48話「這い寄る影、蠢く破滅、その先に3」
「...ここでの戦闘は避ける...ってところかな」
レイジは額に汗を滲ませ、苦虫を潰したような表情でそう言った。
「とりあえず階層主は設定しておこう。誰かやりたい奴はいるか?」
レイジの問いに手をあげる者はいなかった。
この劣悪の環境下、仮に生まれた自身の下位の魔物達が生き延びれる自信が各々には無かった。
「そうか...。ま、別に絶対に設定する必要もないし、この環境だけでも十分か...」
「あ、貴方様!」
レイジが現状に満足するとパンドラが声をあげた。
「...この話を持ちかけたのは私です。ですので、階層主は私にお任せください」
「いや別に、階層の増築は元からあった予定だ。気を負う必要は無いんだぞ?」
「いえ! これは私の余計な気持ちが招いた結果...」
「いやだから...」
「それに、私の下位の魔物なら生きられるかもしれません! ですから!」
「...」
パンドラの真剣な説得と表情にレイジは悩んだ。
そして、
「...わかった。この階層の階層主はパンドラにする」
悩んだ末にレイジはパンドラにこの厳しい環境の階層の階層主を任せることにした。
「あ、ありがとうございます!」
「ま、別にこの階層で戦わなければいい話だからな。さて、戻るか」
「はい!」
レイジの提案にパンドラは元気に返し、他の魔物達も二人の後に続いた。
「...自分の先輩ってどんな環境に住んでたんすかね」
一人、餓鬼をよく知らないハクレイがポツリとそう呟きながら最後尾を歩いていった。
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最下層に戻るとゼーレがベットの布団から顔を出していた。
そのベットはここ数日レイジが寝るために購入された物だった。
勿論、ゼーレ自身の物もある。
「あ、お帰りー」
ゼーレは冬場にコタツに潜り込む猫のように幸せそうな表情で出迎えた。
「なぁ、ゼーレ...」
「ん? なあに?」
「そのベット...俺のだよな?」
「そうだねー」
「いつも寝るなら自分のベットで寝ろって言ってるだろ!」
「いつもお兄ちゃんのベットで寝たいって言ってるでしょ!」
注意するレイジに逆ギレするゼーレ。
この光景はベットを購入した日から何度も起きている。
「...ったく、俺のベットで寝る理由がわからんぞ」
「もう、温もりがあるって言ってるでしょ」
「ゼーレお姉様ぁ、私も入って良いですかぁ?」
「もちろん! おいでー」
「わぁい!」
「あ、おい!」
ゼーレの姿を見ていたエイナは許可を取りレイジのベットの中に入っていった。
レイジの中止を無視しながら。
「あったかいねー」
「そうですねぇ」
「...いい..な...」
「あ、あの...私も...」
「待てパンドラ! 行くな! お前が行けば収集が本当に着かなくなる!」
「え? あ、はい...」
「それでお兄ちゃん、新しい階層はどうだったの?」
ゼーレ達を見て行動を起こそうとする面々を必死に止めるレイジにゼーレがベットから顔を出しながら聞いた。
「...結構意外な階層だったよ」
「どんな感じ?」
「一言で言えば砂漠だな。そして、入り口がランダムな場所に現れる可能性がある」
「....ふーん、なんか面白い階層だね」
「ああ、それに環境が厳しい上に目印もないから移動が正確にできない分奇襲も向かないな」
「まぁ、足止めだけでも十分効果ありそうだけど」
「やっぱそうなるよな...ッ!」
この瞬間、レイジは不快感に襲われた。
「うっ...」
「どうしたのお兄ちゃん!? ...まさか!」
急に苦しみ出したレイジを見たゼーレはすぐさま布団から抜け出し駆け寄った。
そして、レイジの姿を見て何が起きているかを感じ取った。
「ああ、そのまさかだ...」
レイジは嫌な気分に耐えながら言葉を続けた。
「...侵入者だ」
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ー異世界某所ー
冒険者ギルド受付にて何処か似ている二人の少女が一枚の紙を持ってやってきた。
「いらっしゃいま...ヒッ!」
受付嬢は笑顔で対応しようとした。
しかし、少女達の風貌を見て声が裏返ってしまった。
「お姉ちゃん怖がられてるよ」
お姉ちゃん、と呼ぶ少女は短く切りそろえられた赤髪を揺らし片方の少女を金色の瞳で見た。
その服装は動きやすさを重視した半袖短パン。
腰には左右に一つずつポーチをつけている。
そして、背中には少女の背丈を越える大きな金棒が背負われていた。
「私じゃなくて怖がられてるのはあなたよ」
言い返した少女は同様に短く切りそろえられている青い髪を揺らし、金色の眼差しを向け返した。
こちらも動きやすさを重視した半袖短パン。
だが、ポーチは持っていない。その代わりに背中にはリュックを一つ背負っている。
そして、そのリュックと背中の間には少女の背丈を越える大きな鎌が挟まっていた。
そして、その二人の少女を見た周りが騒がしくなった。
「お、おいアレって...」
「ああ、姉妹揃って上級冒険者の『鬼姉妹』だ」
「嘘だろ? 『鬼姉妹』と言やあ...」
「ああ、姉は『恐怖を誘う大鎌』のブラウ・ヴァオレット。妹の方は『恐怖を与える金棒』のロート・ヴァオレットだ」
「何だってこんなところに...」
「何でも、最近現れたダンジョンの危険度が上がったらしい」
「ああ、それでか...」
しかし、そんな騒めきは少女たちにとっては囀りでしかなかった。
「で、この依頼なのだけど」
「は、はいぃ! 」
「受理してくれますか?」
「あ、あの、一応冒険者カードを確認しても...ひっ」
「ではこれを」
「はいどーぞ」
少女達は慣れたように冒険者カードを差し出した。
「は、はい。た、確かに本人と確認しました。で、ではお気をつけて...」
「ええ、ありがとう」
「じゃーねー」
少女達は受付嬢からカードと受注確認書貰いギルドを後にした。




