アリナの半日
幕間とはいっても本編と少しだけ関係があります。
どうも皆さま、私はアリナと申します。
普段は楽器の演奏や学問を習ったりと色々忙しいのだけど、月に一度何の予定の無い日があるの。
つまり私の休暇日、たまの休日ぐらい惰眠を貪りたいものなんだけど・・・。
「アリナ様おはようございます、気持ちの良い朝日ですよ。ほら、起きてください」
そんな私の邪魔をするのは、この城のーほとんど私専属だけどー召使のラト。小さいころから一緒だからとても仲がいい、だけど遠慮がないのよね。
「い~や~で~す。たまの休日ぐらいいいじゃないですかぁ」
「わがまま言わないでください。ほら、手伝いますので着替えますよ」
ノックするのは初めだけ、いいとも言ってないのに勝手に入ってくるのよ。これはメイドとして許される行為なのかしら?
「また勝手に入ってきて、そんなことしていいと思ってるの?」
「え?何か問題でも?」
何か問題でも?じゃないんだけど・・・。
「それよりも早く着替えてください、どの服にいたしましょうか?」
「着られれば何でも良いわよ」
あまり服には興味がないのよね。見せる相手がいないから、着れれば何でも良いって考えてます。
「ふむ、では私が選びましょう。それよりも早く起きて下さい、もう朝ですからね」
「・・・」
「だんまりですか。まぁいいでしょう、あまり私を舐めないことです」
もはや問答は無用といわんばかりにラトは私をベッドから引きずり出す。逆らおうとしても無理、ラトの力は私よりもずっと強いもの。
こうなっちゃうと私の負け、しょうがないのでおとなしく着替えることにします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ラトに連れられて食堂にやってくる。この城の食堂は私たち王族はもちろん、執事やメイドの皆さんも使用されています。もっとも王族専用の食事場所もないわけではないわ。でも国賓級の相手をする時ぐらいしか使われないわね。
「アリナ様、朝食をお持ちしました」
「あら、ありがとう」
今日の朝食はパンと塩焼き魚、最後にリンゴね。
この国では毎年たくさんの麦が収穫されるので私たちがパンに困ることはないの、毎年毎年頑張って下さってる皆様には感謝してもしきれないわね。
そしてその麦で作られたパンだけど、とてもいい香り。味ももちろん申し分ないわ。黄金平野産の麦はゴケンコウとショクチェンドゥでも高い評価をいただいているのよね。
で、この魚はゴケンコウ産でしょうね。ゴケンコウは別名海の民の国と呼ばれるほど海と密接な関係を築き上げているの。彼の国の王も海を大切にしていたわね。
全ての魂は海から生まれ海へと還る、だから海を大事にしないものには罰が下る。私もこのお魚さんの命に感謝しながら頂くことにしましょう。
そしてこのリンゴはギルレオン産でしょうね。この国では本当にたくさんの種類の果実が収穫されているの。リンゴ、ミカンその他諸々、例を挙げるときりがない。
そして収穫量も非常に多い。それこそ麦に匹敵するくらいには。毎日の食卓に並ぶ果物たちにもまた色んな人たちの協力が合ってここに届いているのでしょう。感謝して頂かないとね。
そう、感謝の心。一つ一つ感謝しながら、味わいながらいただきましょう。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
えっ、早くない?
私まだ半分ぐらいしか食べれてないけど?
「ねぇ、少し早すぎませんこと?」
「・・・少しお腹がすいていましたので」
あら、ラトの顔が真っ赤になってしまった。
少し申し訳ないことをしちゃったわ。
「ごめんなさい、失礼なことを言っちゃって」
「・・・そうですね、アリナ様がもう少し早く起きて下さればこんなことは起きなかったのですけどね」
そんな風なことを言っていじけてしまった。
どうもラトはリュートさんを起こすために普段より少しだけ早く起きたのだと。
だったら先に朝食を食べてから私を起こしに来たら良かったのでは?そしたら私ももっと眠れてWINWINなのに。
「そんなことをしてしまってはアリナ様との時間が減ってしまうではありませんか!!」
う~ん、あんまり変わらないと思うけど。
「・・・っていうかどうしてアリナ様はあんな男を連れてきたのですか?あれの世話をするよりも私はアリナ様の世話をしたいのですけど・・・」
あら、ラトがわがままを言うなんて珍しいわね。
何かあったのかしら?
