64話「罪深きゲッケイの落とし子5」
長めです。
ーとあるダンジョンー
ーパリーン
光源の少ない薄暗い場所で何かが爆ぜる音が甲高く鳴り響いた。
「ッッ!?」
音の出所は男の首元からだった。
「ん? どうしたアレックス?」
アレックス と呼ばれた男。
金色の長めの髪に碧眼。容姿端麗と誰もが認めるだろう整った容姿。
様々な装飾が施された輝く白銀の鎧で全身を包み、腰には鎧以上にきらびやかな鞘、そして納刀されている剣。
さながら勇者と呼ぶにはふさわしい存在であろう。
そして、アレックス と呼んだ男。
全身を鎧で包み、頭には甲冑を被っている。その為その表情は読み取れない。
手には少し大きめのランスと盾。そのどれもが アレックス には劣るものの煌びやかな装飾と光り輝く白銀色だ。
「....『誓いの水晶』が割れた」
「水晶? それって...」
「行かねえと!」
「ちょ、おい!」
血相を変え、すぐさま来た道を引き返そうとする アレックス をどうにか男が止めた。
「離せ!」
「い、一旦落ち着けって!」
「なになにー、何してんのー エルグランド?」
「パローラ! アレックス を止めるのを手伝ってくれ!」
「んー、りょーかーい」
パローラ そう呼ばれた女性は全身を黒一色のローブで包まれていた。
そのローブは傷一つなく、簡素ながらも装飾は施されている。
頭には三角帽子を被り、長く癖のついた髪が帽子に収まらず跳ねている。
眼鏡をかけたその容姿は何処か不健康にも見えるがその病弱な雰囲気が逆に色気を出していた。
「よー」
パローラ はやる気の感じられない掛け声と共に魔法陣を作り上げ、アレックス にぶつけた。
「うっ....これは...睡魔法か...」
「そーよー。ちょーと眠っててねー」
「お...俺は...ラルカを....」
その一言を最後に アレックス は穏やかな寝息を立て、眠ってしまった。
「でー、これどーゆーことー?」
現状の理解が追いついていない パローラ が エルグランド に質問した。
「わからねえ。何だっけか、何とかの水晶ってのが割れてから急に態度が変わったんだ」
「んー?」
事情を聞いた パローラ が アレックス の首元を見た。
「あー、『誓いの水晶』かー」
「あ、そうだそれだ」
「これはー、ちょーぉっとマズイかもー」
「その水晶って何なんだ?」
「『誓いの水晶』簡単に言うとー、死んだら分かるってとこかなー」
「死んだら分かる? 割れて分かるってことか?」
「そーゆーことー。僕はーこの対象を知らないけどー、エルグランドはー知ってるー?」
質問された エルグランド は自身の記憶を辿った。
自分が初めて アレックス に出会った時まで辿った。
「すまんが俺があった時からつけていた気がする」
「んー、やっぱ新参組じゃー、わかんないかー」
「こういうのは初期からいる テレス に聞いた方が良さそうだな」
「そだねー」
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アレックス が眠ってから十分ほど、一人の女性と、男性がやってきた。
「ただいま戻りましたわ」
女性は美しかった。
白銀の長い髪と髪色と同色の瞳。
整った容姿は限度を超え、もはや一種の芸術的な造形にまで達している。
そして身を包むのは白いドレスの様な服。その服には一切の泥や埃はおろか皺一つない。
手に持つのは黄金の錫杖。
女性が歩くたびに揺れ、心地の良い音色が響き渡る。
「かったりー」
もう一人の男。
動きやすいスーツの様な服装。腰にはいくつものポーチやナイフの類。
汚れない様にか頭には布を巻きつけ、顔まで保護している。
「おーつーかーれー」
「帰って来て悪いんだが テレス は アレックス の水晶について知ってないか?」
帰って来たばかりの女性、テレス に エルグランド は尋ねた。
「水晶? 『誓いの水晶』のことでしょうか?」
「ああ、それだ」
「それでしたら、お相手はラルカ様ですわね」
「ラルカ?」
「アレックス様のご息女ですわ」
「マジか...」
「あー、そりゃー、やばいねー」
