第二十話 仁の悩み 2
昼休みも終わり午後になった。僕達Aクラスは全員教室に集まっている。
今から何があるだろうか、改めて言うのだから何かあるのだろうとは思うが。
僕は月火が来るまで愛莉や仁と話していると、ようやく月火が現れる。その月火の後ろにはもう一人見慣れない男性が立っている。
その男性を僕は知っていた、刀の名家である柳生家の当主、そして仁の父親である柳生 剣心その人である。
何故、剣心さんがこの学校に来ているのだろうか。
「親父ッ!」
「久しぶりだな仁、元気してるか?」
その問に仁は答えなかった。何故ここにいるのか訴えるように眉間に皺を寄せ睨んでいる。
この二人は仲が良くないのだろうか、久しぶりと言っているから家族なのにあまり顔を合わせていないのかもしれない。
「皆静かにしてね、皆に紹介します柳生 剣心さんです。今回来ていただいたのは夏に控えている選抜戦まで指導していただくことになりました」
「ご紹介に預かりました、柳生と申します。先生が話された様に短い期間ですが皆さんの指導を請け負いました。それと今後とも息子を宜しくおねがいします」
剣心さんがそう締めくくると、隣で大きな舌打ちが聞こえた。勿論舌打ちをした人は仁だ。
どうやら僕が考えてた通り二人は仲が悪いらしい。
それからクラスメイトが選抜戦の内容を質問すると、どうやら月火は説明を忘れていたようで慌てて説明を始めた。
主な内容は海斗から聞いた内容と同じだ。付け加える点でいうと五人一組で分けられA、Bクラスでのトーナメント戦で選出されるらしい。
生徒数は60人と考えると12組出来る。そこから勝ち上がらなければいけない、二組がシードと考えても最高で4回勝利を収めなければ選ばれないことになる。
「それでは剣心さんは来週から指導をお願いしています、皆さん失礼の内容にね」
そう締めくくると、月火と剣心さんは出ていく。
僕は仁の方へ体を向けると、まだ仁は不機嫌なままなようだ。
「仁は何でそんなに不機嫌なの?」
「まぁ気づいてるだろうけど俺って親父とは仲悪いんだよな」
「そんな感じだったけど……あんまり聞かないほうが良いなら聞かないけどさ、気が向いたら相談でもしてね」
「考えておく……」
会話はそこで途切れた。何かあるのは確かだが無理やり家族の事情に口を出すのも流石に友人だとしても踏み入れ過ぎだろう。
僕は前を向き直し月火が戻るのを待った。
今日の学校は終わり帰ろうと仁を誘おうとしたが、既に人の姿は無かった。
午後から不機嫌オーラ全開だった仁を誘うのも気が引けていたから、まぁいいだろうと僕も荷物を纏めて学校から出ていく。
学校を出ようと玄関へ歩いていくと、何やら大声で言い合っている声が聞こえる。僕は何事かと声がする方へ歩いていくと、廊下で仁と剣心さんが言い合っていた。
「何で学校にまで来たんだよ親父ッ!」
「指導をしに来たんだ。お前は別に関係ない」
「そうやって毎回意地はって俺を監視するような事すんなよ、イライラするんだよ」
「おい、何だその言い草は俺だってな考えて……おい、話は終わってない待て」
仁は剣心さんの言葉を最後まで聞くとも無く外へと出ていった。
剣心さんはその後を追おうかどうか葛藤している様子だが、仁を追いかけず見えなくなるまで背中を見つめている。
何やら修羅場な空気だ。僕もバレないように帰ろうとした時、後ろから誰かを呼び止める剣心さんの声に一瞬体が硬直した。
僕は巻き込まれたくない一心で再び歩き出すが、肩を掴まれる。逃げることを諦め振り返れば剣心さんが居た。
「ちょっと待ってくれ、君は仁のクラスメイトだったよな」
「はい…、そうですが」
「君はクラスで仁と仲良さそうに話していた子だね、良かったら君から言ってはくれないか……」
「話の内容によりますが、僕に出来ることならば」
「実はだな―――」
剣心さんは仁と何が合ったのかを話し始めた――――。
◇◇◇◇
柳生 剣心、彼は一代で名を世に知れ渡るほどの名家にした人物。
彼は刀の才能に開花し名のある大会全てで賞を取るほどの実力である。そんな彼には一人の息子が居た。
剣心の血を引く息子、柳生家の次期当主となる彼の名は柳生 仁。
仁は幼い頃から刀を握り父に認められようと刀を握り続け後に神童と呼ばれる事となる。だがそれでも父である剣心は仁に厳しく刀を教え続けた。
剣心が唯一取ることの出来なかったタイトル。それを息子である仁に取らせる。自分の夢を子供に託したのだ。
来る日も毎日刀を握り続けていく毎日、そんな中柳生家にある出来事が起きる。
剣心の妻の死、それは剣心の刀を鈍らせていく。大会に出ては負けを繰り返す、仁は自分の不甲斐なさに嘆き刀を置いた。
だがそれを剣心は認めなかった、妻を言い訳にし刀を持たない事は逃げであると言い続ける、だが仁も人の子だ精神が安定しない状況で父から罵声を浴びせられ続ける毎日。
しかし仁は諦めず刀を振り続けていく。刀には心技体が重要となる仁には心が入っていなかった。
その事を察してか剣心は事あるごとに妻を出し仁を叱りつける。
仁が13歳になった年、未だに不調の仁に剣心は厳しく稽古をしていた時だった。仁が遂に憤慨する。
刀を投げ捨て家を出て親戚の家へ家出をした。すぐに連れ戻されたがそれから二人の仲に亀裂が入る。
ここで剣心は気づいた。神童と呼ばれていても子供である、妻の死の影響で刀に迷いが出ても仕方のない事だと、だが気付くのが遅かった。
既に二人の亀裂は修復出来ないほどに深まっていた。
しかし剣心は知っている。今でも目を盗んでは道場へと行き門下生を指導している姿を。
今でも刀に未練を持っているのならば仲直りをし再び息子である仁に刀を持たせたいと。
だが剣心は不器用だ。その事を伝えては仁に怒鳴られる、今回指導を請け負ったのも実を言えば仁に刀を再び持たせるきっかけになるのではないかと考えたからだ。
結果で言えば失敗に終わったが、友人から何かを伝えてもらえればと考え優に話しかけた。
◇◇◇◇
「という事があったんだ」
「そうですか……僕からも何か言っておきます」
そう言って僕は学校を後にした。
重大な事を頼まれた、僕には荷が重すぎるのではないだろうか。しかし両親に憧れを抱いて空回りをした仁の気持ちもわかる。
それに剣心さんが不器用な事もわかった、こんな内容を僕に話したくらいだ相当な物だろう。
僕は頭を悩ませ仁にどう話をするか考えながら仁が僕との特訓を待っているかもしれない河川敷へと向かった―――。
思春期で親子喧嘩は結構してたけどここまでは流石に無いですね。