「ふむ、貴方がそんなことを言うなんて珍しいわね?何かあったの?」
「もしあの男が私の・・・、失敬」
何か言いかけたけどやめたわね。
だけどまたすぐに口を開いた。
「アリナ様は超絶美少女なのです。歩く姿は牡丹の如く、その立ち振る舞いはまさしく・・・」
「そんなことは聞いてないの、真面目に答えなさい」
「失礼しました。つまりですねあの男がアリナ様に手を出さないか心配なのですよ」
あ~、そんなことですか。
毎度毎度ラトの過剰被害妄想癖には困ったものです。
「大丈夫ですよ。リュートさんはそのようなことをするようなお方には見えませんでしたし、何かあったらあなたが守ってくださるのでしょう?」
「あ、アリナ様・・・」
ラトが歓喜に打ち震えている、ちょろいわね。
っていうか国賓相手にこんな態度をとってたら普通はただじゃすまされない。本人も理解しているでしょうけど、難しいみたい。
これからは少しラトとリュートさんの関係がうまくいくよう、間を取り持ってあげないといけないかもね。
・
・
・
ラトが私の食器を片付けて戻ってきた。
「アリナ様、これからのご予定は?」
ん?予定、予定ねぇ・・・。
「とりあえずヴァナルに餌をあげましょう。今日の予定はそのあとに」
「かしこまりました」
こういうときだけはしっかりしてるのよね。
ちなみにヴァナルっていうのは私の使い魔のことね。実は私、調教魔法っていうのを使うことが出来るのよ。
昔ヴァナルーその時は名前はなかったわねーが弱ってたところを見つけた時に、この魔法を使ったのよね。あんまり記憶には残ってないけど彼を助けようと必死だったのは覚えてるわ。
それから彼は私に良く懐いてくれた、だから私はヴァナルという名を与えたの。これからともに歩む、親愛の証として。
・
・
・
歩くことしばし、ヴァナルの小屋の前についた。だけど・・・。
「おや、いませんね」
「本当ね。おぉ~い、ヴァナル~!!」
ヴァナルはこの中庭の中で自由にさせていた。リードは着けていなかったから好き勝手歩けるようにはなっているのだけど、私が呼びかけたらすぐに駆け寄ってきてくれるはず。
だけど今日だけは違っていた。
「来ませんね」
「おかしいわ、今までこんなことなかったのに」
「気配を感じ取ることは出来ないのですか?」
「・・・ダメ、反応がないわ」
調教魔法をかけたものとかけられたものの間では、回路とでも呼ぶべきものが形成される。普通はそれを辿って探知することが出来るのだけど、場合によっては出来ないこともある。
一つは探知対象との距離が遠すぎること、そしてもう一つは探知対象が弱っている場合。もしかしたらヴァナルの身に何かあったのかもしれない、急いで探し出さないと。
「ラト、貴方は城内の人たちから情報を集めてきて頂戴、私はこの近辺の人たちに尋ねてみるから」
「かしこまりました。お任せくださいませ」
一礼してラトが去っていく。ヴァナル、すぐ見つけるから待っててね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ん?オオカミの魔物?悪いが見てないな」
「そうですか・・・」
「アリナ様、すぐに見つけだしますのでご安心ください」
私とラトが聞いた情報によると、ヴァナルが最後に目撃されたのはこの城下町の北東部。厳密にいえばこっち方面に向かったという情報があるだけで、そこに入って行ったのが目撃されたわけではない。
「なんだ?そのオオカミは君の使い魔なのかい?」
「はい・・・」
「ふむん、そういうことならスラム街の路地裏にいる占いばあさんを頼ってみるといいかもな」
スラム街、とはいっても貧民街といったほうが近いですね。
父上はすべての国民を愛しています、だけどその寵愛は無償のものではありません。そうなると助けを受けられない人は必ず発生します。
ですのでそういった人たちを助ける最後の砦として生まれたのがこのスラム街、というか北東部です。
まぁそうじゃない人も住もうと思えば住めるんですけどね。
この北東部はギルレオン王国からの税収が他の地区に比べると少なく、束縛もない。代わりに福利厚生はあまり受けられません。その代わり独立した自治区としての存在が許可されているという独特な地区です。
要するに王族の介入を受けず自分たちだけでやっていける人たちの集まりですね。
まぁ福利厚生があまり受けられないといっても、それはあくまで北東地区にはないというだけの話、近隣の地区に移動すれば受けることもできます。警察も一応いますし、住居の提供や定期的な清掃活動も行われているので4つの地区でも住民は多い方です。
「路地裏ですか。しかしそのような危険な場所にお嬢様をお連れするわけには・・・」
