38話「世界を統べる者、全てを統べる者」
閑話です。
ー???ー
『あーあ、これで終わりか』
真っ白な空間。
右も左も、上も下もないこの空間に“声”だけが響いた。
そして、そこにコツコツと足音が鳴った。
『ん?君は』
声は現れた女性に反応した。
「ようやく...ようやく見つけました」
現れたのは絶世の美女。
金色の髪はウェーブをかけ背中まで伸び、手には一本の神々しい杖を握りしめ、ゆったりとした衣を纏っている。
そして、髪と同色の瞳は “何か” を捉えていた。
「貴方が...貴方さえいなければ...」
『彼女は死ななかった、かい?』
「ッ!」
『図星か。わざわざこんな所まで来て言いに来たのはそれだけかい? 時の女神よ』
「....」
時の女神と呼ばれた女性は静かに睨みつけた。
『人間一人に随分熱心なことだね』
「...貴方は」
『ん?』
「貴方は何も思わないのですか?」
『何を思うんだい?』
「貴方がこの世界に降りてから全て変わってしまったのですよ!」
カラカラと受け答えする “声” の存在に女神は声を荒げた。
「地上も、そこに生きている生命も、ましてや...世界の理までも。全部...全部変わってしまったのですよッ!」
『...』
「どれだけの大地が声を上げたのか...どれほどの命が失われたのか...どれだけの神が消滅したのか。貴方にはわからないのですかッ!?」
女神は悲しみの表情で、強く訴えた。
しかし、
『ああ、わからないね』
“声” は何も感じられない答えを出した。
「ッ! どうして!?」
『どうしても何も、君達の方がわかっていないからだよ』
「な、なにを...」
『この世界の真理だよ』
「真...理? 何を言って...」
『君達は世界を守る神だよね?』
「...」
『君達は本当にこの世界を守れているのかい?』
「なッ! それは貴方が...」
『いいや、それ以前のことだ』
自らの存在意義を、脅かす存在に問われ否定され女神は憤った。
それに対し、“声” は駄々をこねる子供を相手するように問うた。
『君達はこの世界を作り、守り、時には均衡を保つために破壊すらするだろう。何の為に?』
「...それは、世界を守るためです」
『何を犠牲にしている?』
「...そこに在る命です」
『何を考えて?』
「だからッ!世界を守る為ですッ!」
女神は淡々と理解出来ない質問に耐えることができなかった。
「何なのですかッ!この問答に何の意味があるのですかッ!?」
『意味はあるよ』
「だったらッ!」
『君たちが何もわかっていない、という証明のね』
「ッ!?」
女神は気圧された。
何もない空間から放たれる威圧に。
憤怒か、憎悪か、嫉妬か、同情か。
ただ、女神は目の前に在る存在に自身が毛ほども意味を与えておらず、意味を持っていないことだけが理解してしまった。
『もう一度問おう。君達は何を考えている?』
「だから、世界を...」
『君達は何を犠牲にしている?』
「それは、そこに在る...」
『君達は何故この世界を守っている?』
「だから...だから?」
女神はこの時初めて “声” の問いに向かい合った。
何故この世界を守っている?
この問に女神の頭が混乱した。
「...」
『理由がないのかい?』
「...」
『誰かに頼まれたのかい?』
「...」
『...』
「...」
両者の間に暫しの沈黙が現れた。
一方は答えを探すことに沈黙した。
一方は答えを待つことに沈黙した。
そして、沈黙は破られた。
『君たちは何も知らない。何故、世界を守っているのかを』
「...」
『何処で生まれ、どうやってここにやって来たのかを』
「...て...さい...」
『そして、世界がここだけではないことを』
「もうっ!」
女神は両手で美しい髪を掻き毟り、大きな声を出した。
自身の存在意義を否定されるのは悔しいのか
自身が何も知らずに存在していたことが恥ずかしいのか
それとも...
「もう...やめて下さい...」
頬には幾筋の涙が通り、苦悶の表情を浮かべていた。
考えたくない、聞きたくない、そんな気持ちがヒシヒシと伝わった。
『なら、最後に一つ問おう』
「なに...を...」
『君は僕を知っているかい?』
女神は恐れていた “声” の質問に強張ったが、打ち出された内容に唖然とした。
「それは.........?」
だが、女神の思考が止まった。
先程までわかっていたのに、知っていたのに声に出せない、思い出せないでいた。
「あ...れ?」
『残念だ』
この時、
『僕の名は』
とある世界にいた『時』を統べる一柱の神が
『アザトホースだよ』
その存在を消した。
次話から本編です。




