三章その7 親友
外から絶え間ない雨音がする。
暗い部屋の中で寝転がり、俺はそれを聞いていた。
帰宅してすぐに吹雪にまほろの様子を尋ねるメールをいくつか送ったが、いくら待っても一通も返信はなかった。
目を閉じると、瞼の裏に火に怯えるまほろと金之助の姿が浮かんでくる。
「どうしろってんだよ……」
呟いたその時、唐突にスマホが鳴り出した。
吹雪からかと思いスリープを解除したが、画面に映っていたのは先輩の名前だった。
通話ボタンを押し、耳にスマホを押し付ける。
「もしもし?」
先輩は挨拶抜きで言った。
『例の少女と、コンタクトが取れた』
○
翌日、午後四時二十五分。
俺は最近学生の間で人気らしいアイスショップにいた。
店内には女学生が多く、所々からガールズトークが聞こえてくる。
俺は隅の席に座り、一人でミルクジェラートをスプーンですくっていた。
別にアイスの味に舌鼓を打ちに来たわけじゃない。ここでとある人物と待ち合わせをしているのだ。
しかし店内にいる以上、アイスを食べないわけにはいかない。
ジェラートを食べ終えてしまったので別のものを買いに行こうかと思った時、目的の人物は現れた。
私立小学校の制服を着た少女。
身長はまほろより少し高い。
ミディアムのツインテールに、きれいな色をした大きな瞳。
先輩から送られてきた写真と特徴が一致している、間違いない。
彼女が俺の方を向いた。
目が合った刹那。その異様に深い色の瞳に、意識が一瞬呑み込まれそうになった。
「あ、ジークさんですわね!」
瞳の主である少女自身の声で俺は我に返った。
彼女は大人びた微笑を浮かべてこちらにやってくる。背筋がまっすぐに伸びており、姿勢がいい。下半身の動きが滑らかで、筋力があることが分かる。何か武道でもやっているのかもしれない。
椅子の横に立ち、帽子を取って少女は自己紹介をしてきた。
「あたくし、藍染こころと申しますわ。まほろちゃんとは親友で、四年前まで一緒に遊んでおりましたの。よろしくお願いしますわ」
そしてきれいなお辞儀で締めくくる。
小学生にここまで礼儀正しく名乗られては、年長者として負けるわけにはいかない。
俺は椅子から立ち上がり、襟を正して名乗った。
「わたしはロールメンタルクリニックで精神科医を務めております、風炉井時幾と申します」
そう言ってスーツの胸ポケットから名刺入れを取り出し、一枚抜き取ってこころに渡す。
「現在はまほろちゃんの担当をさせていただいており、精神状態の改善に取り組んでいます。今日はこころさんに、まほろさんのことをお伺いしたく、ご足労いただきました。どうかよろしくお願いいたします」
四十五度頭を下げ、自己紹介を終える。もちろん、元の姿勢に戻る時も気を抜かない。
名刺分を加点すれば俺の勝ちだなと大人気なくも心の中でほくそ笑む。
「あの、ジークさん。鼻の下、伸びてますわ」
「えっ?」
反射的に俺は鼻に手を伸ばした。
しかしすぐにこころが笑っているのを見て、冗談だと気付く。
「ごめんなさい。でもちょっと、お顔に優越感が浮かんでいたような気がして……」
「そんなバカな……」
どうやらこんな小さな女の子に心の内を見抜かれていたらしい。
「……精神科医としての自信がなくなるよ」
「落ち込まないでくださいまし。お医者様のお仕事はポーカーフェイスを作ることではなく、患者さんを治療することでございましょう?」
こいつ本当に小学生かと疑念が抱いたが、容姿は間違いなく小、中学生程度だ。薬を飲まされて体が小さくなっている可能性は否めないが。
「何か買ってくるよ。こころちゃんは何が食べたい?」
「いえ、そんなお気遣いいただかなくても……」
「俺が呼び出したんだ。その分の礼はさせてくれ」
こころは完璧な微笑を浮かべて、両手をそっと合わせた。
「ではチェリーとプリンカラメル、あとアールグレイのトリプルのカップでお願いしますわ」
「分かった、ちょっと待っててくれ」
