動く歯車 止まる歯車
「ん…………」
目が覚めると、そこには真っ白な空間があった。
微かな消毒液の匂い。どうやら、病院のようだ。
「…………」
自分の身に何が起きたのかを思い出そうとするも……
「つっ!」
さっきから、ひどく頭が痛い。そのせいか、考えをまとめようにもどうにも上手く収拾がつかない。
(たしか…………あの記録会で円さんと競って、それで…………)
そんな感じで自分の記憶を探っていたところ、ガラガラと病室のドアが開く音の後にいもの堅い表情で彼女は入ってきた。
「起きた?」
「志継……か」
色々と話したかったが、とりあえず、俺は現状を知りたかった。
「その、俺どうなったんだ?」
「レース中に、大転倒。みんな大騒ぎだったよ」
「そっか……」
「……さっき、原高校の顧問の先生が来てね。『由雄に3区を任せる』って。それだけ伝えてくれって、頼まれたの」
「……まじ?」
「うん、まじ」
「いよっしゃー‼」
「由雄君、ここ病院」
「あ、悪い」
俺は、恥ずかしくなって、うつむいてしまう。
『あの……』
二人の声がちょうどハモる。
「ど、どうぞ」
そう言って、俺に先手を譲ってくれた。
「じゃ、じゃあ……ごめん」
「うん」
「伊達先輩の事故しか知らないっていうの、本当は嘘だったんだ。全部聞いてたんだ。二人から。あの事故も。魔が差したとはいえ、故意のものであったし、そのことをきっかけに、二階堂さんから嫌がらせを受けるようになったのも聞いた。それに、その問題の二階堂先輩の自殺。それが、志継を一番苦しめてるって知った時には、本当に悩んだ。どうしたら、助けられるかなって。でも、お前の姿を見たら、そんなの全部吹き飛んじゃってさ。悪かった」
「ううん」
俺は、頭を下げるも、志継は全然気にしてないという風な感じで首を振った。
「嬉しかった。それは事実なの。でも由雄君の気持ちを真正面から受け止められる余裕が、私にはなかったの。だから、私の方こそ、ごめんなさい」
「……」
「自分の気持ちを偽るしか、私にはなかった。我慢することで、すべて忘れてしまおうって。それで、本当に苦しかったら消えちゃえばいい。いつだって、先輩の後は追える。そんなことばかり、考えてた」
「……」
「でも、私がいなくなったら、悲しむ人が大勢いるみたい」
そういって、舌先を少し出して、遠慮がちに笑う。
「じゃあ、大会がんばってね……よ……」
「……?」
なんだろうか、志継の様子がまたおかしい。そこで病室近くに、志穂がいるのに気が付き、俺は手を振った。
「水原君」
その手は空中で硬直した。
時計の針がまた止まる音が聞こえた。




