第十九話 仁の悩み 1
金剛さんが仕事へ向かうと、僕も学校の準備を始めた。
最初、異能力の暴走の件もあり、学校へ行くか考えていたが、今日の鍛錬で暴走の危険性は少ないと金剛さんは結論を出した。
ならば今日は普通に学業の勤しみ、後日また鍛錬を行うらしい。これから続くのかと憂鬱になるが、僕の為に時間を割いている事を考えればありがたい話である。
昨日着ていた制服は焼け焦げボロボロになっていた為、金剛さんが新しい制服を用意してくれていた。何から何まで手が回る人だ。
制服を着ると僕はスマフォを取り出し地図を確認する。現在地を把握したら僕は学校へと向かった。
歩くこと30分ほどで学校には着いた、どうやら登校時間より早く来てしまったらしく人の気配があまり無い。
そのまま教室へ向かうと、教室には先客が居た。誰だろうと確認すると教室に居たのは仁だった。
ずぼらな印象だったが、学校へは早く来ているのだろうか。僕は教室へ入ると仁も気づいたのかこちらを振り向く。
「早いんだな」
「何故か寝れなくてな、早く来たけど誰も居なくてな」
「なんだ、悩み事でもあるのか?」
「まぁ俺でも悩みの一つぐらいはあるさ。そんな事より昨日はどうだったよ」
「仁との特訓は勉強になったよ、けどあの後さ―――」
僕は仁にあの後、僕の体に起こった事を話した。
新しい異能力の発症、そして金剛さんに助けてもらったこと。その後成り行きだが金剛さんに指導してもらう事になったことを。
「金剛さんって金剛 敦さんの事か?」
「確か下の名前はそんなだった気がする」
「まじかッ!有名人じゃないか。鉄壁の金剛って異名も付くくらいだぞ。今度会わせてくれよ」
「そうだったのか、わかった仁が会いたがってるて聞いてみるね」
「よっしゃ、楽しみだぜ」
仁と話しをしていると、ちらほらと生徒が教室へと入ってくる。
どうやら結構な時間話し込んでいたようだ、僕達は席へ付き他愛もない話をしながら朝礼の時間まで待つ。
仁との会話はいつも楽しい、内容はあまり頭の良い会話ではないが、この様に笑い合って話す時間を僕は大事にしよう。
話していると朝礼の時間が来たのか月火が教室へと入ってきた。
月火は僕を見つけるやいなや駆け寄ってくる。体をベタベタと触りながら大丈夫だったのと問いかけてくる。クラスの皆の視線が僕に集まる、正直恥ずかしい。
「大丈夫だって、電話で聞いたんでしょ?」
「だってさ、心配したんだよ」
「ごめん、けどそれより学校だしさ、先生としてそれはいいのか?」
「あっ……そ、それじゃ朝礼を始めます」
月火は普段の顔からすぐに切り替えるが、皆の月火を見る目が何やら微笑ましい表情になっているのは気の所為ではないだろう。
先程の月火の行動で、僕達が兄妹であることは皆は気づいたようだ。
朝礼が終わると、恥ずかしさから月火はすぐに教室を出ていく。正直僕も恥ずかしく教室へ出ていきたいのだが、クラスメイトがそれを止める。
「優君ってさ、月火先生と兄妹なの?」
「言われてみれば似てるよねー、でも月火先生が妹って感じがして可愛かったよね」
「わかるー、家での月火先生ってどういう感じなの?」
僕の周りには入学して一度も話した事がない女子生徒に囲まれた。嬉しいんだけど正直返答に困る。
月火の人気は結構高いようだ。男子人気もそうだが女子人気も高く慕われているらしい。兄として嬉しいがこの状況を収めて教室から出ていってほしかった。
僕が困っていると、言い忘れていたと声を出しながら再び教室へと戻ってきた。
「言い忘れてたけど、今日の午後からに全員教室で待機していてねッ!」
そそっかしい奴だ……、呆れてしまう。昔から慌てたら何かを忘れるのは変わっていないようだ。
だが火に油を注いだ様に僕の周りに居た女子達は話を続けた。
女子達は次の授業が始まる少し前まで続くと僕はようやく開放され溜息をつく。仁は僕が女子達に囲まれているのをニヤニヤと見ていた。
「そんな見てるなら助けてくれよ」
「いやー、女子相手には優もお手上げなようだな、それにしても先生と姉弟だったのか」
「まぁ隠してた事じゃないんだけどね、困ったもんだよ」
「いいな、家族と仲が良くて」
仁の言葉には何か他の意味を含んでいるような気がした。
不思議に思いながらも僕は次の授業の準備を始めた―――。
午後になり昼食を終えると昼休みになった。
昼休みは三十分間あり授業に疲れた体を癒やす時間になる。僕の昼休みの過ごし方といえば仁と生徒に開放されている体育館へ行き体を動かすことが日課になっていた。
空いた時間があれば自分を鍛えるために体を動かす。最初は僕一人でやっていたが仁を誘ったら乗り気で了承してくれたのだ。
体育館の中には色々な設備が揃っている。筋トレ器具や模擬刀、そして何よりも上級生が居る。
上級生の異能力や練習している姿を観察し動きを取り入れる。これがかなり勉強になっている。
そしてすぐに仁相手に使ってみる。仁も練習になるし一石二鳥だ。
「ふぅ、疲れたな」
「そうだね、一回休憩にしようか」
僕達は休憩に入ろうとすると上級生の一人が近づいてくる。
何処かで見たことある気がするが思い出せない。僕達は近づいてくる上級生に挨拶をする。
「やぁ頑張ってるね。君達も今年の選抜戦に向けてトレーニングしてるのかい?」
「えーっと……」
「あぁごめん。僕は霧崎 海斗、一応生徒会長だよ」
その名前で思い出した。入学式の時に壇上で司会進行役だった人だ。
だが生徒会長がわざわざ僕達に話しかけて何のようだろうか。選抜戦と言っていたが身に覚えがない。
「選抜戦とは何ですか?」
「まだ知らされてないんだね、実は―――」
海斗は選抜戦とは何かを僕達に話し始めた。
選抜戦とは、9月の夏休み明けに行われる実戦形式の試合だ。戦闘科では模擬戦の勝敗により代表者が選抜され、サポート科では戦闘科の代表者に合う異能力保有者が選ばれる。
最終では戦闘科5名サポート科1名のチームを組んでの対抗戦である。
学年毎に選出された代表者が各校から選ばれ、今年の10月に対抗戦が行われる。この対抗戦はTV放送もされるらしく、活躍し名が広まれば様々なアドバンテージになる。
卒業後の進路もそうだが、毎年行われる職業体験などでの個人指名や。そして優勝校には箔がつくという事もあり学校は力を入れている。
その話を聞き僕達は目を輝かせた。強い人と戦える事もそうだが、何より今後に繋がるのは魅力的だ。
選抜戦が9月というと、今が5月で後4ヶ月しか無い。残された時間で可能な限り鍛えよう。
「それじゃ選抜戦に選ばれるよう祈っておくよ優君」
海斗はそのまま上級生のグループへと歩いていった。
ここで僕は疑問に思った。唐突に声を掛けられ僕の名前を教えていなかったはずなのに、彼は僕の名前を知っていた。
だが生徒会長なら生徒の名前ぐらい知っていて当然だろうと僕はそれ以上考えるのを辞めた。
「あれが伊藤 優か―――」
海斗が小さく優の名前を呟くが、その声は優へは届いていなかった―――。
金剛さんは有名人!
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