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死なない僕が英雄になるまで。  作者: 穂藤優卓
序章
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第九話 本田拓哉

 

 入学試験後が終わった後、僕は一人で学内を歩いていた。

既に受験生の殆どは帰宅しているだろう、僕が残っている理由としては月火の帰りの時間が近ければ待っておこうと思ったからだ。だが困ったことに教員室が何処かわからず、ウロウロと校内を歩いていると、一人の男とすれ違う。

 この学校の制服ではない所から僕と同じ受験生だろうと言うことはわかるが、あの教室に居ただろうかと疑問に思う。彼の姿は一目見ることが出来れば覚えることが出来るほど他とは何かが違っていた、容姿だとかではない、ただ何かが他の人とは違うそんな雰囲気を彼は纏っている。

僕はすれ違いざまに軽く会釈をし通り過ぎようとした、だがそれは彼の言葉で止められることとなる。


「君は、確か……あの時の……」

「え?会ったことがあったっけ」

「いや、何でも無い」


 そう言って彼はそのまま何処かへと歩いていってしまった。

何を言いたかったのだろう、わからないが聞き返すこともせずに僕は月火を探しに再び校内を歩くのであった。


 

 ◇◇◇◇

  

 優が先程すれ違った男、彼の名は本田 拓哉。彼もまた異能力育成校に今年受験した一人である。

彼は才能に溢れていた、家に恵まれ異能力にも恵まれ、全てが思い通りに行き自分が中心の世界に彼は居た。

 そしてその親もまた彼に才能に見合う教育を施してきた、親も彼と同じく全てを自らの手で勝ち取ってきた人物だからこその教育。

 父親は対異能機関での現会長という座に居る。そんな父親の教育は一つの言葉から始まる『自分こそが一番であれ』と。

その言葉を小さい頃から、毎日のように言い聞かせられ、それに見合う努力を積み重ねていく毎日。

だが父親はそれでも僕に己を高めろと言う。父親の考えは能力至上主義の考え、努力に見合う結果を残さなければ然りを受ける。


 そんな毎日を過ごす中彼の中で一つの夢が出来る。

父親である『本田 清春』を超える事、父親の言葉を彼は親である自分を超えるほどの成長をしろという言葉に捉えていた。だからこそ頑張れた、だからこそ毎日努力をする事が出来た、いつか必ず父親を超えると自分に誓いを立て……。


 だがそんな彼に試練が訪れる、試練とは異能力育成校の試験内で現れたスライムだ。

あの巨体を倒すべく彼は誰よりも早く駆けつけ戦った。異能力を使い、知恵を振り絞り戦った、だが倒すには至らない。

 何度も巨体に体を弾き飛ばされ、何度も異能力を使っても無駄。単に相性の問題もあったが彼はそんな言い訳は認めたくはなかった。しかし彼の目の前に一人の男が現れる、その男は自分が考えもつかない方法で自分が勝ち得なかった敵をあっさりと倒してみせた。その姿を彼は自分の情けない姿を誰かに見せまいと隠れ盗み見ていた。


 心底驚いた、そしてその発想力や行動力、そしてその考えを実行する事の出来る身体能力に嫉妬した。

試験中、森中の生物を蹂躙し殺し続けた彼は自分が一番だろうと確信していた、だが違うかもしれないと考えてしまった瞬間、彼は自分が負けたという気分に陥る。数は倒した、だがそれは全て取るに足らない敵である。

