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第6話

「あれか」

 俺の視界に声の元凶らしき影が見えてくる。

 遠目で何かと戦いを繰り広げているのが分かった。


 武器は―――長剣(ロングソード)か?

 使っている奴は魔物が重なっていてよく見えない。

 一人なのか?

 見える範囲にほかの人影はない。

 パーティーが壊滅した、もしくは最初から単独(ソロ)なのか。

 どちらにせよやることは変わらない。


 敵は―――


―――ダークウルフ―――

 ブラックウルフが敵を喰らい過ぎて突然変異を起こしたもの。

 闇と同化し獲物を待ち受け捕食する。ブラックウルフの時とはすべての能力が大幅に変化しており、その能力差はブラックウルフの凡そ2倍。

 その敏捷性から1度見つかったら最後、逃げることは難しい。

 縄張り意識が強いのが特徴で、誤って踏み込んだ場合は速やかに逃げることをオススメする。



 出て来た情報を見て思わず舌打ちが出る。


 また面倒くさいのが出て来たな。


 ダークウルフは中堅プレイヤーがパーティー戦で倒すような敵である。

 上級プレイヤーならいざ知らず、ましてやあんなに追いつめられている奴が単独(ソロ)で挑む敵ではない。


 本人は逃げようとして囲まれたのだろう、次々と周りから襲い掛かられている。

 様子を見る限り、このままじゃジリ貧だ。


 まあ、あれだけの数の敵を傷を負いながらも必死に捌いているのは大したものだ。

 中堅の中から上位くらいの強さだろう。

 もうそれも限界が近そうだが。


 【遠視(えんし)】で見た情報を見る限り、ギリギリの到着になりそうだ。


 その距離は(およ)そ2キロ。


 あれから移動を始めること5分ほど。

 100メートルを約5秒で移動できたことを加味すると約6キロは移動したことになる。

 いや、体感でさっきよりも移動速度が早い事からもっと移動しているかもしれない……いや、確実にしている。


 なぜそう思うのか、簡単だ。

 それも移動中に新しく見つけた―――というより気づいた…気づかされたという方が正しいか。


 それはスキルを使うごとに加速していくという事実だ。

 ゲーム内ではどんなスキルで加速しようとも本人のステータスの上下を除き、スキルの加速には上限があった。

 それはある一定速度を超えるとブレーキがかかり、それ以降はどんなにスキルを発動しようが加速しなくなる、というものだ。

 それがさっきから限界速度を超えているのにも関わらず加速し続ける。


 はっきり言って異常だ。


 体力とスタミナのゲージが消えてしまっているため、長年の経験を頼りに残りのスタミナゲージをある程度予測して動いているが、今は状況が違うからどこまで()てにして良いのかも怪しい。


 そう自己分析しつつ、俺はこのままじゃ通り過ぎそうだと冷や汗を流す。

 加速はもう十分だ…十分すぎる。

 そう考えている間もぐんぐんと距離は縮まっていく。


 残り1キロと少し。


 マズイ。明らかに加速し過ぎだ。

 止まれるか?


 残り目測600メートル


 アカン。


 もうこれは一か八かに賭けるしかない。


 相手を跳び越えてしまう前の最後の着地をした瞬間、俺はスキル発動を念じる。


 ―――【天駆】。


 俺は天井ギリギリまで空中を(・・・)駆け上がると今度は斜めに落下する為に【多段ジャンプ】を使い、ちょうど敵地のど真ん中に向かって()を蹴って勢いを出来るだけ落とす。


 これで通り過ぎることはなくなった。

 ここまでは予定通り。


 次が本当の賭けだ。

 上手くいってくれよ―――


 ———【縮地】。


 俺は空中を足場に(・・・)してスキルを発動し、今にも飛びかかろうとしているダークウルフの前に一瞬で距離を詰めると着地ざまに塵芥を振り抜いた。


 ゴォオオオウ!!


 塵芥を軸にして扇状に剣風(けんぷう)が巻き起こる。


 それが直撃したダークウルフ達は壁に叩きつけられ血の花を咲かし、通路上に居た個体は遠くまでバウンドしながら吹き飛んでいった。


「………っ!!」

 俺の背後で息を呑む気配を感じたが、俺はそれどころではない。


 ………できた。


 …生きてるぞ!


