死角からの──
「死絡村は、そこまで大きな村ではないはずです。何度か依頼で行きましたが、違和感などは感じませんでした。活気のある良い村でしたよ」
『表面上だけならいくらでも見せられる。仮面を被れば、悪い奴も良い奴に見える。目だけでの判断は大きな見落としを生むよ』
「そうですね、失礼しました」
見た目だけだったとしても、琴平がそう感じているのなら、一応は活気のある村なのか。
なら、話を聞いてくれる人も多分いるよな。村長とかに話を聞けたら一番いいと思うんだけど。
「死絡村に行く事自体は可能なんだよね?」
「闇命様がここから出られるようになったからな。道のりや手段などはどうにでもなる。心配するな」
「なら、まず行かないと表面上の村しか分からないし、行こう。呪いの回避方法とか、浄化とかも。万が一に備えて色々準備した方がいいかな?」
「そうだな、いろいろ準備しよ。万が一に備えるのは悪くない」
そんな事を話し合い、今日は解散となった。
紅音は途中から鼻ちょうちんを膨らませ、座りながら目を瞑っている。
うん、確実に寝てました。
※
それから数日後、陰陽助である雨燕さんの準備がやっと整ったらしく、俺達三人は死絡村に向かうため馬車に揺られていた。
自然豊かな道。周りには緑が広がり、太陽の光が隙間を縫って俺達を照らしてくれていた。
そんな景色を楽しみたい道を、優雅に馬車に揺られているんだけど、空気が重たい。
俺の両隣には当たり前のように琴平と紅音が守るように座り、向かいには雨燕さんが腕を組み、目を閉じながら座っている。
いや、普通は二人ずつで座らない? なぜこんな偏った座り方に……。
まぁ、隣に座りたくないんだろうなぁ。気持ちは分からなくもない。
分からなくもないけどさぁ。
この沈黙、どうにかならない? めっちゃ空気が重たいよ!!
――――ちょ、誰か喋ろう!! なんでもいい。なんならしりとりでもいいから、誰か話さない?!?!
重すぎる沈黙に耐えられないんだけど!
闇命君は俺の肩で寛いで鼻ちょうちんを出しているしさ!!!
なんで俺がこんなに気まずくならないといけないんだよ!!
理不尽な怒りを堪えていると、琴平が外を眺めながら眉を顰め始めた。
雨燕さんも腕を組みながら難しい顔を浮かべる。
何も分かっていないのは俺と紅音だけ。
なんでそんな顔をしているんだろう。
「…………気づいておるな」
「はい。この気配……近いですね」
「うむ。ぬしも気づいているだろう?」
「え、いえ。まった──あんたに気づいて僕が気づかない訳ないだろ。心配無用だよ」
…………はぁ、何かに気づいたのね、闇命君。
噛む前に教えてよ。思わず叫ぶところだったよ?
今回は甘噛みだったから叫ばずに済んだけどさ。
「なら、良い」
あ、これで会話が終わりか。
一体、何に気づいたんだ。
「妖の気配が近づいている。そこまで強くないが、警戒はしておけ」
琴平が気を利かして教えてくれた。
なるほど。…………ん? 近づいてる?
え、近づいてるって、まさかこっちに妖が向かってるの?!
――――――――ズドンッ
「────なっ?!」
体に重い圧が……っ! 急に、なんだこれ!!
横目で琴平達を確認すると、俺と同じく体に圧がかかっているらしく、歯を食いしばり汗を流し耐えていた。紅音も、雨燕さんも。
体が重い、座っているのがやっとだ。汗が流れ落ちる。
なんだこれ、なんなんだよこれ!!
────右だよ
頭の中に突如として聞こえた甘い、優しい声。これは、安倍晴明さんの声だ。
「っ!」
言われたまま、咄嗟に右に結界を張る。
────バンッ!!!
何かが破裂した音。赤い何かが放たれたのか、結界にぶち当たった。
今のって、炎……?
これ、確実に俺達を狙って妖か陰陽師が放った攻撃……だよな……? なんで……。
御者席に座っている人が慌てて馬車を止めた。そのタイミングで俺達は外に出る。
『あっちの方に微かな式神の気配を感じる』
闇命君の視線の先は、道が無い森の中。
俺達に気づかれないように、森に囲まれた場所であえて奇襲を仕掛けたな。
『…………行くだけ無駄だね。もう遠くまで移動している』
「気配は感じるんでしょ? まだ間に合うんじゃ……」
『時間の無駄だよ。何か目的があるのならまた来るでしょ。その時、返り討ちにすればいい』
こういう時、闇命君はいつも冷静だなぁ。
琴平も俺達の会話は聞こえていたらしく、雨燕さんを説得し、何事も無かったかのように馬車へと乗り込み、死絡村へと向かい始める。
何となく気がかりだけど、今はどうする事も出来ない。
目的を達成した後に考えるとしようかなぁ。
『………………』
「ん? どうしたの闇命君。鼠の顔でも分かるほど難しい顔を浮かべてるよ?」
小さな声で問いかけるも、闇命君は顔を逸らし、また寛ぎ始めてしまった。
あ、あれ? いつもは倍の言葉で帰ってくるのに、なにもない?
な、なんだよぉ……もう。
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