テレス の一言を聞いた エルグランド は血相を変え、パローラ もまた隠しきれないほど動揺した。
「何かあったのでしょうか?」
「じ、実はだな...」
そう言って エルグランド は自身が見たものを説明した。
「...それは」
「アレックス とは短い付き合いだが俺でも分かる。コイツは娘さんの所に行くぞ」
「そうでしょう。パローラ様、アレックス様は後どのくらいで目覚めるのでしょうか?」
「んー、どうかなー、相手が勇者だしー、持って十分?」
「じゅ、十分っておい、そりゃあ早すぎんだろ!?」
「しーかーたーなーいーしー。これー、超強力なんだよー。普通ならー、三日は寝るー」
「...流石勇者ってところか。テレス は止められないのか?」
「難しいですわね。私は戦うことを専門としていませんので...」
「クソったれ!ここまで来たってのによ!」
「ザット! 落ち着け!」
どうしようもないくらいに現状が打破できないことに スーツ姿の男、ザット は地面を殴りつけ、それを見た エルグランド が注意した。
「...ともかく、私達は アレックス様に同行して出た方が良いでしょう」
「僕も賛成ー。流石にー、魔王のダンジョンにー、勇者無しでー挑むのはー厳しー」
「その方が良さそうだな」
「チクショウ...」
ほぼ満場一致で現場は決まってしまった。
圧倒的な力を持つ勇者と言う権限の名の下に。
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ー異世界某所ー
そこは真っ暗な部屋だった。
何も見えない、何も聞こえない。ただそこには闇が図太く、無関心に居座っていた。
「ただいま帰りましたよーっと」
そこに一人の男、マーダの声が木霊した。
受け答えする相手はいない。
「はぁ、しゃーねーな」
マーダ は右も左も見えない道無き道を何とも思わずに進み出した。
そして、目的地にたどり着いたのか手探りで何かを探し始めた。
「っと...多分ここら辺に...お、あったあった」
探し物が見つかったのか マーダ は手に入れたもののスイッチを押した。
スイッチを押すと部屋にはわずかな光が灯った。
「ッチ、生きてやがったか」
何処からともなく声がした。
シワがれたその声には敵意しかなく、マーダ に悪態をぶつけた。
「おいおい、その言い方は酷くねぇか?」
「ハッ! 何がヒデェんだ?ん?言ってみろよ!」
「可愛い可愛い最後のギルドメンバーが帰って来たんだぜ?」
「笑わせるな!」
茶化した様子の マーダ にシワがれた声は本気の怒りを示した。
「何が最後のギルドメンバーだ! 貴様が俺の皮を剥ぎ、乗っ取り、ギルドを崩壊させたんだろ!えぇ?違うか!」
「いやいや、違わないね」
「何の意味があってこんなことをしやがった! 何の理由があってこんな目に合わせやがった!」
「そりゃあ、必要だからな」
「貴様の独り善がりがどれだけのメンバーを殺したかッ!」
マーダ と 声は話が噛み合っていない。
漫然と悠然と独善と説明する マーダ に対して シワがれた声はただ怒りを露わにするだけだった。
「貴様を殺す!絶対に殺す!呪い殺す!」
「あーあ、こりゃあもうダメだな」
「コロズウウウゥううぅ!」
声の怒りに反比例して灯火は小さくなっていった。
「早死にするぞ?」
「コロズ!コロズ!」
「はぁ、仕方ねえな。そんなに死にたいなら殺してやるよ」
マーダ は手を振った。
それだけで灯火は消え、部屋は最初と同じ様に闇に包まれた。
「コ...ロ...ズ...うら...ぎ...り...も.........の...」
「裏切り者、ねぇ。的を得てるよ」
そう言って マーダ は部屋を出るためにドアノブに手をかけた。
「おっと、枕元に立たれても気分良くないから一応教えてやるよ」
マーダ は誰もいない部屋に声をかけた。
「俺の名はマーダ、昔は ゲッケイ って名乗ってたな。そして俺は...」
マーダ は一つの決意の様な心構えで言った。
「勇者を殺す男だ」
その言葉を最後に マーダ は部屋を出た。
そして、その扉が二度と開くことはなかった。