「お嬢様?お前さんたち結構偉い人なのかい?」
「えぇ、このお方はギルレオン第二王女、アリナ・ギルレオン様にあられます」
「えっ、お、王女様ですって!?こ、これは大変な失礼を!!」
「いえいえ、お気になさらないでください」
今はこんな問答をしている余裕はない、早いうちにヴァナルを見つけないと。
「すいません、俺にできることなら何でもします」
「・・・ふむ、そう言う事なら私のお願い事を聞いて下さらない?」
「お、お願い事ですか?」
そんな震えた目をしないでいただきたい、まるで私が悪人みたいではありませんか。
「えぇ、貴方が先程おっしゃっていた路地裏の占いばあさんのもとに案内なさいな」
「そ、そういう事でしたらいくらでも!!」
うん、いい返事。
「えぇ、お願いね」
そしておじさんは歩き出す。思ったより速足なので遅れないようにしないと。
・
・
・
「これは、思ったよりも清潔ですね」
ラトがぽつりとつぶやく。私も同感、ある程度の清潔さは保たれていると考えていたけど、これは他の地区、それこそ国が直接介入している地区と比べても遜色ないわね。
「へへっ、ギルレオン王には感謝してもしきれませんよ」
「え?どういうことですの?」
「そのままの意味です。国の介入は他の地区に比べると少ないようですが、その分質の高い役人さんが送られてくるのです。そういった人たちが我々の自治がうまくいくよう教育をしてくれるのですよ」
知らなかった、私はなんでも知っていると自惚れていたみたいね。
「私もまだまだ知らないことがあったわね。なんでも知っていると自惚れていたわ」
「・・・我々はギルレオン王国、ひいてはギルレオン王、そのご家族の皆様に恩義を感じています。こういうのは少々傲慢かもしれませんがこの地区を代表させてお礼させていただきます」
「ありがとうございます」といっておじさんは頭を下げた。
「えぇ、しっかり受け取りました、父にも伝えておきます」
そこから先は遠慮も吹っ切れたのか、おじさんが面白い話をしてくれた。
その間時間を忘れていたようで、目的地のお家まですぐに到達したのでした。
・
・
・
「着きました、ここがばあさんの家です・・・、ってあれ!?」
「ッ!!ヴァナル!!」
家の前に置かれた箱の中、そこに座っていたのはヴァナル。
ワンッ!!と一声吠えた後私のもとに駆け寄ってくる。
「良かった怪我はないみたいね」
一安心、怪我がなくて本当によかった。
「騒がしいね・・・、ってあら、その子は君の使い魔だったのかい?」
「あ、ばあさん」
扉を開けて一人のお婆さんが出てきた。
十中八九この家の主の方でしょう。
「おぉ、あんたが連れてきたのか」
「おう、魔法に詳しいばあさんなら王女様の助けになれるかなって思ってさ」
「・・・これはこれは失礼な発言をしてしまい申し訳ありません」
「あぁいえ、気にしないでください。そんなことよりあなたがヴァナルを保護してくださったんですよね。もしあなたがいなかったら・・・、本当にありがとうございました」
もしこの人が見つけてくれなかったらどうなっていたか分からない。本当に感謝でいっぱいです。
「あぁいや、保護したというかなんというか・・・」
「・・・何かあったのですか?」
ラトが訝し気に質問している。
私も何か事情があるのだと、この時察した。
「まぁ見てもらうのが手っ取り早いでしょう、どうぞお入りください」
その言葉に従って後に続く、そこで見たのは・・・。
「ッ!!こりゃひでぇな」
傷だらけの狼の魔物、体中血まみれだし息も細い。生命の鼓動も止まりかけている。むしろ生きているのが不思議なくらいでした。
「そのヴァナルって子が私を誘ってるみたいに吠えるもんだから付いて行ってみたんだが・・・、こればっかりはどうしようもないかもしれんね」
「おいおい、ばあさんでも無理なのかい?」
「無理だね、手持ちの道具じゃ難しすぎるよ」
「やれることはやりつくした」と付け加えます。治療台の上を見てみても様々な薬品や血の付いた道具が散乱していて、彼女の言葉に一切の嘘が無いのが見ただけで分かりました。
「あの、道具があれば希望はありますか?」
「む?まぁ、あればね」
「わかりました。ラト、城にも道具はあるわよね」
「えぇ、勿論でございます」
「そういうことです。おばあさん、協力してはくれませんか」
「・・・断る理由もないね。ただ今は一刻を争う事態、急いで案内して頂戴」
頷き返す。私には祈ることしか出来ないけれど、なんとしてでも助けてみせる。私たちは大急ぎで城へと急いだ。
もう少しの辛抱、君もどうにか頑張って。
大体5000文字で集中力が切れる。
次回からは新章です。