 自分が一番ではない、その考えが脳裏から離れない、そんな事を考えてながら歩いている途中で、優と廊下で出会ってしまう。

 咄嗟に何故あの考えが浮かんだのかを聞きたかった、だが聞けなかったプライドが邪魔をしたのだ。

漏らした言葉を飲み込むように去ることしか出来ない自分に失望した。


 試験後、彼は自宅へ帰ると父親に報告する。勿論スライムの件は伏せて話をしていくと、父が彼に言った。


「当然の結果だろう、俺の遺伝子を継いでいるのだ。常に人の上に立って無くてはならない、これからも励め」


 父は彼にそう言い残すと去っていく。

彼はその言葉を胸に刻んだ、入学式まで残り少ない時間でどれほどまで自分を高められるかはわからないが、考えうる事を全てやろうと誓う。

新入生歓迎会には、事前に連絡し欠席を伝え鍛錬へと励むことにした、少しでも他との差を広げるために―――。



 ◇◇◇◇  


 僕は無事、職員室へとたどり着いていた、だが職員室の中には月火は居なかった。どうやら別の仕事があるようだ、無駄足だったとボヤき先に帰ることにする。帰り道、どうしても先程すれ違った男を意識してしまう、彼は何だったのだろうか、何を伝えようとしたのだろうか。

だがいずれ会うことになるだろう、その時に聞けばいいと楽観的に考え僕は電車に間に合うよう小走りで駅へと向かった。


 帰宅後、僕は試験の疲れを癒やす為にベッドへと体を沈める。

だが興奮してか気持ちが落ち着かず試験のことを考えてしまう、今日の僕に点数を付けるのなら70点ぐらいだろう。愛莉とも話していて気づいたが、僕には異能力を活かした戦闘が出来ない事が、他と比べ後手に回っているようだ。

 せっかく身につけたパルクールも機動力は上がったが、決定力の無さが原因で一体に時間を費やしすぎた。最後のスライムの戦いだけは上手くやれたと思っているが、それ以外はいまいちだ。

もし僕に不老不死では無く決定力のある異能があればと何度も思う。


 だが使えないものを使えたらと考えていても仕方がない、次に僕が何をやるべきかを考える。

機動力の向上に短剣の熟練度を上げる事を最優先であるが、他に何かもう一つあれば僕の戦闘の幅も広がるはずだが、その一つが思いつかない。


「わからない、どうすればいいんだ」


 頭を抱え考え込むが答えが出ない、僕は考えるのを一度やめ疲れた体を癒やすことにした。

ベッドで横になり意識を沈めていく―――。


 起きると既に日は沈み、部屋は真っ暗になっていた。

寝起きで眠い目を擦りながら起き上がり部屋の明かりを付ける、どうやら月火はまだ帰ってきていないようだ。小腹が空き、何か食べ物はないかと冷蔵庫を漁るが何も入っていない事から月火は買い物で遅くなっているのだろう。仕方なく僕はリビングで月火の帰りを前っていると、扉の鍵が開く音が聞こえる、どうやら帰ってきたようだ。


「おか―――」


 僕の言葉を遮る様に、クラッカーの音が部屋中に鳴り響いた。


「合格おめでとうっ、受かってよかったよかった」

「あ、ありがとう……ってそれもそうだけど、月火ってあの学校で働いてたのかよ」

「え?教えてなかったっけ―?」

「惚けるな、あのニヤついた顔は今でも忘れないぞ、驚いて声出したんだからな」

「あははー大成功だねそれは、まっそんな事よりケーキとか買ってきたから一緒に食べよ」


 月火の手にはケーキが入っているであろう箱を持っていた、この距離でもほんのりと甘い香りがする。

甘いものには罪はない。僕の祝いでもあるのだ、謹んでいただくことにした。


「そういえばお兄ちゃんは新入生歓迎会に出るよね?」

「うん、そのつもりだよ」

「ならその日は私と一緒に行こうか、3月20日だからちょうど桜も咲き始める頃だし一緒に見ようよ」

「それはいいね、賛成だ」


 僕は月火と一緒に花見の約束をしながら、晩御飯を食べ終えた。

食べ終えた後、月火も疲れていたのだろう、お風呂を上がるとすぐに就寝したようだ。僕も食器を片付けお風呂へ入ると先程まで寝ていたが、ベッドへと入った。

何故だろうか、先程まで悩んでいたのに、その悩みも月火と一緒に居るといつの間にか悩みは吹き飛んでいた。一緒に笑って楽しい時間を過ごしたからだろうか、そんな事を考えていると僕は眠気に襲われ、気がつけば眠っていた。

 今後もこの人には頑張ってもらいます!

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