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とある魔王の無双譚  作者: azl
ギルレオン建国祭
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大使の予感

ブックマーク登録ありがとうございます。


*あらすじ:建国祭のテーマは異文化交流で決定、しかも例年の比ではないらしい。


 ショクチェンドゥからの大使、プリケの朝は早い。

 起床後、まずはシャワーを浴びに行く。キルクルス半島において、富裕層の住居で時々シャワーを見かけることが出来るが、イウラシア大陸ではほとんど見かける事は無い。その原因はシャワーがキルクルス三国の共同研究で開発された物であり、それに関する技術が未だ海を渡っていないからである。今は誰でも入手出来るほど安価な物では無いが、技術と素材の普及によって何時しかは誰の手にも届く物となるだろう。

 なお、プリケの住まいは一軒家や寮ではなく賃貸である。そして今はまだ安価とは言い難いシャワーが備え付けられている辺り、その賃貸の家賃の高さが窺える。ちなみにプリケの収入は相当に高い、幼子によく間違えられるプリケだが、伊達にショクチェンドゥ大使の代表を努めているだけの事はあるのだ。


 そしてシャワーを浴びた事により、寝起きから仕事モードにスイッチを切り替えたプリケはすぐさま仕事の準備に取り掛かる。

 まずは仕事着への着替えだ。基本的には男性と同じ燕尾服にズボンを着用するが、気まぐれでスカートを着用することもある。キルクルスに滞在する大使は基本的に私服出勤なので問題無い、重要な式典の際には暗黙の了解として畏まった服装を強要されるが、普段の業務の時であれば何ら気にする事では無いのである。


 そして仕事着に着替え終わった後、プリケは自慢の髪を整える。プリケの髪は同僚はおろか、ギルレオン城の侍女にも嫉妬される大変艶のある美しい茶髪である。それは本人の常日頃の努力の賜物であり、彼女にとっての自慢でもあった。

 そして彼女は服装もそうだったように髪型も気まぐれで変えている。いつもは一本締め、所謂ポニーテールだが時々髪を結ぶ位置を変えてみたり、或いはサイドアップにしてみたりと様々である。数少ない彼女の遊び心が発揮される場なのだ。


 そして髪を結び終わった後は朝食を取るためにギルレオン城の食堂へ向かう。そこは城に出入り出来る者なら誰でも利用出来るため、料理が出来ないプリケにとって大変ありがたいサービスとなっている。

 食堂で出される料理は味も良く、価格も安い。それ故席の取り合いも頻発するのだが朝早くであればそれも関係ない。彼女が利用するのと同じ時間帯の利用者はほとんどいないため、彼女は落ち着いた雰囲気の中で朝食を取る事が出来るのだ。


 そしてそんな朝食を取った後の予定は日によってまちまちだ。ギルレオン城で情報収集に励む事もあれば大使館に行って机仕事を行うこともある。

 今日の場合は後者だったらしい、食事を取ったプリケは城の直ぐ側にある大使館へと向かった。


 そしてそこへ行く道中の観察も彼女にとっての日課である。

 例えば魚屋の前に並んだ魚だったり、或いは香ばしい焼き立てのパンの匂いに食欲が触発されたりとギルレオンの街は日々様々な色を見せるのだ。

 そしてそう言った物を見ながら歩いているといつの間にかショクチェンドゥの大使館へと到着している。大抵彼女が一番にやってくるので、出勤する彼女を迎え入れる者はいない。あまりにも出勤が早すぎるので仕方ない。


 ショクチェンドゥ大使である彼女の仕事は様々だ。派遣先での情報収集や外交の取次、或いはギルレオンに対してのショクチェンドゥ文化の広報などなど。そういった様々な業務をこなすのが大使における普段の仕事内容なのだが、今日はその普通では無かったらしい。それはプリケが今日の仕事を始めてしばらく立った頃にやって来た、一人の来客から始まる。


「プリケさん、お客様がいらっしゃいました」

「分かった。すぐ行く」


 部下にそう伝えられたプリケは、客を待たせているという待合室へ向かった。


「よぉプリケ、久しぶり。元気そうで何よりだ」

「あらギース、一体何の用?」


 待合室のソファに腰掛けていたのは長身で緑髪の男、ゴケンコウからの大使ギースである。

 彼はプリケとほぼ同時期にギルレオンへと配属されており、同期と呼んでも差し支えがない。故に二人は相当に仲が良く、プライベートでも交流があったりする。

 所謂仕事仲間というものだろうか。恋仲と言うよりも戦友と呼んだ方が近い関係性を二人は構築していた。


「つれないな。もう少し愛想良くしたらどうだ?」

「こっちは仕事を途中で切り上げて来てるの。要件を手早く話してほしいわね」

「はいはい、分かりましたよ」


 あくまで手厳しい態度を取るプリケに口を尖らせながらそう答えるギース。実際彼もプリケと同じく積み上げられた仕事を後回しにしてここショクチェンドゥ大使館にやって来ていたため、前置きは無しにし手短に本題へと入った。


「では単刀直入に言うと今から俺と一緒にロイド王の所は向かってもらいたい。実は今日の朝食の時、アリナ王女殿からそう伝えられたんだ」

「ふむん、この時期だから建国祭の事かしら。面倒ごとの匂いがするわね」

「そういうなよ。それが大使の仕事だろ?」

「まぁね」


 悪態を付きながらもそう微笑むプリケ。彼女はギルレオンとショクチェンドゥの架け橋になりたくてこの職についた。だからこういう面倒事は彼女にしてみれば願ったり叶ったりなのである。


