第十四話 模擬戦 1
入学式後、僕たちは教室の前の張り紙を見ていた。
張り紙には戦闘科全員の名前が書かれている、紙の内容は最初の一大イベントであるクラス分けだ。
しかし僕は友達という友達も居ない、出来れば変な人があまり居ないクラスになればなと思う程度だ。
だがそれでも内心はワクワクが止まらない、皆も張り出された用紙に目を通し喜んでいる人も多い様子。
僕は自分の名前を見つけるとすぐに教室へと入った、僕のクラスはAクラス、一年はA~Dまであり、A,Bが戦闘科Cがサポート科でDが研究科だ。
Aクラスに入ると既に何人かが各々席に座っていた、その中には見知った顔が数名居る。
今日の入学式で新入生挨拶をしていた本田拓也、それと入学試験から話をする仲になった愛莉もどうやらAクラスらしく教室にいた。
僕は適当な席に座ると、入学式で長い時間座っていて強張った体を伸ばした。
「お疲れのようだね」
「愛莉か、話が長くて体が痛くてしょうがないよ」
「あたしもそうだよ、何で歳を取ると話が長くなるんだろうね」
「そうだね、けどまぁ無事終わったし同じクラスに愛莉が居てくれてよかったよ、僕って知り合い少ないからさ」
僕はそう言いながら一通り集まった教室内を見渡す。
歓迎会で少し話したことがある程度の人達しか覚えがない。だが一人、愛莉や本田拓也とは別にもう一人知っている人が目に入る。
その人は入学試験の時、スライムを倒した後最初に話しかけてきたガタイの良い男である。どうやら同じクラスのようだ。
僕が彼を見ていると、彼は僕の視線に気づいたようで近づいてくる。
「よう、確かスライム倒してた人だよな」
「あの時話しかけてくれたよね、僕の名前は伊藤 優、っていうんだ、気軽に優って呼んでね」
「そういえば自己紹介してなかったな、俺は柳生 仁、俺のことも仁って呼んでくれ」
僕は柳生という名字に心当たりがあった、それは刀の名家である柳生家と一致する。
しかし彼は試験中に刀を使っている様子が無かったことから僕は別人だろうと結論付けた。
「仁ね、よろしく」
「おうよ、それにしてもやっぱり戦闘科って言うだけ会って女子が少ねぇよな女子が」
「ちょっと目の前に居るんだけど?」
「あーちっこくて気づかなかった、んで優の彼女か?」
「失礼じゃないそれ!彼女じゃないわよ、あたしは観月 愛莉だよ、これからよろしくね」
こうして三人の自己紹介が終わると学校のチャイムが鳴る、それと同時に一人の先生が入ってきた。
その先生を見た瞬間、僕の嫌な予感が当たった、教壇に立ったその人は僕の妹である月火だった。
入学試験の時と同様に月火はしてやったりな顔をしている、僕は何故か悔しい負けた気分を味わう。
「えーと、皆集まっているようだし自己紹介するね、私の名前は伊藤 月火、初めて持つクラスという事もあって、不慣れな所があると思うけどこれからよろしくね」
男子生徒達は月火の自己紹介が終わると、盛大に拍手していた。
月火は容姿だけ見れば出来る美人な女性だが、中身を知っている僕からしたら何とも微妙な気持ちである。
それからお互いの自己紹介が始まった。
「それじゃ前から順番にどうぞ、こっちからでいいかな?」
月火が選んだ席に座っている人物、それは僕だった……。
「えーっと僕の名前は伊藤 優って言います、僕のことは気軽に優って呼んでください、これから一年間一緒に頑張りましょう」
無難に自己紹介を熟せた、気がしたが月火はどうも満足じゃないらしく、それだけ?と言いたげな顔をしていた、勿論それだけである。
だが何故だろうかヒソヒソと声が聞こえる、その声に耳を傾けると「スライムを倒した人だ」という内容だった。どうやら皆知っているようだ。
僕の自己紹介が終わり次に自己紹介するのは後ろの席に座っている柳生仁だ。
「俺の名前は柳生仁だ、仁って呼んでくれ、頭が悪いから勉強は教えられないが対人戦には自信があるから何か教えてほしいことがあれば聞いてくれ、よろしくなッ」
仁は男らしくスマートに自己紹介を熟した、僕には到底無理な芸当だ。
そして僕同様に仁が自己紹介を終えると他の生徒がざわつき始める。その内容は『柳生家の神童』という単語が何度も耳に入る。
柳生家とは刀の名家である、どうやら最初に考えていた事は事実だったようだ。ならば何故、仁はあの時、刀を使っていなかったのかが疑問に残る。
だがその疑問は聞くべきではないだろうと仁の表情でわかった。
他の生徒達の話しが仁にも聞こえたのだろう、苦笑いを浮かべ表情は少し暗かった。
何か触れられたくない事情があるのだろう、僕は聞くことを諦め、次に自己紹介する人へと耳を傾けた。
それからは変なざわつきも無く自己紹介は淡々と進んでいく、愛莉の自己紹介も無事に終わる。
自己紹介も終わりに近づき最後の生徒となった、その生徒は本田拓也、どんな自己紹介をするのだろうか。
「俺の名前は本田拓也です、これから一年間同じクラスで共に過ごす事になります、よろしくおねがいします」
彼の自己紹介は期待とは裏腹に呆気なく終わった。
僕は他の人とは違う異様な雰囲気の彼の事が気になって仕方が無くなってしまう。
どういう人物なのだろうか、そして前に僕に話しかけた時、何を話そうとしたのか、聞きたいことは山積みだ。
「それじゃ皆の自己紹介が終わったみたいだし、運動着に着替えてね」
運動着に着替えてと月火は言った、今から何をするのだろうか。
他の生徒も今から何があるかわからない様子だ、だが先生の言うことに従い男女に別れ運動着に着替えていく。
皆が着替え終わると全員教室から出た、廊下には別のクラスの人達も居る、どうやら戦闘科だけ何かあるらしい。
2クラス含め60人が一斉に移動する、着いた場所は体育館だった。
「それじゃ二人一組のペアを作って―」
そのセリフに数人が傷をえぐられたようだが、僕は誰と組もうか悩んでいた。
思春期男子として女の子と組むのは避けたい、だが一番仲がいいのは愛莉だ、次に仁だろう。話したことがあるってだけなら本田拓也も選択肢に含まれるが、やめておく。
悩んでいると、仁が僕に声をかけてきた。
「よぉ、一緒に組もうぜ」
「いいよ、今から何があるんだろうね」
「さぁ?わからないな、けど早速のイベントは楽しみだな」
二人でそんな話しをしていると、どうやらペアが出来たらしい。
月火とBクラスの教師が確認していくと、生徒の前に立った。
「それではこれから、異能力を使った模擬戦を行ってもらいます、どうしてって顔をしている人も見えるので詳しく説明しますね」
続いて説明をし始める、理由については異能力を使用して模擬戦をすることで生徒を把握するのが一つ。
そして模擬戦を通して交流を深める事、他の人の異能力を把握して知識を増やす事が主な目的らしい、ちなみに異能力の出力を下げ非殺傷が厳守をしろとのこと。
僕の相手は柳生 仁、噂では神童と呼ばれていた程の実力者だ、初戦から手強い相手だが胸を借りるつもりで全力で相手をしよう。
僕は皆の戦いや仁との模擬戦が出来る機会に心を躍らした。
これから戦闘描写が続きます。
誤字脱字、矛盾点は見つけ次第修正していきます