飯を食うお話<ペルティーダ>
*あらすじ:ペルティーダの飲食店にやってきました。
ルーに連れられてやって来たのはペルティーダにある飲食店である。とりわけそれといった特徴があるわけでもない、街で良く散見される石レンガ造りの建物だった。豪華な雰囲気はまるで感じられず、所謂大衆食堂といった感じで俺の感性と良くマッチしている。
「店長、空いてるかい?」
「・・・ルーか、空いてる所に自由に座ってくれ」
「あいよ」
そしてその内装も親しみやすい感じ。基本的には机一つに椅子が四つ、その椅子も俺が好きな固い木製の椅子であり気張る必要が無い落ち着ける空間であった。
そしてそれは他の人も感じられるものなのだろう。空席は今俺達が座ったので最後であり、先ほど店に入ってきた家族連れが残念そうに店から去っていくのを見かけた。
別段ササノマのように狭いわけでは無い。つまりこの店はペルティーダでも結構有名な店なのだろう。
「良いなここ、ペルティーダじゃ有名なのか?」
「そうだ、指折りの人気店だぜ」
気になってルーに聞いてみると、そんな感じの返答が彼から帰ってきた。
となると味にも期待できるな。実はつい先ほどから特徴的な”あれ”の匂いが漂ってきているのだがそれは現物を見てからのお楽しみとしておこう。
しかし驚くべきはルーの店選びのセンスだな。こいつのことだからてっきり豪華絢爛な雰囲気の店を選ぶとばかり思ってたよ。
「しかしまぁ、お前もこういう店を選べるんだな」
「まぁな。俺的にはもっと豪華で派手な方が好みなんだが、お前は落ち着いてる方が好みなんだろ? だから記憶の中で一番合いそうなところを選んだんだがどうだ? 気に入ってくれたか?」
「凄い良い感じだよ。ありがとな」
こいつ、色好きの変態ドスケベ野郎かと思ってたけど結構気が利くんだね。これは評価を改める必要があるかも。
「けど本当にいいなこの店」
「ガハハ、こんなもん朝飯前だぜ。相手好みの店を選ぶ感覚は女を落とす時に磨かれまくったからな」
・・・前言撤回、やはりこいつは色好きの変態ドスケベ野郎だったようだ。
そしてそんなルーの発言に反応を見せたのは俺だけではない。ちょうど俺達の注文を聞きに来ていた店主さんもその発言に対して問いを発した。
「ルーよ、私の娘もそうやって落としたのか?」
「いいや、イザベラはガードが固くてな。そう簡単には落ちなかったよ」
店主さんに質問にそう返すルー。
入店の時のやり取りを見た感じ知り合いなのかな? とは思ってたけどこれは多分婿舅の関係だろうな。
店主さんは少し恨めし気な口調にも思えるが、その表情に別段負の感情の色は見えない。単純に愚痴というかまぁ軽い雑談みたいなものなのだろう。
「ふん、結局はお前に手籠めにされたのだから大して変わらんわ」
「ははっ、ま、約束は守るから安心してくれよ」
「当然、英雄ルーのお言葉を疑う者はペルティーダにはおらんだろうな」
店主さんがそう言って雑談を切り上げた。
そういやルーって結構凄い奴なんだったな。俺からすればドスケベ大魔神な訳だけど民からの信仰は結構厚い様子。それにロイド王もルーの手腕自体はかなり高く評価していたので色好きという点を除けばかなり凄い為政者なのかもしれないね。
「さて、くだらない与太話はここまでにして注文を聞こうか」
「いつものを三つだ」
「分かった」
そう言うと店主さんは厨房の方へ消えていった。そのいつものが何なのか気になる所だがルーのチョイスならまぁ大丈夫だろう。
「置いてけぼりにして悪かったな。彼は嫁の父親、つまり舅に当たる人だな」
「ふ~ん、お前って女好きだから舅と姑とは険悪なんじゃないかと思ってたんだが杞憂だったみたいだな」
