39話「平穏と窮地の表裏1」
本編です。
シリアス:ほのぼの:何か=0:4:6 位で書いています。
白煙が収まりレイジ達の視界が開けた。
初の侵入者は死亡、撃退と言う幸先の良い結果となった。
そして、レイジとパンドラの元にレイスが近寄ってきた...
「ただ...いま...ます..たー」
「おう、おか...何を持ってる?」
ガレスの首を持って。
「これ...お礼...」
「...取り敢えず聞こう。何のお礼だ?」
「戦闘...サポー...ト...」
「俺が?いつ?」
「ず...っと...」
身に覚えのないレイジは、ハタと首を傾げた。
そこに、何かを察したパンドラが口を挟んだ。
「貴方様、今回の戦闘の間ずっと相手の魔力を阻害していたことに気づいていますか?」
「え? 俺が?」
「はい。恐らく、餓鬼様の力の一旦だと思われますが」
その言葉にレイジは驚いた。
餓鬼が言っていた『力』と言うものが無意識のうちに発動していることに。
そして、自らも今後は戦いに参加できるかもしれないと言う希望が見えたことに。
「...餓鬼。...ありがとう」
自然とレイジの口からは餓鬼への感謝が溢れた。
「...やはり、彼の方が羨ましいですね」
「う...ん...」
そんなレイジを見て二体の魔物は羨望と嫉妬を口にした。
そして、レイジ達が話しているところに黒い影が近ずいてきた。
「ただいま戻りましたぁ、お兄様ぁ」
「お、ファントムおか....え?」
レイジは振り返った。
それはもう、風を割くほどの速さで。
そして、レイジの前には黒いマネキンのような存在はなかった。
居たのは、小学生くらいの身長の女の子だった。
地面まで伸ばした黒いストレートの髪、瞳は大きく髪と同色の黒。
更に、裾には若干のフリルをあしらった黒いワンピースをなびかせ、手にはレイジをモチーフにしたような人形を持っていた。
「どうかしましたかぁ?」
そう言って目の前にいる少女は首を傾げた。
「お前...ファントムか?」
「はい、そうですよぉ。もしかして...」
目の前にいる少女は気の抜けるような声と、笑顔で話していたが、
「私のこと...忘れちゃったのですか?」
次の瞬間、瞳の奥の光が消えていた。
その冷たく、何処までも貫いてしまいそうな瞳を向けられたレイジの背中には冷たいものは走った。
「嘘ですよね?冗談ですよね?お兄様が私を見間違えるなんて。お兄様が私に気づかないなんて。そんな事あるはずがありませんよね?あって良いはずがありませんよね?お兄様?私の声が聞こえてますか?どうして返事をしてくれないのですか?」
その圧迫感に、威圧感にレイジはある種の恐怖と危機を感じた。
そして、
「あ、ああ! 勿論冗談だ。ちょっとファントムの成長に驚いただけだ!ははははっ」
全く笑えていないぎこちない笑顔と無理矢理な笑い声を上げた。
「まぁ!そうでしたの?それでしたら無理もありませんねぇ」
そんなレイジの反応に少女は頬を朱に染め照れていた。
「でしたら、お兄様ぁ」
「な、なんだ?」
「私の姿...どうでしょうかぁ?可愛いですかぁ?お兄様好みに進化できていますかぁ?」
少女は照れながらレイジを上目遣いに見つめ聞いてきた。
この時、レイジは思った。
俺の好みはいつからロリになっているんだ?、と。
勿論、そんなことは口にできなかった。
だって、怖いから。
「あ、ああ。凄ぇ可愛いぜ!」
レイジはサムズアップしながらそう言った。
「で、でしたらぁ」
レイジの応えてに更に照れた少女は身体をくねらせながら次なる試練を与えてきた。
「私にお名前をください、お兄様ぁ!」
「....え?」
この瞬間、レイジの中の時間が止まった。
だが、そんなことは目の前の少女が許さなかった。
「どうかしたのですか?私はお兄様にお兄様好みの名前を付けて欲しいだけです!つけて下さりますよね?だってお兄様の為にお兄様が好んでくれるような姿に私はなったのですから。お兄様が私を嫌うはずなんてありませんよね?あって良いはずがありませんよね?どうして固まってるのですか?私の名前を考えてくださっていますか?」
レイジに許される道はなかった。
そもそも、一部業界を除きこんな状況に立たされれば困る。色々な意味で。
そして、レイジはついパンドラに視線を送ってしまった。
「私達魔物は進化すると名前を欲しがる欲求にかられるのですよ」
パンドラは笑顔でそう答えた。
「お願いしますね、お兄様ぁ」
視線を戻せば黒髪の少女が笑顔でそう言った。
こうしてこの後、1時間に及ぶレイジの試練が続いた。