席を離れると、隣席に座っていた女性の視線が追ってきた。窓の外からも二人の男性がこちらの動きを監視している。
おそらくこころの護衛だろう。
薄々勘づいていたが、彼女はまほろと同じ良家のお嬢様だ。
こころは話の妨げにならないよう護衛を同席させず、しかし何かあった時のために彼等を控えさせているのだろう。
立ち居振る舞いから察せられるように、こころは年齢にそぐわないぐらい聡明だ。もしも彼女と心理戦や頭脳戦で争ったら、俺は負けるかもしれない。
だが今日は話を聞くだけだ。別に気負う必要はない。
俺は汗で湿った手をハンカチで拭いた。
店員に商品を注文する時、こころのものと、自分の分のコーンの大納言小豆まで言って少し迷い、もう一品チョコレートサンデーを頼んだ。
それ等をへこんだお盆のような持ち運びケースに入れてもらい、席に戻る。
「はい、チェリーとプリンとアールグレイ」
「ありがとうございます。ですが、プリンではなくプリンカラメルですわ」
「間違えたかな?」
「いいえ。純粋なプリン味はこのお店にはありませんの」
くすくすと笑って、こころはアイスを受け取った。
ふと彼女は俺の手に目を留めて言った。
「お洒落なグローブですわね」
「まあな。特注品なんだ」
「残念。買おうか考えていたのですけれど」
こころは俺のグローブをそっと撫でて、目を細めた。
しかしすぐに興味が失せたようで視線はアイスに移り、手が離れた。
俺は振り返って、隣席の女性にチョコレートサンデーを差し出した。
「どうぞ、俺からのサービスです」
女性は戸惑ったように、俺とアイスを見比べる。
「もらっておきなさい、武久」
武久という女性はこころに深く頭を下げて、俺からチョコレートサンデーを受け取った。俺への礼はないのかよと思ったが、彼女がアイスを食べた後に浮かべた幸福度百パーセントの満面の笑みを見たら溜飲は下がった。女性の笑顔は卑怯だ。
ケースを机に置いて席に着き、俺はスタンドからコーンを抜き取って大納言小豆のアイスを舐めた。純粋な甘味と小豆の香りは、幸福と安心感を与えてくれる。
こころは手を合わせて「いただきます」と言ってからスプーンを取った。
一口食べた瞬間、彼女は「美味しい」と年相応のキラキラした笑みを浮かべた。
「甘いものとか好きなのか?」
「ええ。まほろちゃんの作ってくれたお菓子を食べるのも好きでしたわ」
アイスを食べるこころは幸せそうで、本当に好きなのだということが伝わってくる。
「お菓子以外に好きなものはある? 例えば、趣味とか」
「そうですわね、趣味は写真撮影ですわ。お父様にカメラをプレゼントされてからすっかり夢中になってしまって、たくさん撮っているんですの」
そういった話を続けながら、少しずつこころと打ち解けていった。
あらかた食べ終えたところで、本題に入ることにした。
「大体の事情はメールで伝えたと思うけど、何か訊いておきたいことはあるかな?」
「いいえ、大丈夫ですわ。ただ、今まほろちゃんがどうしているのかをお教えいただけないでしょうか?」
「まほろちゃんの近況か……。実は俺も医者と患者っていう関係だから、突っ込んだところまでは分からないんだ」
昨日のこともあるし、元気にしているとはとても言えない。だからどうしてもぼかした回答になってしまう。
「そうですか……」
残念そうに肩を落とすこころ。
俺はできるだけ明るめの声を出し、話題を変えた。
「ところでこころちゃんは四年前、七歳の頃からまほろちゃんに会ってないみたいだけど、どうして今日来てくれたのかな?」
「決まってますわ。長い間会っていなかったとしても、大切な親友のためならば協力を惜しまない。人として当然のことですわ」
「……こころちゃんは本当に、まほろちゃんと四年間会っていないんだね?」
「そう申したと思いますけど?」
机に両手をつき、俺は首を横に振った。
「それは嘘だね」
「えっ……?」
