第十一話 それは突然やってくる。
新入生歓迎会後、僕たちは帰宅し荷物を置き花見の準備をした。
3月も中旬に差し掛かる。今年は花見の季節が早いらしく、学校へ行く時見た桜は既に九分咲き程まで咲いている。冬の肌寒さも無くなり、春の少し暖かい穏やかな季節で今日は天気もよく良い花見日和だろう。昼食は既に済ませているので手荷物は無く気分転換の散歩程度だが楽しみだ。
「花見だああッ!」
僕のテンションはいつも以上に上がっていた、花見は昔から好きで春になると一人で花見をしに外へ出かけるほどだった。そして今回は一人ではない、月火も一緒に来るということが何よりも楽しみだ。
月火が小さい頃にはよく一緒に行っていた記憶があるが、いつ頃だろうか一人で行くようになっていた。
「お兄ちゃんテンション高いね、それじゃ準備出来たし行こっか」
月火の準備も整い、僕たちは家を出た。向かう先は僕が毎年行っている場所だ、彼処は花見客も少なく隠れた名所といえる場所。ここからもそう遠くはない事で月火もそこでいいと了承してくれた。
月火が車を走らせること三十分ほどで到着する、十年経った今でも花見客は少ないようだ。
これでゆっくりと桜を堪能できるだろう、月火も車から降り、一緒に散歩をする。
桜の花びらが舞い、道沿いを流れる小川に桜並木が映し出されている、幻想的な光景だ。宛ら一枚絵の中に入ったようなその空間で月火と二人並んで歩く。
「綺麗だね、久しぶりにこんなゆっくりと桜を見に来た気がする」
「ここに前は結構散歩来てたんだよ」
「そうなの?何で私も誘ってくれなかったの」
「何でだろう、まぁいいじゃないこれから毎年ここに来ような」
「うん、そうだね」
ゆっくりとした時間が流れる、僕達が歩いていると見知った顔が走っている姿を見かける。その人物は以前一度話したことのある本田拓也、そういえば今日の新入生歓迎会には来ていなかった。
どうやらこの辺りで走り込みでもしているのだろう、声を掛けようとしたが月火も居る事だし僕は諦め桜を堪能することにする。
暖かい空気が眠気を誘う、僕たちは木陰に座り桜を見上げる。
桜の花のいい匂いがする、目で楽しみ匂いも楽しむ。だが桜とは違う異質な匂いに僕は気づいた。
花の甘い香りの中に漂う鼻を刺激するような匂い、生臭く鉄の匂い明らかに花の匂いとは違うその匂いに違和感を覚える。月火を見ると僕と同様で何かを感じたのか顔を顰めていた。
「お兄ちゃん…」
「うん、何かおかしいきがする、月火は少しここで待ってて欲しい」
「え、待ってお兄ちゃ―――」
僕は月火の言葉を最後まで聞くこと無く異臭のする方へと走っていく。
異臭の元は桜並木の奥、草木が生い茂っている場所で漂っている、僕は草木を掻き分け奥へ奥へと進んでいく。そして僕は奥で見た光景に唖然した。
目の前に広がる光景は、桜の淡い桃色をした花びらを血が真紅に染め上げている。
その中央には女性が一人腹を鋭利な刃物で斬られ横たわっている、僕は無残に殺された女性の死体を見て気分が悪くなり胃から込み上げてくる、だがそれを無理やり飲み込んだ。
倒れた女性の隣には人が立っている、女か男かはわからない黒装束を着て右手には刃物を持っている。
刃物からは未だに血が滴り落ちており、女性を殺したのはこいつだろう。僕は下がろうと体を後退させていく。
「ちょっとお兄ちゃん置いてかないでよ」
一瞬の出来事であった、目の前の人物に気を取られ背後から近づく月火の存在に気づかなかった。
振り向き月火に戻るよう伝えようと振り向いたその瞬間、目の端で捉えていた黒装束が不意に消える。
「えっ…?」
「危ない月火ッ!」
僕の脚は考えるより先に動いていた、いつも以上の速さで動く脚。月火に一歩でも早く近づく、その事だけの為に僕は脚を回す。黒装束が持つの刃物が月火に届く前に僕の手が先に届いた、月火を押しのけ、僕は短刀の軌道上に入る。
「あっ……」
僕の声が不意に漏れた。
僕の体の中に異物が入る違和感、それと同時に感じる喪失感に僕は膝から崩れ落ちた。腹部からは何かが漏れ出しているような感覚、僕は手でお腹を触ると滑り気のある何かが手に触れる。鼻が曲がるほどの鉄さびの匂い、先程腹部を触った手を見ると手は真っ赤に染まっていた。
手にこびりついた血を見た瞬間、体中に鋭い激痛が走る、呼吸をする事さえ困難なほどの痛み。心臓が飛び出るのではないかという程脈動している。
