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シンデレラの回想1

とりあえず再投稿です。


最終加筆:6/9





 新しい家族が増え、自分の一変した状況に戸惑いながらもなんとか受け入れ始めた頃の事。


 二人の姉は母の肖像画を見てこう言った。

「うーん、美人は美人なんだけど、こう……なにかな。どことなく腹黒いことを企んでそうな顔よね」

「同感」

「それでいて何かお粗末な策を練って自滅しそうな顔でもあるわよね」

「同意」


 などと勝手な事を言いたい放題言い合ってうんうんと肯き合っている姉達二人の姿を後ろの方で見ていたシンデレラは、新しい姉達は実は魔女なのでは、と恐れを抱いた。

 一度も会ったことの無いはずの人物なのに、絵を見ただけで実母の本質を的確に語ったからだ。





 実は姉達の言うとおり、母は美人だが少々頭の足らない人だった。

 おまけに金遣いの荒い人で、母の実家も扱いかねていたらしく、新しい事業のために金策に奔走していた父に都合がいいとばかりに押し付けたそうだ。簡単に言えば、金は手切れ金として払ってやるから我が家の不良債権むすめを貰ってくれ、と実家から追い出されるようにしてここに嫁がされた、というのは後に使用人の噂話を聞いて知ったことだった。

 結婚したのはいいが、実家の家格から幾分下になるここに嫁がされたことに母は常に不満を抱いていた。

 今までであれば家格が下の者達ばかりだったので見下ろし放題だったというのに、今まで見下してきたもの達に逆に見下される立場になってしまったからである。

 そのせいで更に金遣いが荒くなったそうだが、父には商売の才能があったのかそれを補って余りあるほど仕事は順調に発展したそうだ。

 仕事が順調のためか、父があまり家にいないことをいい事に、母はやりたい放題だったそうだ。

 ドレスや宝石を買い漁り、果ては男を囲い込み貢いでいたという。

 その上、囲い込んでいた男達と情を交わしていたのであるが、逆に父もまた義母と通じていたのであるからして、ある意味お互い様、という事である。

 不思議と父と義母との関係は母の知り及ぶ事ではなかったが、もし当時その事を知った母は、きっと自分の事を棚上げして存分に逆上したに違いない。母は、そういう人だった。


 そんな生活を続けていたある日、母はシンデレラを身ごもったのだった。


 シンデレラは望まれない子供だったために、母はシンデレラを疎ましく思っていた。

 実の娘だというのに奴隷のごとく扱い、寝る場所も寝室ではなく台所の隅へと追いやっていた。そんな場所では寒さがしのげるはずは無く、シンデレラは暖を求めて暖炉の中で寝るようになった為に、よく灰を被っていた。

 そして次に母が狙ったのは父の命。

 父さえ死ねば彼女は自由になれるしお金も自由に使える、と毒まで用意していた。

 だが彼女はそれを使うことは無かった。

 その前に自分が病に倒れたからだ。

 そしてそのまま亡くなった。

 これが母の、自分のことしか考えなかった母のすべてだ。


 母が亡くなってしばらくして、姉達の家族三人はこの家にやってきた。

 少しきつい目つきの母親と長姉、そしてその後ろに控えるようにして居た表情をあまり動かさない次姉。

 そんな三人の姿を視界におさめたシンデレラが抱いた感想は。


 新しい支配者がやってきた


 半ばあきらめにも似たそんな気持ちを抱いたのはよく覚えている。

 また端へと追いやられ、そして奴隷のごとくこき使われるに違いない。

 そう考え、あきらめの境地で新しい家族となると紹介された人たちを眺めていた。

 だがそんな考えは、数分後には間違いなのだと嫌でも悟らされることになるとはひとかけらも考えてはいなかった。





「なんっっ…………て、かわいいのぉぉぉ!!!」



「へ?」

 何を言われたのかを理解する前、にすさまじい衝撃を受けた。

「今日からこの子が私の妹になるのね。外見は確かに貧相だけど将来を見つめれば期待が持てる体つき、そして小汚い格好にくすんだ金髪は磨けばきっと光る。ああ、もうこれほど弄り甲斐のある姿がもう素敵過ぎるわ!私のものになったという事は好きなだけ愛でていいのよね。ああ、しっかり食べさせて体つきが出来上がったら、色々と着せ替えも楽しめそうだわ!!もう幸せよぉ!!!」

 視界が闇に閉ざされてしまった上、尋常ではない密着感に息が止まりそうだった。そして語るたびに締め上げる力が増してゆく。

「ああ、本当に可愛いわぁぁぁぁ~~~♪」

「ヘ、ヘル……プぅ……」

 息も絶え絶えにかろうじて放った言葉に、すかさず次姉は反応してくれ、暴走していた長姉を止めてくれた。

「姉さま、即放す。シンデレラ、死にそう」

「あ、ごめんなさい。あまりにもかわいすぎたからつい……」

 そう言いながらようやく圧死寸前から解放されたが、どこか名残惜しそうにこちらを見つめる姉の視線に、別の意味で恐怖を抱いた。


 あの胸は凶器だ。


 対面初日にして、はっきりそう悟った。

 その後は次姉の手によって強制的にお風呂に直行便となったのだが、その過程での出来事は正直半分ぐらいしか記憶に残っていない。

 なにか色々と燃え尽きてしまうような出来事が起こった気もするのだけれど、それ以上にその後の出来事、家族揃っての初めての食事の時の記憶に全てが忘却の彼方に持っていかれてしまったのである。