戸惑いの声を上げるこころの手からスプーンが滑り落ち、机上で音を立てる。
俺は少し厳しめの声で告げる。
「こころちゃんはつい最近、まほろちゃんに会っているはずだよ」
「どうして、そう思われるのですか?」
こころは笑みを浮かべたが、どこかぎこちない感じがした。
「さっき、君はこう言ったね。『まほろちゃんの作ってくれたお菓子を食べるのも好きでしたわ』……って」
「え、ええ。確かに言いましたわ」
「それはありえないんだよ」
「な、何でですの?」
「まほろちゃんがお菓子を作り始めたのは、吹雪さんに教わってからだ。つまりこころちゃんと遊んでいた頃の彼女はまだ、お菓子を作っていなかったんだ!」
「あっ……!!」
こころの両眼が驚愕に見開かれる。
しかしすぐ余裕の表情を取り戻し、切り返してくる。
「……ええ、ジークさんのおっしゃる通りですわ。確かに七年間、あたくしはこころちゃんと直接は会っていませんでした。でもメールやSNSでやり取りしていましたの」
間髪入れずに、俺は突っ込む。
「それも嘘だよ」
「な、なぜですの?」
「こころちゃんはついさっき、まほろちゃんの近況を訊いてきた。もしも間接的でもやり取りができているなら、わざわざ俺に訊く必要はないよね」
「ううっ……」
気まずそうに目を逸らすこころ。
俺は人差し指を伸ばし、続ける。
「そしてもう一つ。まほろちゃんの家には、彼女と吹雪さんの二人で写った写真が何枚もあったんだ」
「……それがどうしたんですの?」
そう訊いてくるこころの声からは、さっきまでの余裕がまるで感じられなかった。狙い通り追いつめることに成功したらしい。
「写真を撮るには、カメラマンか自撮り棒が必要だ。まほろちゃんと吹雪さんの写真は距離感がバラバラだったから、自撮り棒は考えにくい。だったら現地の人に撮ってもらったのかというと、これもちょっと違和感がある。写真はどれも同じ人が撮ったように、ある共通する特徴があった」
「共通する特徴……?」
「やや右下がりに傾いているものが多かった。この癖にはどういう意味があるか。スマホで撮影するなら、画面をタッチするだけだからここまで露骨に癖が出る写真ばかりができるとは思えない。ではカメラならどうか。カメラは撮影時にシャッターを押す操作が必要になる。その操作では実はある癖が生まれやすい。シャッターを押すというのは指の上下運動が行われるってことだ。その際の反動で手が動き、写真自体も傾いてしまう」
こころは溜息を吐き、苦笑を浮かべた。
「武道を嗜んでいながらこんな悪癖に気付けぬとは、一生の不覚ですわ」
「……こころちゃんはまほろちゃんが家から追放されても、ずっと彼女に会っていたんだね」
「はい。本当はまほろちゃんのおじさまから近づくことさえ禁じられているのですが、密かにお会いしていましたの」
「……じゃあ、まほろちゃんがどういう生活を送ってきたかもよく知っているんだね」
「もちろんですわ」
「聞かせてくれるかな? ……嘘はなしで」
こころは頷き、ゆっくりと話し始めた。
「まほろちゃんの生活は、いわゆる軟禁状態に近いですわね。学校に通うことも禁じられていて教育は家庭教師から受けているんです。ただ監視というのはまったくされておらず、まほろちゃんは家庭教師の来ない時間や土曜日と日曜日によく出かけていますの。その時にあたくしもご一緒させていただくことがありますわ」
「外出は吹雪さんの前任者の頃からしてたのかな?」
「ええ。吹雪さんと同じくまほろちゃんに優しく接してくれる、よいご婦人でした。けれどもお年を召されて体の自由がきかなくなって、吹雪さんに引き継がれたのですの」
「なるほど……」
優しい使用人を選んでまほろの面倒を見させていたと考えても不自然じゃないだろう。
話を聞けば聞くほど、金之助がまほろを嫌っているとは思えなくなる。
やはり金之助は彼女の能力が怖いだけなのだろう。
