一騒動
*あらすじ:カレーを食べました。
「いやぁ、美味しかったな」
腹ごしらえを終え、俺たちは再びペルティーダの飲食店街に戻って来た。ちなみにルーの奢りである、偶には益になることをやってくれるようだ。
「ふん、しっかり俺様に感謝しとけよな」
「あぁ、ありがとうな」
「ごちそうさまでした」
そう礼を言うとルーは満足げに笑った。
とはいえカレーを一回きりの食事にはしたくないな。また食べたいものだし、何とか再現してみたいという思いもある。一応カレーのルーのレシピは覚えているので頑張ったら再現出来るだろう。
「分かってるなら良いぜ。んじゃあこの後は幽冥城行きの魔法陣に向かうとしよう。城の中にあるから案内する」
「分かった。フェルシアを待たせるのも悪いしちょっと急ごうか」
街に出た目的である腹ごしらえも済んだことだしいよいよ本命の幽冥城へ・・・と思ったがルーとしてはもう少しペルティーダの街を紹介したかったようだ。
「前言ったろ?多少遅れてもあいつは気にしねぇからそこまで急ぐ必要はない。それに折角ペルティーダに来たんだからもう少し街を見て回りたいだろ?超特別に俺様が案内してやるから感涙に咽ぶが良い」
「じゃあ頼もうかな」
ここで断るのは申し訳なかったし、ペルティーダの街に興味があるのも事実である。
それにこの申し出はルーが言い出した事なので、多少遅れてたとしても俺がフェルシアに怒られる事はないだろう。
そんな風なことを考えた結果俺はその申し出を受けることにしたのだった。
「うし、分かってんな。それじゃあ早速案内してやる、まずは観光客が良く来る土産物店を見せてやろう」
「助かる」
確かペルティーダは宝石で有名だったな。そしてそれと同時に香辛料も中々の生産量を誇るらしい。
一体何が売っているのだろう?そんな風に心躍らせながら夕方の街を歩いていた。
「クソッ、おとなしくしろ!!」
しかしその上々な気分は、路地裏から聞こえてきたその怒号によって綺麗さっぱり消し飛んだ。
「サノス、ルー」
「どうやら面倒ごとの様ですね」
「だな。無視は出来なさそうだ」
彼ら二人の切り替えも中々の物、浮ついていた表情が一瞬にして真剣な物へ様変わりする。
「じゃあ行くか」
「待て」
路地裏に突入しようとするルーを俺は手で制止した。
入り口があるなら出口もある、その出口から逃げられる可能性を消しておきたかったのだ。幸いにもここの路地は一本道だった、複雑に入り組んではいなかったのは僥倖であろう。
「ルーは俺達と反対側の路地から入ってくれ。逃げられたら困るからな」
「挟み撃ちってことな。任せろ」
ルーがそう言った刹那、彼の姿が瞬時にして消えた。
『準備完了だ』
『分かった、突入しよう』
ルーの念話にそう返す。そして俺はサノスに合図を送り路地裏へと突入した。
「止まれ!!」
「チッ、なんだ!?」
そこにいたのは人攫いらしき男二人と、目と口を布で塞がれ諸手を縄で縛られた五、六歳くらいの少年と少女の姿である。
人攫いの男達は小型のナイフを所有していた。どこをどう見ても悪人以外の何者でもない。
「よぉ、ここがペルティーダと知っての狼藉かい?ここはお前らみたいな犯罪者をボコボコにすることが許可されている街だぜ?」
「うるせぇぞ貴様!!その気になればこいつらを殺せることを忘れるな!!」
男の片方が少年少女を抱え、その首筋にナイフを当てる。声色の割に男の顔は至極落ち着いた顔だった、もしかしたらこの状況に慣れているのかもしれない。
「チッ、素早いな・・・」
「いいか!!こいつらを殺されたくなかったらおとなしく道を開けろ!!」
男が人質の首筋にナイフを当てたまま俺達の方へそう叫ぶ。
そしてもう片方の男もナイフの切っ先を俺達の方へ向け始めた。こちらの男もあまり焦りの色は見られなかった。そしてその手口も中々に精練されたものである、人質の確保が恐ろしく速くこちらがやられたら困る行動を完璧に把握されてしまっていた。
「クソっ」
「おっと、おとなしくしてろよ。俺達がこの路地を出るまでの間壁に背を着けたままでいろ、離れた瞬間にこいつらをぶっ殺す」
勝利を確信したのか嘲るような笑みを浮かべ始める悪人共、それは過去の経験に裏付けされているが故の物なのは間違いない。
だが別にどうってことはないはずだ。今まで敵がどれだけ策を弄しようとも、俺はそれを解決する方法を作り出すことが出来た。そしてそれは今回も例外ではない。つまりこの窮地を脱する方法が俺達にはあったのだ。
『ルー、俺に策がある。だから男を殴る準備をしておいてくれ』
『分かった、タイミングはどうする?』
『隙は恐らく作れる。だからそのタイミングで行ってほしい』
『承知、何時でも行ける。全部お前に任せるぞ』
『任せろ』
俺が念話を切ると、ルーが両手を上げて体を路地の壁へと密着させる。そして俺達もそれに倣い、彼と同じように背を壁へくっつけた。
「動いたら殺す!!」
手ぶらの男がナイフで俺たちを脅しながらゆっくりと路地の外へと歩みを進める。方角は俺達側、ルーの方よりもこっちの方が出口に近かったのだ。
「いいか、動くなよ」
「・・・」
何も言う必要は無い、後は待つだけ。時が来たら策を実行する。
だがその様子を見た悪人共は俺達が抵抗する意思を失くしたと勘違いしたらしい。口角を三日月の如く吊り上げ俺たちのことを嘲笑う。
「へへっ、ちびらなかったのは褒めてやる。間違っても俺達を追いかけようとか考えるんじゃねぇぞ」
そう吐き捨て先頭の男が路地の外へ踏み出したその刹那、その時が来た。
「あ?」
「ルー!!」
先程路地を出た男が突如地面に消え、路地裏の中心へ現れたのである。チャンス到来、俺はルーに対して合図を送ったが、彼はそれを聞く前に走り出していた。
放たれた右拳は正確に男の頭を捉え、その意識を奪う。
「テメェ、こいつをぶっ殺す!!」
最早どうでも良くなったのか、外に聞こえそうなほどの音量で怒号を放つ人攫いの男。
だけどそれも対策済みだった。
「ふぅ~ん、そんな木の枝みたいなナイフじゃ人は切れないと思うけど?」
「ッ!?」
あら不思議、つい先ほどまで光を受けて煌めいていた鋭利なナイフが、木の枝かと見紛うほどの錆によって覆われているではありませんか!!
