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【書籍化決定】カラスの悪魔がやって来る 〜泣き寝入りするのをやめた元社畜、世界中のカラスを支配して、ナメた探索者を狩り尽くす〜  作者: 川野笹舟
第一章

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第33話 雨照との決着

「勝った……?」「え? 寿命は?」「やった! 勝ったから寿命も徴収されないってこと?」


 雨照《アマテラス》が喜びに騒ぎ始めたが、それを気にすることのないガイコツの口上は止まらなかった。


『見事に賭けは成立ッ! 約束どおり、寿命を対価にブックメイカーの権利を行使するッ! それではみなさァん、サヨーナラァァッ!』


 ガイコツの全身が金色に光り輝きはじめた。

 光はだんだん強くなり、目を開けていられなくなる。


「きゃぁっ!」「ふせろッ!」「やはり攻撃かッ!?」


 俺も念のため地面にしゃがみ防御態勢を取ったが、特に体に異変はなかった。


 やがて光がおさまり目を開けると、金ぴかガイコツは消えていた。


 劉《りゅう》さんは目をしばしばさせながら俺に話しかけてきた。


「まったくこのまぶしさだけはなんとかしてほしいですよね。アタルさん、もうあなたの希望はかなったはずですよ」


「そう、なのか? 記憶はすぐに確認できないし……とりあえずネットの書き込みでも見直してみるか」


 スマホを取り出そうとしたところ、「きゃー!」という悲鳴が聞こえて中断する。


 悲鳴をあげたのは雨宮だった。


 雨宮を見てみると、地面にうなだれるようにして座っている。


 彼女は化粧用の手鏡で自分の顔を見ながら、なんどもペタペタと顔を触っていた。


「嘘……うそうそうそッ! 寿命ってそういうこと!? これ数か月ってレベルじゃないわ……数年、数十年ぶんの……」


 よく見ると雨宮の顔はだいぶん老けており、もともと20歳ほどに見えていた外見は、今や50歳をすぎたようなおばさんになっていた。


 美しかった黒髪もパサつき、白髪が目立っている。


「劉《りゅう》ッ! あなた騙したわね!?」


「だましてないです。あなたが説明を詳しく聞かなかっただけですね。あなたは本当に人の話を聞かないです」


 雨宮だけでなく、雨照のメンバーは例外なく全員が老け込んでいた。


 それだけでなく、地面に倒れたまま動かない人もちらほらいる。


 仲間に心臓マッサージをされているが、おそらく寿命が足りなくて死んでしまったのだろう。


 俺も念のためスマホのインカメラで自分の顔を確認してみたが、変化はないようで少しほっとする。


 それにしても『ブックメイカー』か……とんでもないスキルが世の中にはあるんだな……とかなんとか考えながら横にいる劉さんの顔を見ていると、ふと素朴な疑問が浮かんだ。


「劉さんは、なんというか……その、老けてないよな? 一度も自分の寿命を賭《か》けたことがないのか?」


「ワタシはブックメイカーですからね。親や胴元が賭けに参加するのは反則ですよ」


「なるほどな」


 ハハハと二人で笑っていると、雨宮がこちらを見ながらフラフラと立ち上がった。


「絶対……許さない……」


「はぁ……あんたもしつこいな。でも、俺は許すよ。あんたの老け顔を見たらさすがにちょっとな……かわいそうになってきた」


「老け顔……ですって? 殺す……殺してやるッ……奥義《おうぎ》『雨照《アマテラス》』……ッ!」


「おいッ……!?」


 せっかく公安と劉さんのおかげで手打ちになりそうだったってのに結局こうなるのか。


 奥義とやらに対抗するため、魔人形態になり、黒翼をはためかせ全速で雨宮へ接近する。


 奴の攻撃を受ける前にかたをつけたい。


 ――狙いは顔! 一撃で破壊する!


 振りかぶった右手が雨宮の顔に届く直前、俺の体をとんでもない圧力が襲う。


「ぐッ……!?」


 水!? 雨だ……!


 一瞬にして体全体を雨水で覆われていた。


 ――だが、右手! かすった! 手ごたえあり!


 視界のすべてが雨によって塞がれる直前に見えたのは、切り裂かれて血だらけとなった雨宮の顔だった。

 なぜか彼女の両腕もなくなっており、両肩から血が噴き出していた。


 だが、即死させることはできなかったらしく、まだ彼女のスキルは継続している。


 俺の体を覆う水の圧力はさらに増してきていた。

 息ができないし、まるで深海にでもいるように四方八方から圧力がかけられて手足を動かすことすらできない。


 抜け出すことができず、しばしそのまま耐えていると、急に圧力が弱まった。


「……!?」


 俺の体を覆っていた水が形をくずして地面にバシャリと落ちた。


 原因は不明だが、抜け出せたらしい。


 自由になった体で、すぐさま雨宮に接近し、心臓を貫くつもりでかぎ爪を突き出した。


 ――カァンッ!