「まぁな。これも俺の努力のおかげだぜ」
そう言ってにやりと笑うルー。だが気のせいだろうか?その表情の裏に少し暗いものを感じた気がする。
・・・いや、それもそうか。彼が英雄と呼ばれるようになった戦いの中で、彼の同胞と家族が何人も犠牲になったんだった。
「まぁ、かもな」
「どうした?偉く素直だな。俺様の威光に怖気づいたか?」
「まぁそんな所かもな」
「ガハハ。俺に落とせない女はイズナくらいだからな、そう思うのも無理はないぜ」
こいつ、少しは感心していたというのに一瞬にしてそれをゼロにしやがった。どうもさっき言っていた”努力”とは女を落とすためにしてきた努力のことだったらしい。
やはりこいつは救いようのない色欲魔だったようだ。
「ったく、少し感心した俺が馬鹿だったみたいだな」
「急にどうした?俺のテクに嫉妬しちゃったか?」
「してない。全く持ってくだらない」
余りにも的を射てないその発言に少し呆れてしまった。会話はキャッチボールだとかターン制バトルだとか言われているがこいつの間だとそれがまるで成立しない。会話も人間関係を構築するうえでとても大事なパートだと思うのだが、どうしてここまで相手の考えを把握できない奴が沢山の女性を落とせたのかがまるで分からない。それとも単純にこいつと俺の相性が悪いだけなのだろか。
「はははっ、本当にそう思ってるか?」
「当たり前だ。そんな技能は俺からしてみれば無用なものだからな」
「そう言うなって、何も女を落とすに限った話じゃない。円満な夫婦生活を送るのにもかなり役立つテクニックなのは間違いないからな」
「まだそこまでの仲じゃないよ・・・」
「あ?なんだ、まだ結婚してねぇのか」
「してない、婚約止まりだよ」
「ほう、じゃあキスとかはまだなの?」
「チッ、るせぇな」
ルーもある程度は空気が読めるのか、少し小さめに調節した声量でそう問いかけてきた。
しかしなぜ俺たちは満員御礼の飲食店の中でこんな話をしているのだろうか。小声だとしてもこういう話はもっと閉鎖的な場所でやるものだと思うんだけど。
「その反応を見るにやったな。一体どんなシチュエーションでやったんだ?」
「・・・別に」
「別にってお前女の方からやられたのか?」
「だったらなんだよ」
「カァッ!!何男のくせに日和ってんだ?」
「うるさいぞ、今は色々複雑なんだから」
本当にな。
「ふんっ、奥手なのも結構だが偶には行動で示すのも大事だろ?」
「余計なお世話、ちょっと黙っててくれ」
俺がそう言うとルーは肩を竦めて口を噤む・・・が、またすぐに口を開いた。
「てかその感じを見るにお前女の方から告白されただろ?」
「だったら何だよ」
「ふむ、じゃあお前のことだし言葉にして好きと伝えてないな?」
「言ってない」
「そういうのはちゃんと口にしたほうが良いぞ?先輩からのアドバイスだ」
えらく真面目な表情でルーがそう言う。だけどそうもいかない事情がこちらにもあるのだ。
「訳合ってそれはできない。色々複雑でな」
「ふむん、どうも俺様が思っている以上に難儀な関係の中に取り残されているようだな」
「分かってくれたようで何よりだよ」
「ま、俺はもう口を挟まないでおく。だが困ったことがあれば何時でも相談すれば良い」
「悪いな。助かるよ」
ルーの心遣いには感謝の言葉を返しておいた。仁には礼を持って答えないといけないからね。
「気にすんなよ。てかお前がその女を好きな前提で話してたけど、実際のところはどう思ってるんだ?」
「えっと・・・」
「待たせたな」
