き合いの女性は大男のつぶやきが独り言であり、邪魔しない方が良いことを知っていた。
「あんまし...恨みを買う様なことしねぇで欲しいんだわな...」
「....」
そして、大男は目を開けた。
「世界が滅びなけりゃあ...いいんだがな」
不吉な、どこか予言染みた言葉が大男の口から溢れた。




