第三十三話 競争
あけましておめでとうございます、今年もよろしくおねがいします。
合宿二日目、僕達は朝から体力強化に勤しんでいた。
起きた時間は、まだ日が昇って間もなく辺りは薄暗くなっているなか僕達は走っている。
寝起きで走る事には慣れている、他の皆も日頃、朝から体を動かしているのか慣れた様子だ。
走りはじめて20分程が経過した時、先頭を走っている剣心さんが提案をしてきた。
「よし、ウォーミングアップも終わったことだし競争するか、ゲーム感覚でやったほうがモチベーションも上がりそうだしな」
競争は僕も悪くはないと思った、剣心さんは続けて『最下位には罰ゲームがある』と提案してくる。
その提案を聞き皆はより一層やる気を出すことになった。
罰ゲームの内容は明かされなかったが、僕達は一旦休憩を入れ、公平にするために女子達は先へ行かせた。
そのハンデは明らかに追いつけない様にされている程の時間だが、僕は気にしない。
「よし、10分が経過したな。ゴールは屋敷だ」
「剣心さんは参加するんですか?」
「俺か?俺が本気だしたらぶっちぎるからな」
剣心さんは謎のドヤ顔をしていた、その顔を見て僕達の考えは同じであった。
その考えとは、どうにかして剣心さんを最下位にさせるというものである。
「それじゃ行くか、ルールは無い。一秒でも早く屋敷に付けばいいだけだ、それじゃ行くぞッ」
その言葉と同時に僕達は地面を蹴り足を回転させていく。
剣心さん『ルールは無い』という言葉は裏を返せば異能力の使用を了承したという事だろうと僕は考える。横目で仁達を見るが、どうやら考えは同じのようだ。
既に剣心さんは僕達の10m先で走っている、まだ余裕がある様子だ。
この勝負には拓哉の異能力が一番有効だと考え、僕は提案する。今までは一定の位置の重力を操作していた、だが今回提案した内容は違う。
動く相手に合わせ重力操作の範囲を移動させる事が出来るか試す、前々から拓哉はこの練習をしているようだが、あまり上手くいかないと聞いていた。
走っている中、集中が乱れる状況。そして剣心さんの俊敏さで難易度は跳ね上がっているが、拓哉はこの状況に静かに燃えている様子だ。
「やってみる」
冷静な様子で呟く様に答える拓哉。
無茶振りをしている事はわかっている、だが僕達が妨害するには少々力不足感が否めない。
ここは素直に拓哉を信じる事を僕達は選んだ。
剣心さんが後ろを一瞬振り向く、どうやら僕達が企んでいることに気づいたようだ。
しかし拓哉の異能力は違和感を感じさせているだけで足を鈍らせれるほどの影響は与えていない。
余裕を見せているのか、それとも敢えて僕達の企みを受けているのかはわからないが剣心さんは一定の距離を保ち走っている事が、逆に僕達のヤル気を上げた。
「舐めるな」
小さく拓哉が呟き眉間にシワを寄せる。
ここまで感情を表にだしている拓哉も珍しい、というより初めて見た気がする。
より一層、拓哉は集中していく。
「おい、剣心さんに近づいてきていないか?」
仁のその一言で僕も気づく、一定の差で走っていた剣心さんとの距離が縮んてきている。
今ならば僕達が最高速まで速度を上げれば追いつける程になった。
「今なら追いつける、拓哉はそのまま維持しててくれ。俺達も妨害するぞ」
「おっけい、行くぞ」
僕達は追いつくために速度をみるみる上げていく、後々の体力など気にしていない。
今、目の前に居る剣心さんを最下位にする事だけを考えていく。
「仁は牽制していてくれ、僕は炎で足止めを試してみる」
僕は仁へと指示を飛ばすと無言で仁は頷く。
剣心さんへ追いつくと足を止めずに逃げる剣心さんを追撃していく。
その間に僕は炎をイメージしていく、可視化させる異能力を使用するには集中力が必要となる。
今まで走りながら異能力を使用した経験が無いためか、なかなか上手くいかない。
