表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壁越しの二人   作者: 雄たけび巨人
最終章 壁越しの音
34/38

想いを継ぐ

 大切な友人に頬を叩かれ、私はどれだけ自分が大事にされてきたかを思い知った。

『お願いだから、もう勝手に一人で遠くへ行こうとしないで。志継に助けられたから、私はこうして、ここにいられるの。ここが私の居場所なの』と、華菜は言った。

由梨は隣でずっと泣いてた。二人とも教室の片隅で、必死に私に言葉をくれた。

 この二人がいなければ、私はこうして両足を地につかせることはできなかった。私の足は、遥か遠くへと歩を進めていたと思う。

 だから、こうして由雄くんの病室へも歩を進めることが出来た。

 だけど、どうして。

 どうして、私はあそこで彼の名を呼べなかったのだろう。

 この前は、すこし素直になれたのに。彼のそばにいたいと、そう思えたのに。まだ私は迷っているのだろうか。彼の元に行くことが、自分の弱さも、卑しさも全てさらけ出すことがひどく怖い。甘えるという言葉に変えてしまえば、きっと簡単なのだろうけど、私にはどうしてもそうは思えなかった。

 私の存在は、不幸を招く。

 確かに、これは私ではない沙緒理先輩の言葉だ。でも、沙緒理先輩も含めて私の存在が築いてきた人間関係は、捻じれていった。まっすぐな線だった関係は、私という存在のせいで、ひどく捻じれ曲がった。

 これ以上は、深入りしてはいけない。

 これが、おそらく私の答え。

 きっと、変わらない。

 病院から、帰宅の道を歩んでいた私は、そんなことばかり考えていた。

「………」

 一人になるとこんな言葉ばかり。結局、私は変わっていない。ふと、自嘲気味な笑みを浮かべると、一瞬にしてその考えを否定した。私は、変わろうとしていんだ。

「…………」

「…………」

 ほら。やっぱり、こういう時には彼女が現れる。あの時の言葉をそっくりそのまま返してやろうか。

「志穂ちゃんって、結構泣き虫だよね。いじめられてたかもって話したときも、さっきも私なんかの言葉に泣いちゃったりして」

 両方の拳は握れない。志穂ちゃんは、左の拳だけを強く握り、ただただ私を睨んでいた。悔しさなのか悲しみなのかはわからない。だけど、目尻には微かに涙が浮かんでいた。それでも、いっこうに口を開こうとはしない。

「あの時は、ありがとう。おかげで、また私は由雄くんに会えた。好きだって気持ちは素直に認められようになったよ。だけどね。それでも、私は彼のそばにいちゃいけない。私なんかじゃ、彼を幸せにできない。悲しい目に合わせるだけだよ」

 そうだ。そうなのだ。私は変われないのだ。どんなに、変わろうとしても。どんなに弱い自分を強くしようとしても。私は、頑張ることができない。

「…………」

 私の言葉に、怒りでも浮かべるかと思った志穂ちゃんだけど、さらに涙を浮かべ、口元を戦慄(わなな)かせ、必死にそこにとどまっているようにも見えた。

 私はさっき自分で志穂ちゃんに言った言葉を反芻した。志穂ちゃんだって、決して強い人じゃない。いや、むしろ弱い人だと思う。だってほら、泣いてばかりいる。じゃあ、なんで?

 なんで、あの時は泣かなかったの?

「ねぇ、志穂ちゃん」

 そう問いかけても、彼女は口を開こうとしない。必死に、こちらを睨んでいた。彼女は変われたのだろうか。あの一瞬だけでも。泣き虫な彼女が、あの日あの時だけでも強くなれたとしたら。好きな人のために、ただ純粋に頑張ることができたのなら。

 何も考えずに、前を向くことができたなら。

「私は強くなれるの?」

 その言葉に、彼女は初めて笑った。そして、おもむろにこちらを手を差し出す。そうだ、志穂ちゃんに言われたではないか。動け、と。前へ進め、と。

(お前は、駅伝をやるために生まれてきたんだな)

 そして、私も笑ってやる。彼女からの想いを受け取るため、手を伸ばす。

 そう、こんな私を大切に想ってくれた全ての人のために。

 想いを継ぎ、繋げるために私はここにいるんだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