「じゃ、とっとと出発しよう。国王陛下を待たせるのもよろしく無いからな」

「そうしましょう。私は部下にこの事を伝えてきます」

「分かった」


 そう言って椅子から立ち上がったプリケ。そしてしばらく外出する旨を部下に伝えた後、ロイド王の部屋へと移動を始めた。



「失礼します」

「うむ、入れ」


 ノックをし、ロイドの執務室へと入った二人。

 その部屋は相変わらずの質実剛健っぷりである。彼ら二人の主人はどちらかというとわびさびよりも贅を好むため、こういった感性を中々に珍しく感じていた。


「早速だが本題に入ろうか。まずは座ってくれ」


 ロイドの言われたとおりソファに腰掛けた二人。ふかふかの革製だ。相当高価な代物だと悟り、傷付けたらヤバそうだと冷や汗をかく。ちなみにこれをほぼ毎年繰り返している。


「そう気張るな。楽にしてくれ」

「はい・・・」

「ははは、まぁ無理にとは言わん。さて、では本題に入るが君達もここに来て数年が経つ故、呼ばれた理由を大体察していると思うがそろそろ建国祭の時期なのだ。で、例年通り君達の主に招待状を渡して来てほしいのだが、今年は他にも要件がある」

「と言いますのは?」


 一応問い返したが大体察していた二人。そしてそれを見たロイドはニヤリと笑って言葉を発した。


「想像通りだ。招待状の他に、君たちの主に対して建国祭執行に対する協力の要請をしたい。頼めるか?」

「「勿論です」」


 ロイドの問いかけにそう言って答える二人。彼らからしてみれば断るという選択肢は無いのだから当然といえば当然と言える。

 だが気になるのは今年の建国祭のテーマである。このテーマというのは基本的にこれまでの内容と被らない様に徹底されている。無論今まで使用してきた物と全く被らない様にするというのは不可能なため、使用から十年経過したテーマだけは再利用が可能というルールで運用されていた。

 そして今回のロイドの要請を省みるに、今年の建国祭のテーマは異文化交流に関する物だと二人は踏んでいたのである。然しそのテーマは数年ほど前に使用されており、十年の年月は経過していなかった。


「しかしロイド王、一つ聞きたいことが」

「なんだ?」

「今年度の建国祭のテーマは何なのでしょうか?」

「異文化交流だな。ただスローガンに直す時はもう少し練り直す」

「すいません。私も聞きたい事が」

「遠慮せず聞いて良いぞ。一々確認しなくて良い」

「では遠慮無く。その異文化交流というテーマですが、数年ほど前に使用したはずです。まだ十年は経過していませんがその辺の問題は無いのでしょうか?」


 プリケが心配そうにそう訪ねた。しかしそれを聞いたロイドは彼女とは正反対に不敵な笑みを深めた。そしてそれを見た二人は一瞬にして今年の建国祭は滅茶苦茶忙しくなると悟る。こういう表情の時のロイドは碌な事をしないと二人は経験則で理解していたのである。


「実はな、本年度の異文化交流は数年前の比では無い規模で開催する予定なのだよ」

「と言いますのは?」

「聞いて驚くなかれ。今年の異文化交流はキルクルス半島の域を超えて、イウラシア大陸も含んだ範囲で行おうと考えておる」


 キリッとした表情でそう言い放つロイド。そしてそれを聞いた二人、思わず顔を見合わせる。イウラシア大陸を含めた範囲というのはつまり・・・。


「ちょっと待って下さい!!もしや魔王達にも!?」

「無論だ。そしてその異文化交流の内容に関する会議を今日の昼頃に行う予定だ。その会議に君達二人には出席してもらいたい」

「なるほど・・・、つまりその会議の内容を我が王に伝えればよろしいのですね?」

「その通り」


 ギースの質問にそう答えるロイド。満足げな彼とは正反対に、またもや頭を抱える二人である。これから降りかかる面倒事が、例年の比では無い事が容易に想像出来たからだ。

 まず今年度の建国祭、彼ら二人の主はおろか、その家族すらも参加したいと言い出すことは間違い無かった。何故なら魔王の国の文化というだけで凄まじい注目度を誇るから。そしてそういった文化をもう一度見られる機会は二度と無いかもしれない。それほどまでに魔王という存在は人間達にとって近付き難く、またある者にとっては一度でも見てみたい神秘の存在でもあったのだ。

 そしてそういった機会を、目の肥えている彼ら王族が見逃すはずが無いのである。


「しかし良くそんな案を思い付きましたね」

「あぁいや、これは我ではなくリュート殿が思い付いた案なのだよ」

「リュート殿と言うとこの間魔王になった?」

「そのリュート殿だ。いやはや始めに聞いた時はなんとも驚かされたものだ。だが不思議と実現出来ないとは思えなかった、だからその案に乗ったのだよ」


 神妙にそう呟くロイド。そしてその意見に彼ら二人も賛同できた。

 始めは正気かと疑ったものの、リュートが言ったならと不思議と考えてしまっていたのである。それは彼が魔王だからなのか、はたまたかつての魔人襲来のときの信頼ゆえなのか・・・。

 まぁいずれにせよこれから面倒な事になるのは間違いない。高揚と消沈という相反する二つの感情を抱えながら、彼らは第二回建国祭執行会議へと臨むのだった。

 建国祭編は今回のように視点の変化がかなり激しくなります。故にお話の数も滅茶苦茶多くなると思われます。


 次の投稿は三日以内です。

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