 賭けに勝った感動に思わず打ち震える。


 俺のプランはこうだ。

 まず【天駆】を使い空中を掛けて距離を稼ぎながら減速し、【多段ジャンプで】更に勢いを落とし【縮地】で着地。

 おまけで前方の敵を排除。


 問題は縮地の使用距離が足りるか、そして着地で勢いを削げるかだ。

 だが、それも杞憂に終わる。


 ゲームの最高飛距離15メートルはゆうに超えても平気で、勢いは着地と同時に完全に消えた。

 どちらもゲームでは考えられなかったことである。


 今が異常事態で、今までの常識が通用していなかったという情報の元、こんなことが思いついた。

 成功したから良かったものの、もうこういう危ないことはしたくないものだ。


 俺は賭けに勝ったことに安堵の息を吐く。


「……な…なに…が?」


「ん?」

 振り返ると口をポカンと開けている黒髪の美少女騎士が居た。

 現実でもそうそうお目にかかれないほど整った顔立ちは、つり目がちの瞳、その(たたず)まいとあいまってどこか凛とした雰囲気を醸し出している。

 今はそのだらしなく開けた口がその雰囲気を台無しにしているが。


 こんなに人間らしい顔立ちは、どこか作り物っぽくなるアバターでは作り出せない。

 素の顔なのだろう。

 正真正銘の美少女だ。


 というか女だったのか。


「これは…一体―――き、貴様は誰だ!どこから湧いて出た!」

 ようやく意識が戻って来たと思ったら剣を突き付け警戒を露わにする女騎士。


 助けてやったというのに失礼な奴だ。

 人をゴキ○リみたいに言いやがって。


 まあ、いきなり現れた奴を警戒するのは当たり前だ。

 しかもそいつは今まで苦戦していたダークウルフを一撃でまとめて吹き飛ばし、あっさり倒したんだから。

 これで警戒しなかったら(むし)ろ俺の方が警戒するわ。


 これは罠かってな。

 そういったPKの手口を聞いたことは無いが。


 そんなことを思いつつ、俺は口を開く。


「話はこいつらを片付けてからだな」

 内心で今の状況をこのプレイヤーであろう女にどう説明したもんかと考えながら、問題の先送りをしつつ、塵芥を残ったダークウルフに向けて構える。


「そ、それもそうだな…!」

 ハッとした顔をした女騎士は持っていたロングソードを構える。


「いや、お前は休んでろ」

 疲れているだろうと思って気遣ったというのに、女騎士は怒り出した。


「それは私が女だからなのか!?」


「は?」


「皆そうだ。女が騎士をやるのはおかしいと、ひ弱な女に何ができると、女だからとそれだけで蔑む…!貴様もそうなのだろう!?私は戦え―――痛っ!」

 更に何か喚こうとする女騎士をデコピンで黙らせつつ、俺は告げる。


「何を喚いているのか知らないが、性別なんて関係ないだろう」

 その俺の言葉に女は衝撃を受けたのか、ポカンとしている。


 それを無視して俺は続けた。


「俺は別にお前が女だからと言って弱いだなんて思わねえよ。現に、こいつ等を相手に戦えていたじゃないか。お前はそこらの口だけの奴よりよっぽど強いさ。他人なんて気にすんじゃねえよ」


「……っ!!貴様は―――」


『グルルルルル!!』

 一気に同朋を殺されて警戒しているダークウルフに向き直りつつ、俺は何かを口ずさもうとした女騎士を遮ると背中越しに告げる。


「お前はもう十分頑張った。だから、あとは俺に任せて休んでいろ」


 そう告げた俺はダークウルフに向かって飛び込むと塵芥を横なぎに振るう。

 それだけで3匹がまとめて胴体半ばから真っ二つになり、物言わぬ骸に変わった。


 血糊(ちのり)を払い、俺は更に距離を詰める。


 それからは一方的なな蹂躙だった。

 スキルを使わずとも、塵芥の切れ味だけで数匹をまとめて問題なく倒せる。


 切れ味が上がっているとは思っていたが、これは凄いな。

 面白いように斬れる。


 最後の一匹に止めを刺し、俺は血糊を払うと塵芥を鞘に納めた。


 カチンッと子気味良い音が周囲に響き渡り、俺はふう、と息を吐く。


「貴様は…一体……?」

 振り返った俺の目に映ったのは、呆然としている女騎士の顔だった。


 さて、どこまで情報を把握しているのか、やっと確認が取れる。

 やっとプレイヤーに会えたんだ、この機を逃すまい。


 そう考え、俺は未だ呆然としている女騎士の元へと歩き出した。














ヒロイン登場。


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