体中が寒い、血が抜けて身体機能が低下しているのだろう、頭に血が行かず何も考えることが出来ない。目の前が真っ暗になっていく、これが死だろうか、だが最後の力を振り絞る。
「月火……逃げろ、僕は大丈夫だ」
「え、だってお兄ちゃん……お腹が……」
「いいから行けッ!」
月火は涙目になりながらも僕の言葉を聞き走って逃げていく。
それを追いかけようと黒装束は走ろうとするがそれは許さない、脚をガッツリと掴む。黒装束は僕の顔や掴んだ手を蹴るがそれでも離さない。次第に月火の姿が見えなくなると僕は糸が切れるように力を抜いた。
「くそっくそくそ、何だよお前ら何なんだよ、何で邪魔するんだよ。また一歩近づいたと思っていたのに毎回邪魔が入る」
目の前の人物は声から察するに女だった、彼女が何故女性を殺したのかはわからない。だが何やら目的があっての行動なのだろう。僕は力を振り絞り、喉に血が絡まりながらも彼女に問いかける。
「なん……でこの女性を……ころしたんだ」
「まぁだ生きてんのお前、ゴキブリ並みの生命力だな。まぁ死の手向けに教えてやるよ、こいつはな罪を犯したんだよ僕達の人生を壊した大罪をな、僕たちは……」
目の前の女はそう言いながらフードを取り頭皮を掻きむしりながら涙を流していた、だが涙とは裏腹に顔は笑っている、返り血に顔を染め上げ歪んだその顔は狂気に満ち溢れていた。
この女はやばい、そう直感し逃げようとするが、逃げることは出来ない。既に体内の血液は大量に流れ、極寒の地に居るような寒さで身が凍える。僕は意識が朦朧とし、もう駄目だろうと目を閉じた―――。
目を閉じ死を待った、だがいくら待っても僕に死は訪れない。意識は途絶えることも無く、再び目を少し開ける。
既に目の前に居た女は、先程血を流し倒れていた女性のすぐ近くに居た。僕は恐る恐る腹部を改めて見る。腹部は鋭利な刃物で斬られ内蔵は地面へと飛び出している、確実に致命傷である。
不老不死の異能力は発動していないのだろうか、そう思って居た時僕の体に異変が起きる。
飛び出した内臓が、自分の意思を持っているかのようにモゾモゾと少しずつ動き出す、血液は地面から逆流するように体内へ。時間を掛け内蔵も元の位置へ戻り、割かれた腹部はミチミチと小さく音を立てながら繋がっていく。痛みも引き血が再び体を循環しはじめ先程までの凍える寒さは無くなった。
普通はありえない光景だが、僕にはありえる。再び腹部を触るが違和感はない、これならば動ける。月火を追いかけ逃げることが出来る。僕はそっと立ち上がり悟られないようにその場を離れようとした、だがそこで倒れた女性と目が合う、光の灯っていない目。
ここで逃げ出して良いのだろうか、ここで逃げ出せば他に犠牲者が出るのは明らかだろう。そう考えた瞬間僕の脚は横たわる女性を何度も短刀で刺突する女性の元へ動いていた。自分ですら何をしているのかわからない、だが勝手に動く脚を制御することはできなかった。
横たわる女性に気を取られてか女は僕に気づいていない。僕は背後まで回ると、渾身の一撃を後頭部へと叩き込む。異能力を使えても体は女性である、鍛えている僕の渾身の一撃を不意打ちで喰らえばどうなるかなど決まっている。女はその場に膝から崩れ落ちた。
「お前は殺したはず…じゃ……」
「浅かったんじゃないか?これで形勢逆転だな」
僕は倒れた女の前で少し間合いを離し立つ、女が演技している場合もあるからだ、慎重な立ち回りが要求される。
それより、僕の渾身の一撃は綺麗に後頭部に入ったはずだが意識を刈り取るまでにはいかなかったことに驚きを隠せない。だがこのまま睨み合っていても仕方がない、動けないであろうと仮定し、僕はスマフォを取り出し対異能機関へど電話をする。
普通の殺人事件ならば警察へと電話するのだが、間違いなく女性を殺したのは異能力によってだろうと感じたからだ。スマフォを取り出し無事電話が繋がると現在位置を伝え、すぐに向かいますと言葉を聞き僕は安心した。ここですぐに逃げれば良かった、だが逃げることは出来なかった。
「何故そこで寝ているんだ?」
その声の主は目の前からした、視線を声がしたほうへ向けると、先程倒したはずの女を担ぐ黒装束を身にまとった男がそこには立っていた。
死ぬってどういう感覚なのかわからないので僕なりの考えのもと書かせてもらいました。間違っている可能性もありますのでご了承ください。




