ダンジョン19話
魔法の制御ミスで疲れている北原君を連れた私達は安全地帯で昼休憩を取っていた。
使った後は疲れ切った様子を見せていた北原君だが、お昼休憩の1時間の間に結構回復したようだ。
「さて、午後からだが、北原はここに置いていく、回復したように見えても目に見えない疲労が残っているだろうからな、後、キララと三橋もここに残れ、俺達に付いてくるよりも北原にインタビュー取った方が動画の数字にもなるだろうからな、北原は休憩がてらここでスキルの練習をしろ」
一瞬キララ嬢が雄兄に反論しようとしたが、三橋さんに諭された後に笑顔で了承する、確かに地味な私の戦いについてくるよりも、北原君の魔法をバックにした方が動画映えはいいんじゃないかな。
「そういう訳だから、北原、お前は魔法の練習をしろ、さっきみたいに一発撃ったらしばらく休憩しないといけないなんて状態じゃあ使い物にならん」
雄兄の言葉に北原君も真剣な表情で頷き、直後にキララ嬢に話しかけられて嬉しそうにだらしない笑顔を浮かべる。
「16時になったら戻ってくるから、それまでになるべく多くの魔法を使えるように練習しとけ、多分魔石の色が変わる事はないと思うが、一応注意は向けておけよ、それじゃあ行くぞ、太郎」
私は食べ終わったお弁当をカバンにしまって、休憩所に置いていこうとしたら、雄兄に筋トレを兼ねて背負って行けと言われた、残念。
安全地帯から離れてバッタを探していると、雄兄がはぁーっと長く息を吐いた後に背伸びをする。
「いやー、お守無してのは随分気楽だな、さて少しペースを上げて狩るぞ、予定よりも遅れてるからな」
「別にペースとか気にすることないんじゃない?私達に魔石を手に入れさせてるのも大義名分の為なんでしょ?」
結局私達が手に入れる魔石なんて言うのは対して役に立っていないのだ、にも拘らず私達にダンジョン内に潜らせているのはダンジョンに潜っている軍人以外の人間と言う前例を作る為だ。
前例主義の日本では前例があると言う事が大事である、そして他の人間も前例があるからいつか自分の番も来るだろうと考えるのだ。
現在の日本政府は、ダンジョン出現時のごたごたを上手く乗り切ったことで、高い支持率を維持している、全盛期に比べて下がっているとは言え、元が高すぎただけなのだ。
その為、政府が調整中であるという姿を見せれば多くの人間が今の政府なら、自分達に不利益な事をしないだろうと信頼されているのだ。
「できれば今日中に太郎のレベルを5に上げたいんだけど、難しいだろうからな、まあ、気楽にやろうや」
そう言って雄兄はタバコに火をつける、ダンジョン内は禁煙じゃないのだろうか?
「今までダンジョン内でタバコを吸ったり、野営をして天井から水が降ってきたことないから大丈夫じゃねえかな」
「スプリンクラーなんてついてるわけないでしょ、ダンジョンだよここ……ついてないよね?」
私が思わず天井を見ると、気のせいだろうけど、天井から機械的な光が返ってきたような気がして目をこすると、そこにはいつも通りの岩でできた天井があるだけだった。
「変な事言うなよ、水降ってくるかと思ったじゃねえか」
雄兄もあり得ると思っていたのか、身構えていたようだ、なんだろう、このダンジョンを作った人……?いや神?は酷く軽いノリでダンジョンの改変くらいやってのけそうだと思ってしまう。
「あほな事言ってないで、バッタを狩りに行くぞ、今日はスパルタ気味に行くから覚えておけよ」
余計な事を言った私はこの後、無事にLVが5に上がるまでバッタを狩る事になった。