おっと、ちょうどいいタイミングで料理が運ばれて来たみたいだ。そしてルーのいつものが俺の望む物と一致していたみたいで安心した。それの正体は漏れ出る香ばしい匂いだけで十分察せられるのだ、実物を見なくても理解できる。
「チッ、聞き逃したのは惜しいがこれ以上言及するのは止しておいてやるよ」
「そうしてくれ」
話をそう切り上げて料理に移る、料理は温かいうちに食べたほうが美味しいからね。
今回運ばれてきたのはチャパティと小鍋、そしてその小鍋からは嗅ぎ慣れたあの料理の匂いが漂っている。俺は心を少し踊らせながらゆっくりと鍋蓋を上げた。
「お、カレーだ!!」
蓋を上げた刹那に鼻腔に飛び込んだのは懐かしいあの香り。まぁ入った時からある程度分かっていた訳なのだが、現物で見ると更に興奮して来る。
「その反応を見るに知ってたか」
「おう、前世でメジャーだった料理だ」
「ほう、まぁもしかしたらそれとは違う味かもな」
「かもな。ところでサノスはどうだ?食べられそうか」
「はい、良い匂いです」
何故か嬉しそうにそう答えるサノス。
確か料理に興味を持ってたっけ? となると見新しい料理に出会えた事を喜んでいるのかもしれない。
「中々面白いだろ?」
「はい、これも料理で出来た物ですよね?」
「そうだ」
「へぇ〜、奥深いですね」
そう言って感嘆の言葉を漏らすサノス。
それを横目に見ながら、俺は頂きますと一言言って食事を開始する。
「これってチャパティをカレーにつけて食べれば良いのか?」
「その通り、良く分かってんな」
「まぁな。ちなみにこれはどれくらい辛いの?」
「味覚が違うからどうとも・・・」
「それもそうか」
言われてみればその通りなので黙って食ってみることにする。
出されたチャパティを手でちぎりカレーに浸して口に放り込む。
「おぉ、良い感じだな」
カレーはある程度辛く、それでいて辛さに気が散らない程度が丁度良い辛さだと個人的に思っているのだが、ここのカレーはその条件にマッチする最高のカレーだった。具もそれなりに入っているのでチャパティが尽きたとしても美味しく頂けるであろう。
「そりゃ良かった。俺もこれくらいが丁度良い」
「やっぱそうなんだな。サノスは・・・、って大丈夫?」
気になってちらりと目を横にやると、何でかは分からないけどサノスが石像みたいに固まっていた。
「はははっ、どうした?辛かったか?」
「そうかもしれません」
「そういうときはジャガイモを潰せばいい。そのスプーンを使いな」
ルーの提案を聞いて、従順にジャガイモを潰していくサノス。確かジャガイモを潰すと辛さがマイルドになるんだっけ、家のカレーにジャガイモは入ってなかったので実感した事は無いのだが某推理漫画で読んだことがある気がする。
そして俺はジャガイモを潰すサノスを横目に見ながら、チャパティをカレーに浸して美味しく頂く。
「お前中々の食い意地だな」
「悪いかよ?」
「いんや、今は気にしなくていいぜ。だが女と食ってるときはペースを合わせた方が良いぞ」
「あぁ、そういえば聞いたことあるな」
「だろ?ま、お前がこれを気に入ってくれた様で何よりだぜ。んでどうする、お変わりは必要か?」
「頼む」
「あいよ」
俺がそう伝えるとルーが店員さんにその旨を伝えてくれた。非常に助かる。
「で、サノス。食べれそうか」
「・・・はい、これなら食べられます」
「良かったぜ。じゃあ後は黙々と食うだけだな」
「だな」
その後は黙々とカレーとチャパティに舌鼓を打っていた。
でもやはりニホンジンとしてはカレーをチャパティではなく米で食いたいなとも思ったり。まぁ今は無理っぽいけどいつかは、そういう風に考えながら運ばれて来たお変わりに手を付け始めるのだった。