 爪が甲高い音とともに弾かれる。


 一度後退し、雨宮の様子を確認すると、彼女の体が全身真っ黒に変色していた。


 顔も体も服までも、なにもかもが黒くなり、金属のように鈍い光沢をはなっている。


「雨を操る以外にもスキルを持っていたか」


「…………」


 俺の問いかけに雨宮は沈黙を返す。

 いや、それどころか身じろぎひとつしない。


「はいー、そこまでですー」


 間に入ってきたのは公安の石塚だ。


 石塚は雨宮の隣まで歩いていき、ドアをノックするようにコンコンと雨宮の黒光りする体を叩いた。


 それでも雨宮は何の反応もしめさず固まったままだ。


「もしかして、そいつが黒いのはあんたのスキルか?」


「正解ですー。わたしのスキル『石化』で固めちゃいました」


「石化……。石というより金属に見えるけど……黒い金属?」


「あぁ、私の石化は特殊でして。アダマンタイトになっちゃうんですよね。なので、アタルさんが全力で殴ってもたぶん壊れないですよ? あっ、お試しで壊そうとしないでくださいねー?」


 アダマンタイトといえばダンジョンの中でしか採れない最高硬度の鉱石である。


 かなり希少なはず。

 石塚のスキルもまたレアスキルということか。


 雨宮は両腕を失ったままアダマンタイト像になっている。

 顔も、右半分が切り裂かれてはいるが、表面的な傷であり、やはり殺すところまではできていなかったようだ。


「まるでサモトラケのニケみたいだな。どうせなら本家にならって頭も落としたかったところだが……そういえば、なんで両腕がないんだ?」


「アタルさんの攻撃は雨宮さんの顔を切り裂いたあと、そのままの勢いで右腕を吹き飛ばしました。その直後に、カラスのムギンさんが空から突撃してきまして、左腕を吹き飛ばしちゃいましたよー」


「そうなのか。ムギンよくやった」


 ムギンは俺の肩にとまり、『殺し切れず申し訳ございませぬ』とつぶやいた。


 俺はあらためて雨宮のアダマンタイト像を見る。

 もう人間ではなく、完全に像になってしまっており、ぴくりとも動かない。


「結局、石塚《あんた》が雨宮を殺すなら俺が殺してもよかったんじゃないのか?」


「え? あぁ、殺してませんよっ。わたしの石化スキルでアダマンタイトになった生物は死なないんです。呼吸も心臓も止まるんですけど、意識はあるんですよ。脳みそもアダマンタイトになってるはずなのに、どういう仕組みなんでしょうねー」


「それは……」


 かわいい顔をしてエグいスキルだ。

 とんでもない拷問じゃあないのか?


「それにしても雨宮さんは本当に困りますねー。荒事になったら止めますからねってさんざん事前に説明したのにっ。とりあえずこの状態で1か月くらい反省してもらいましょう」


「もしかして、石化の解除もできるのか?」


「えぇ。解除したら、また何事もなかったかのように動けるようになりますよ。まぁ、まず治療しないと死んじゃいそうですけどね……。で、動けるようになったら、アタルさんとの約束通り、探索者を辞めて公安《ウチ》で働いてもらいますので」


 公安の黒服たちがアダマンタイト像となった雨宮をかつぎ、どこかへ運んでいった。


 雨照のメンバーたちは老化現象や雨宮の敗北に心を折られたのか、誰もが呆然としている。


 さすがに今後、彼らが俺に対してちょっかいをかけてくることはないだろう。

 俺の目的は果たされたといってもいい。


 もうそろそろ帰ろうかと後ろを振り返ると、すぐちかく劉さんの顔があった。


 護衛のメアリー氏にお姫様抱っこされている。

 メアリー氏はニコニコしながら俺を見ていた。


「ヘーイ、カラスの魔人、あんた強そうだね~。第二ラウンドはアタシとやるかい?」


「やらないよ。劉さんは……無傷だな。雨宮の攻撃に巻き込まれなかったようでよかった。メアリーさんが助けてくれたのか?」


「モチロン。護衛だからね」


「劉さんの隣にいた俺もついでに助けることができたんじゃないのか?」


「できるけど、やらないよ~。契約外だからね。ハハハッ!」


 地面におろされた劉さんはズレた眼鏡を指であげている。


「劉さん、今回は世話になった。最後はちょっとごちゃごちゃしてしまったけど、俺の要望は満たされたと思う。ありがとう」


「いえいえ。報酬は雨照と日本政府からたんまりいただきましたからね。お仕事ですよ」


「それでも感謝する。いつか俺の力が必要なときは依頼を投げてくれれば、できる限りこたえるよ」




 その後、雨照は約束通り解散し、雨宮の父も政治家をやめさせられた。


 また、雨宮家が持っていた資産はすみやかに没収され、一週間後には俺の口座への振り込みが完了していた。

 もっと時間がかかると思っていたが、お上は本気で動いてくれたらしい。


「これだけ金があるなら家でも買うか」


『王よ、それなら新宿にすべきです』


「新宿御苑《カラスダンジョン》が近いし、新宿はそもそも野生のカラスも多い。いいかもしれないな」


 ムギンやアルファたちが動きやすいだろうし、新宿で探してみよう。

 どうせならタワマンってやつがいいかもしれない。


 フラッシュ・フラッドに殴られたところから始まった雨照との因縁は、こうして決着したのだった。

 いろいろとトラブルはあったが、結果的に俺の心は晴れやかだった。

あとがき


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

ここで第一部完となります。


この後も第二部が続いていく予定ですが、残念ながら書きためていたのはここまでのため、毎日更新はできなくなってしまいます。

申し訳ございません。


★あとがき修正&追記★

書きためて毎日更新にしたほうが良さそうという意見もあり、私自身もそのほうがよいと考えましたので、更新再開のめどはひとまず10月とさせてください。

ではまた、第二部でお会いしましょう!

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― 新着の感想 ―
更新再開を前に最初から読み返しました。やはり最高ですね!!続きが待ち遠しいです。応援しています。
第一章完結おめでとうございます 一気読みするほどの面白さ 続編があるとのことで大変嬉しいです
せっかく石化してるんだから、カラスの糞でコーティングしてあげればよかったのに
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