俺はもう一つの疑問についてこころに尋ねた。
「こころちゃんはまほろちゃんの能力を見たことがあるんだよね?」
「ええ、何度かありますわ」
「吹雪さんからは、まほろちゃんが最初に『真空発火』を発動したのが狭い屋根裏部屋だったから、狭い空間でも能力が暴走するようになったのかもしれないって聞いた。確か君もそこにいたんだよね?」
「よく覚えてますわ。でもそれは、あたくしが無神経だったからですの」
「どういうことだい?」
こころは肩をすぼめ、沈鬱な表情で語った。
「あたくし達は屋根裏部屋で、秘密基地ごっこをしてましたの。確か何かの小説で、そういうお話をあたくしが読んで影響を受けて、まほろちゃんを誘ったのですわ。小道具としてチーズとリンゴとパン、蝋燭とマッチ、あと水を張った深めの小皿を持っていきました。全部、小説に出てきたものですの」
「蝋燭とマッチか……。きっと、それがまほろちゃんの能力を発動させたんだね」
「そうだと思います。マッチの火を見た途端、まほろちゃんは顔を真っ青にして怯えだしたんですの。まほろちゃんは火事で辛い思いをしたのだから、火が嫌いかもしれないなんて少し考えれば分かったはずなのに……」
悔しそうにこころは唇をかんだ。その気持ちは痛いほどよく分かった。
「……気に病むなとは言わないけど、きっとまほろちゃんはそんなことは望んでないと思う」
「そうですわね……。まほろちゃんは、優しい子だから」
こころは頬を揉み、無理に笑みを作った。
「……『真空発火』がどういう感じのものだったか、教えてくれるかな」
「一番最初に見たものが、もっともすごいものでした。火を見たまほろちゃんは叫び声をあげて、それから逃げるように後ずさりましたの。あたくし、自分の過ちに気付いて謝ろうと近寄りましたわ。だけどまほろちゃんはあたくしに気付かず、強張った顔で焔を見ていましたの。そして『いや、やめて、怖い、怖い』って叫んだと思ったら、まほろちゃんの手からいきなり龍のように焔が立ち上ったんです。それは狭い空間を激しく身をくねらせて泳ぎ回っておりましたわ。あたくしが茫然としていると、まほろちゃんの悲鳴を聞きつけたおじさまが屋根裏部屋に駆けていらっしゃいましたの。焔の龍を見た途端、おじさまはばたっと倒れて気を失ってしまいましたわ」
昨日の金之助を見る限り、火に対してトラウマを負っているのは事実だ。焔の龍なんて目の当りにしたら気絶しても不思議じゃない。
「あたくしそれで本当に怖くなってしまって。どうにかしなきゃ、って思って小皿の水を蝋燭にかけたんですの」
「龍じゃなくて、蝋燭に?」
「ええ。龍はまほろちゃんが出現させたものだから、落ち着きを取り戻してくれれば消してくれると思ったんですの」
「まずはまほろちゃんの落ち着きを取り戻させることを優先したわけだ」
「その通りですわ。もっとも、あの時は悠長に考えている余裕はなかったから、咄嗟の行動でしたけど」
こころは子供ながら機転が利く。おそらく焔の龍をまほろの能力によるものだと一瞬で推測したのだ。
ここまで話を聞いて、大体の事情は分かった。
しかし肝心の治療法についての糸口はまったくつかめないままだ。
「……あの、あたくし、お役に立てましたでしょうか?」
「え、あ、ああ」
「ジークさん、とても難しいお顔をされていますので……」
つくづく俺は隠し事が苦手なのだと実感し、我ながら情けなくなる。
「……正直なところ、どうすればいいのか皆目見当もつかない」
「あたくし、まほろちゃんのためならどんなことでも協力いたしますので、お力になれることがあれば、何でもおっしゃってください」
胸に軽く握りしめた拳を当て、真剣な表情で言ってくれるこころ。
「……ありがとう」
彼女の真摯な思いを受け、少しばかりでも元気を取り戻せた。
俺は頭をこつこつと叩き、一旦思考をリセットする。
