35話「祈りを願いに、願いを力に5」
「うん、わかった信じるよ」
ーーーは千代の必死な態度を見てそう言った。
「...え?」
「だから、あなたの事を信じるって言ったの」
「..でも...」
「嘘じゃないんでしょ?」
「うん」
「騙しているわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「だったら、私はあなたのことを信じる」
「...うん!」
千代の瞳から涙が流れた。
自分自身でも言ってることに根拠も、証拠もないことはわかっていた。
それゆえに、信じてもらえることを心の底からは思えなかった。
だから...
「これで...これで...ーーーちゃんを助けられる...。これでいいんだよね...?」
誰かに向けた疑問だろうか。
千代の口からは安堵の言葉が漏れた。
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「どうしてッ!?」
千代の叫び声が木霊した。
「なんでッ!」
千代はーーーの肩を揺すっていた。
「...ごめん...ね」
「なんで...なんで...信じるって...信じてくれるって言ったよねッ!」
「ゴメンね...ホントウにゴメンね...」
ーーーの口から血が流れた。
片腕を切り落とされ、両足を消失させていた。
消失した両足は焼け焦げているため出血はない。
しかし、切り落とされた腕からは血が今も留めなく流れている。
「嘘つきッ!」
「ゴメンね...私...あなたを...信じられなかった...」
周りを見えれば焼ける家々、人を襲う魔物、叫び逃げ惑う人々、燃える炎に飛び込む魔物達。
炎は夜空に舞い上がり、黒い煙が花を作る。
焦げた匂いが鼻を突き、叫ぶ高い声が耳を突く。
「なんで!何がいけなかったのッ!?」
「だって...あなた...不思議なんだもん...。
わかんない...よ...。こんな事...信じられないよ...」
千代の問いかけにーーーは途切れ途切れに応える。
「私がいけなかったの?どうしたら貴方を救えたの?」
「ゴメンね...信じてあげられなくて...ゴメン...ね...」
次なる千代の問いにはーーーはただ謝るばかりだった。
「ゴメン...ね...」
その謝罪は何に対してだろうか。
千代を信じなかったことか。
千代を悲しませたことか。
千代を裏切ったことか。
千代にはわからなかった。
そして...
「もう一度...やり直したい...な...」
その一言を最後にーーーの瞳から光が消えた。
その表情は後悔と懺悔に彩られていた。
「...ーーー?ーーーッ! ねぇ! 起きて! ーーーッ!」
千代は何度も何度もーーーを揺さぶった。
「起きてッ! 起きてよッ!許すからッ! 信じてくれなかったこと許すからッ! やり直そ....グヘェ!」
千代がーーーを揺さぶって起こそうとしている時、腕が、また、腕が、
「な...ん...。だ...れ...?...オエぇ!」
千代の胸部と腹部の間を貫いた。
喉元が焼ける。
手足が動かない。
視界が赤く染まる。
息することが苦しい。
それでも、
「う,..うぅ...。ぜ...っだい....だず...げる...がら」
絶対助けるから、
その一言を、願いを、決意を、
最後に千代の意識が闇に落ちた。