一瞬、炎が手のひらに現れたと思ったら、数秒後に霧散していく事の繰り返していく、正直ここまで難しいものだとは思わなかった。拓哉の集中力は群を抜いている。
「おい、集中しろ。走っている事は意識するな。無意識に足を動かせ、そして頭を異能力だけに集中させろ」
後方から拓哉が僕に助言してくる、今まで聞いたことの無い程の大きな声に少し驚いたが、すぐに拓哉に言われたことを実行しようとする。
だが上手くいかない、異能力へと意識を向ければ足は疎かになり速度が落ちる。
同時に二つ以上の事を考え行動する事は日常生活で行うが、それとは全くの別物だ。
別の人格が自分に存在し、それぞれが意識を持って思考しなければ実現刷ることは出来ないのではないかというほどである。
「無理だ、僕には出来ない」
その間に剣心さんと仁との距離は離され、今は拓哉と並んで走っている。
「仕方ない、ちょっと待ってろ」
拓哉の表情はより一層険しくなっていく、何をしているのかわからないが、僕はただ拓哉の言葉を信じ走っていると体に異変が起こる。体が軽い、足がスムーズに動く。なぜ急に体が軽くなったかは検討は付いた。拓哉の重力操作である、今まで一つの範囲内でしか異能力を使用する事が出来なかった拓哉は今、僕が居る周囲の重力を操作し軽くしているのだ、人間業とは思えない集中力である。
「ありがとう、これなら余力がある分、僕でも異能力を使用できるかもしれない」
その言葉に拓哉は返事はしなかった、言葉を発する事すら困難なのだろうと勝手に解釈し、僕は軽くなった足を回転させ距離を縮めていく。
「来たか、遅いぞ」
「悪い、拓哉君のおかげで追いつくことが出来たんだ、僕もとっておきを使うよ、離れていて」
僕は異能力を使用するために意識を集中していく、イメージは蜘蛛の巣である。
炎を地面に張り巡らせ炎に触れた相手に襲いかかり巻き付く、成功率は五分だが試す価値はあると考え僕は思考していく。
手のひらに可視化させた炎を一度立ち止まり地面へと叩きつける、炎は地面を這い糸の様に伸びていき剣心さんの足元で広がった。
「やった、成功だ」
剣心さんは躱そうと地面を蹴るが遅い、足場を埋め尽くす炎に囲まれては身動きは取れず、そのまま足を止めてしまう。
その横を僕達は走り去り剣心さんを置いてゴールへと目指し足を進めた。
「良くやった」
拓哉が何かを言った気がするが、僕は聞き返すことはせずに、そのままゴールへと向かって走りだした。
後ろを振り向くが剣心さんの姿は見えない、これは勝負は付いただろう、そう思っていた。
その時、後ろから物凄い音が響く、何事かと後ろを振り向くと、剣心さんが居た場所が砂埃で見えない程砂が舞っていた。
「は?嘘だろ」
仁が口を開けて頭上を見上げている、僕もそれに釣られるように頭上を見上げると、剣心さんが飛んでいた……、いや飛んでいたという表現は正しくはない、圧倒的な脚力でジャンプをしたのだ。
「やっぱり凄いな」
僕は視線を仁達に向けて呟くが、その呟きに返事は無かった。
違和感を覚え、視線を戻すと周りには二人の姿はなかった。
「置いていかれた……」
僕は追いつくために地を蹴る、だが追いつくこと無く直ぐにゴールが見えた。
今回の競争は僕の最下位で幕を閉じることとなった。
「優君遅いよ」
「最下位は優か、それじゃ罰ゲームだな」
仁はニヤニヤと僕を見ている、油断した僕が悪いのだ、仕方ないと割り切ることにする。
「いや、良いものを見せてもらった。罰ゲームでは無く、皆で海にでも行こうじゃないか」
「えー罰ゲームなしかよ、まぁ遊べるならそれもありだな。よっしゃ行こうぜ」
僕達は屋敷へ戻り海へ行く支度を初めた―――。
久しぶりの更新となります、正月は忙しく更新が滞りましたが、今日から再開していきます。
毎日更新は厳しくなると思いますが、出来るだけ更新頻度は上げていくので、今年もよろしくおねがいします。