かの大博士は脳髄は思考をする場所ではないと言ったが、それは事実だと思う。しかしやはり落ち着いて考えをまとめる時は、記憶をつかさどる脳の機能を借りると便利だ。
だが今回は色々と記憶を参照して考えても一向に手掛かりを得られない。
「くそっ、どうすればまほろ達を助けられるんだ!?」
憤りから俺は机を叩いていた。それでも突破口は見えず、苛立ちが胸の内から湧いてくる。自分の拳を睨むも、そこに答えなどあるはずがない。
「……ジークさんが初めてです」
ふいに発せられたこころの声に、俺は一瞬呆気にとられて顔を上げた。
彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。
「まほろちゃんを……いえ、まほろちゃん達のことを、そこまで懸命に考えてくれたのは」
「どういう……ことだ?」
「……まほろちゃんには、たくさんの友達がいたんです。でも、軟禁されるようになってからはみんな、まほろちゃんから離れていってしまいました。……そして『真空発火』の噂を聞いたある子は、まほろちゃんに偶然会った時、……バケモノって言ったそうです」
俺は息を呑んだ。
すでに『真空発火』のことが噂になっていたことも驚いたが、それ以上に幼い子供まで能力者に対してそこまで心無い言葉をぶつけたことが衝撃だった。
「……でも、まほろちゃんにはこころちゃんがいるじゃないか」
「それだけじゃないんです」
こころはツインテールの片房をぎゅっと引っ張った。
「実は今まで、何人かの高名な医師の方がまほろちゃんを治療しようとしたんです。だけど能力を消すことはできず、その暴発の抑制もできなかった。そして先生達はみんな、不治の病として治療を諦めてしまったんですわ」
「患者を見捨てたってのか!?」
彼女は首を横に振り、寂し気に笑った。
「もしも未知の能力を持っているまほろちゃんとかかわっていることを知られたら、面倒なことになりますの。だから治療が無理だと分かった時点で手を引くしかなかったんですわ」
「……そんなの、医者のやることかよ。人の心を、命を何だと思ってるんだ……」
机に打ち付けたままになっていた拳を顔の前まで持ち上げ、宣言する。
「俺は絶対にまほろ達を見捨てない。もしまほろに断られたって、諦めるもんか」
その手を、まほろの手が包んだ。彼女は今にも泣きそうな顔で、か細い声で言った。
「……本当ですの?」
「ああ。苦しんでいるヤツを元気にしてやるのが、医者の仕事だからな」
俺は拳を解き、こころの頭をそっと撫でてやった。
「……ありがとうございますの。元気、出てきましたわ」
こころは頬をほんのり赤らめ、気恥ずかしそうに笑った。
さっきまで焦燥感に駆られていたのが嘘のように、今は落ち着いている。
冷静になって、もう一度思考を巡らしてみる。
「なあ、こころ。何でもいい、まほろのことで気付いたことがあったら教えてくれないか?」
「気付いたこと、ですの?」
「ああ。まほろの精神状態、あるいは能力、とにかく何でもいいんだ。とっかかりになる手掛かりが欲しい」
「そうは言っても、……あっ」
こころは調子外れな声を上げて、目を見開いた。
「何か気付いたのか?」
「えっと、でもこれは……あまり関係ないんじゃないかと」
自信なさげなこころに、俺は身を乗り出して訊いた。
「頼む、教えてくれ。今は藁にでもすがりたい状況なんだ」
「で、では、言いますけど……」
目を逸らし、冗談めかしたようにこころは言った。
「素手で焔なんて出したらすごく熱そうだなと、思ったんですの」
「素手で、焔を……」
そのワードを聞いた瞬間、脳内のあらゆる記憶に思考回路が繋がり、凄まじい速度で情報が行き来し、一つのビジョンを形作っていった。
席を立ち、誰に向けるでもなく口にしていた。
「……そういうことだったのか」
「ジークさん……?」
俺はこころの顔を見やり、揺るぎない自信を持って告げた。
「見つけたぞ、まほろを救う特効薬を――」