「クソッ!!」
「サノス」
そして勝ち目が無くなったことを悟ったのか、路地の出口向けて走り出そうとする人攫いの男。
だがそれが叶うはずはない。単純な話だ、その男の走りよりもサノスの速度の方が速いのだから。サノスもルーに負けず劣らずの清廉な動作でその男の意識を奪った。
そして人攫いによって放り投げられた少年少女達も、俺が落下の衝撃を受けないよう魔法でふわふわと落下させている。
これにて一件落着と言って良いだろう。周りの安全を一応確認した後、俺は少年少女達を縛っていた縄と布を解いた。
「よし、良く頑張った」
「「わぁ~ん!!」」
「ふんっ、お前に主導権を握られたのは少々癪だが、上手くいって良かったぜ」
そう言ってルーがにやりと笑う。悪態を付いてはいるもののそれが本心ではないのは、その表情を見れば誰だって分かる。
「ところでさっきのは何なんだ?転移魔法か?」
「まぁ大体そんなところだ」
この前野盗の長にやったのはそれだったなので、あながち間違いとも言えない。今回のもそれと似たような感じだ。
正解は”収納”である。簡単に言えば異空間に道具を収納出来る魔法なのだが今回はこれを応用した。この魔法は入口と出口を指定する必要があるのだが、これの入口を路地の床、出口を路地裏の中心にしておいたのだ。普段手を突っ込んで物の出し入れが出来るのは、この入口と出口を同じ座標に設定しているからである。
「なるほどな。じゃあナイフが錆付いたのも魔法なのか?」
「ほぼ正解だよ」
これは嘘。正確には”創造ノ王”の権能”変換・創造”及び”結合”でやった。
まぁそう簡単に手の内を晒す訳にはいかない。別に話さないことに対するデメリットはなさそうなので今はぼかしておいた。
「ふむ、お前、俺が思っていた以上にやるな」
「それはどうも。ところでこの子たちはどうする」
「いったん親の元へ帰しておこう。ただ後で事情を聴くかもしれないから住所は把握しておかないといけない」
俺の質問にルーがそう答える。見た感じこの人攫いは獣人ではなかった。つまりはペルティーダの外からの犯罪者と考えて間違いないらしく、その裏には何らかの巨大組織が潜んでいる可能性があるとルーが言っていた。
そもそもこの世界では奴隷は容認されていない。そのため人攫いが必要とされている集団など、表立って行動出来ない巨悪の仕業だとしか考えられないそうだ。
「結構ヤバい状況なんだな。んで、重要な証人であるそこの男は?」
「俺が運ぶ。だからその子達はお前が親元に返してくれねぇか」
「分かった」
「助かる。しかしすまんな、面倒ごとに巻き込んじまって」
「ふむ、だったら奢りの付けはこれで払ったことにしておいてくれ」
「おお、じゃあそうさせてもらおう。ではまた後でな」
そう一言残し、ルーの姿が虚に消えた。
「転移魔法か?」
「いえ、あれは”疾風迅雷”ですね。素晴らしい練度です」
どうもそうだったらしい、サノスがそう感嘆の言葉を漏らしていた。
こいつも結構強いと思っていたがやはり上には上がいる様だ。普段ふざけているから忘れがちだけど、ルーも魔王なのだと認識させられた。
「ま、お前ならまだまだ上を目指せるだろうな。期待してるぜ」
「はい、お任せを」
その心意気や良し、俺も負けないよう頑張らないと。
「で、だ。少年達、君のお父さんとお母さんはどこにいるのかな?」
「えっとね、こっち!!」
指差したのは路地の先、まぁ確かに出ないことには分からないか。そんな風なことを考えながら俺達は路地を出た。
次は日曜日の投稿になります。