 目の前に供された食事は初めて見る豪勢な食事だった。そして一口食べた瞬間、涙がこぼれた。

 初めて食べる美味しい食事を味わえる喜びに感動していたのだが、それは途中までだった。

 食事が後半に差し掛かった頃だろうか、長姉の獲物に狙いを定めた捕食者のような視線に気付いた瞬間、美味しいはずの食事の味が分からなくなってしまったのである。


 あれはちょっぴりしょっぱい思い出だ。

 まあ対面初日は、こんな感じで終了した。



 そういった事もあって、長姉にあまり近づこうとは思わなかった。それ以上に、あの圧死恐怖は二度とごめんだ。

 そう思っていたのだが、「来い来い」と招かれ、何かいい匂いのするものを手渡され、食べた美味しさに気を緩めたが為に再び圧死されかけること数度。

 学習能力が無いと言わないで欲しい。

 誰だって見た事も無い、そしていい匂いのする食べ物を目の前に差し出されて、手を伸ばさずにはいられないだろう。

 そしてそれは、義母に「あなたは大切な妹を殺す気ですか!!」とガッツリ説教されるまで手が緩むことは無かった。

 そのためかしばらく豊満な胸に対して恐怖心が沸き、夜毎「胸が、胸がああぁぁ……」とうなされていた、とは後に次姉に教えられ知った。

 ちなみにうなされる原因となった人物は、そのことでさらに義母に説教されしばらく接触禁止を言い渡され落ち込みきっていた、とも次姉に教えてもらったのはもういい思い出である。




 ~~ ‡ ~~




 新しい家族となった人達は、はっきり言って美人揃いである。



 長姉アスタルテ姉様の特徴としては、豊満な胸に緩やかなウェーブを描く漆黒の髪、少しきつめの目つきながらも時折緩む目元がえもいわれぬ色気を放つ女性だ。

 料理の腕前と裁縫の腕前は、義母譲りか姉妹の中で一番だった。

 そして意外に思われがちなのが可愛いもの好き、ということだろうか。

 確かに見た目だけで判断すると、可愛いものと結びつかないような外見である。どちらかと言えば、大輪のバラを背負って誰かを追い落とすことを企みそうな雰囲気だ。そんな事をする人ではないけれど。

 いつだったか、道ですれ違った男性達の会話の中で『世の女性の胸には夢と希望とロマンが詰まっているんだ』という言葉が耳に入ってきた瞬間、まずそれは無いと力いっぱい抗議したい衝動に駆られたのはもう懐かしい思い出だ。

 私にとって長姉の胸は、ほわほわの弾力と共に恐怖と絶望がいっぱい詰まっているようにしか見えなかった。

 長姉に悪気が無いのは百も承知だ。悪気無く、ただ可愛いものを力いっぱい愛でているだけなのだ。


 問題なのは、抑えきれない欲望と抱きしめる力の強さと半端無い密着度。


 この三点セットが私を恐怖に陥れるのだ。

 時折自分の胸を見下ろし、正直、豊満な胸を少しでも分けてもらいたいと思ったのはここだけの話。




 次姉のエセルシア姉様は程よい体つきで栗色の髪に謎めいた雰囲気を持った美人である。乏しい表情がその謎めいた雰囲気を助長していた。ごく稀に見た事のある満面の笑みは、同性であっても見とれるような美しさがあった。

 そしてなにより特徴的なのが、家族の会話が短い。単語をつなげたような喋りなのである。だがそれも家族間だけの話だった。

 いつだったか薬屋で仕事をしているのを見た事があったが、最初別人かと何度も目をこすって確認し直すほど家に居るときと違っていた。表情は接客業というのもありいつもより少し柔らかくなっていた。だがそれよりも一番驚いたのが、普通に喋っているのだ。

 いつだったか帰宅時にポツリと「疲れた」ともらしていたにも関わらず、意欲的に動き回る次姉を見て驚いた事があったが、この一件で気付いた。


 姉の『疲れた』は、『動き疲れた』では無く『喋り疲れた』ということなのだと。


 ようやく理解できた事を思いながら、次姉との会話を成立させるために必死にコミュニケーション方法を学んだしょっぱい時間が思い起こされた。

 あと、実は薬を扱うのに長けておりその趣味と特技を生かして薬屋でのバイトに励んでいる、というのはどうでもいい情報か。

 森の中でよく分からない植物を持ち帰っては部屋の中で何かを作っている、というのもあえて何も突っ込むまい。

 姉様の作ってくれた虫除けは、ものすごく効果抜群で手放せません。




 最上級の謎の人が、新しい母となった人であった。

 新しい義母は、長姉に似た美人……ではなく逆で、義母に長姉が似ているのだった。

 年頃の娘二人を産んだとは思えないような肌のハリ、まだ黒々とした髪は艶があった。

 裁縫・料理においては私達姉妹が全員で立ち向かっても太刀打ち出来ないほどの腕前を持つ人であり、私達三姉妹を区別すること無く厳しい教育を施してくれたのも彼女だった。

 そして何より目を見張るのが、義母の持つ豊富な知識は高度な教育をうけたものが持つような類のものであり、どんな人生を歩んできたのか本気で気になる人物である。実母と比べるべくも無いほどの、敬愛すべき人である。


 ただ……時折遠くを見つめて含み笑いを浮かべる姿は、正直何かを企んでいるようにしか見えないので止めて欲しいと心の中で願っていたりする。たぶん明日の献立を考えているだけなんだろうけど。

 あと、唐突に謎料理を食卓に上げるのも控えて欲しいと本気で思うときがある。

 美味しいのはわかるけれど、その、ちょっと見栄えが……。






出会い初日、食事時のエセルシアの心情。


……姉様、シンデレラが怯えてますよ。

姉様のことだから、どんな服を着せようかとかどんな食べ物を食べさせようかとか考えているだけなのだろうけれど、あれじゃあシンデレラは食事をまともに味わえないわ。

涙目で無理やり食べ物を詰め込んでるし。

さて、どんな風にフォローするべきかしら?

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