第29話 雨照と公安の動き
渋谷、某ビルにて。
ビルの大会議室には、雨宮を筆頭に雨照の主要幹部が集まっていた。
渋谷ヒカリエは高木アタルに破壊されたせいで当分使えないため、急遽、あたらしくビルを借りてそこを拠点にしている。
会議室には雨照以外に、外部の人間も二人いた。
二人とも黒いスーツを着ている。
彼らはどちらも公安の人間だった。
一人は20代前半の女性で、黒髪を後ろでまとめている。
やぼったい眼鏡と大きな胸以外に特徴のない女で、名を石塚という。
かつてアタルがダンジョン協会の近くでもめごとをおこしたときに仲裁に入ったことがある。
もう一人は40歳をすぎたくらいの枯れ枝のような男性。
細身の長身の上には疲れ切った顔がのっかっている。
彼は石塚の上司で炭田という。
大会議室の前方にはホワイトボードがあり、講義台が置いてあり、二人はそこに立った。
イスに座った雨照のメンバーたちが二人を見る目はけわしい。
それもそのはずで、雨照は今、高木アタルへの対応で手いっぱいになっている。
――こんな忙しいときに部外者の話なんか聞いてる暇はないんだよ!
といういらだちは二人にも伝わっていたため、石塚はさっさと話を進めることにした。
「お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。わたしは公安5課の石塚ですー」
「同じく公安の炭田です」
一番前の席に座っている雨宮がたずねる。
「公安ならパパのほうに用があるんじゃないの? こっちは忙しいから要点だけ話してくれる?」
石塚はうなずいて、
「我々公安は雨照に協力します。具体的には、高木アタルの求める要求にこたえるために人員やツテを提供するという話ですー」
「なっ……! それは内政干渉でしょうが! いち探索者クランの行動に強制的に介入するのは法律違反でしょ?」
雨宮が机を叩いて反論する。
「いち探索者クランとは言い難いですよねー。雨照はS級です。あなたがたが……というより雨宮さんが高木アタルに殺されると国力に影響が出るのでー」
「殺されるですって!? この私が!?」
雨照がS級クランと判断されているのはクランマスターである雨宮の力が大きい。
確かに、高木アタルには自クランの探索者を数名殺されてしまったが、雨宮は自分が直接戦えば勝てると考えていた。
「えぇ、彼はどういうわけか、ほぼ不死身に近いほどの耐久力を持っています。それに加えてあの索敵能力。持久戦ではいくらあなたであっても勝てないと分析しておりますー」
「ふんっ、あなたたちも奴の調査をしてるってわけね。なら、あいつの居場所だけ教えてくれればいいわ。今から私が殺しに行く」
「いえ、それも許されません。我々の分析で、彼もまたS級相当の力があると判定しました。つまり、彼もまた死んでは日本にとって困る人材ということです。もし、あなたがたが高木アタルを殺すおつもりなら、公安はそれを止めに入りますよー」
「なッ……!」
会議室がざわめく。
いまは雨宮が会話しているので他のメンバーが声をあげることはなかったが、雨宮がいなければ怒号をあげていただろう。
高木アタルにはすでに何人も殺されている。
さらに渋谷の一等地にある拠点を破壊するだけでなく、嫌がらせのように汚された。
はらわたが煮えくり返り、もはや殺すしかないというのが雨照上層部の総意だった。
さすがにこのままだと部下たちが暴発すると感じたのか、雨宮はいったん話を最初に戻した。
「それで、あなたたちは協力するって言ってたけど、あのクソ野郎の要求にこたえるあてがあるの? 記憶を消せとか、ネットから情報を消せとか、好き放題言ってくれてたけど」
「えぇ、ダンジョン協会とも連携をとり、記憶操作系のスキルの持ち主を現在探しています。また、インターネット上の情報削除については内閣のサイバーセキュリティ戦略本部と連携をとり、なんとかできないか調整中です」
「そう……さすが公安ね。私がパパに頼めば似たようなことはできるけど、時間がかかるわ。ぜひ協力してちょうだい」
雨宮の返答に、雨照のメンバーたちから声があがる。
「ちょっと待ってください! つまり、あいつの要求を飲むってことですか!? あんなやつさっさと殺しましょうよッ」
「そうですよ! こっちのほうが被害が大きいのに、下手に出る必要はないと思います」
雨宮は数秒ほど部下の声を聞き流したあと、急に立ち上がった。
「黙りなさいッ!」
静まりかえる会議室。
「好き勝手言ってんじゃないわよ。どうせ奴と直接戦うのは私なのよ? 私以外のメンバーが役に立たないんだから仕方ないわ。その私が、公安の提案に乗るって言ってんの。文句ある?」
部屋の中にいる人間を端から端までにらみつけた雨宮に対し、部下たちは目をそらしたまま沈黙していた。
「ふんっ……それで? うちは何をすればいいわけ?」
「捜査にかかる費用の負担をお願いしますー。あと、人手が必要であれば、それについても都度依頼するので、ご対応をお願いできればと」
「チッ……金は取るのね。あんたらが希望して、それに乗ってあげるだけなんだからちょっとくらい金も出しなさいよ! あんたらだってうちが提案を蹴ったら痛いでしょうが」
公安の石塚は気まずそうな顔で、隣にいる炭田に目を合わせた。
炭田はたっぷり3秒考えた後、うなずきを返した。
「のちほど見積もりを送るので、調整しましょー」
こうして、雨照と公安は、高木アタルが出した無茶ぶりの要求にこたえるため、せわしなく動き出すこととなった。




