男女二人、密室、何も起きないはずがなく…
・ちょっとした下ネタあり
Are you ready?
コンコンコン、というノック音が廊下に響き渡った。
そのすぐ後に、アリナの部屋からも、慌ただしい足音が聞こえ始める。
そしてガチャリという音ともに、アリナの部屋の扉が開いた。
「いらっしゃい、よく来てくれたわね。さ、上がって上がって」
突っ込みどころは沢山ある。
髪の色がちょっと変わっているのだ。
美しい銀髪の中に、真紅の毛がメッシュのように交じっている。
だけどそれ以上の問題があった、それは・・・。
「え!?ちょっ、服着ろよぉおおお!?!?」
アリナの姿が上下ランジェリーだったこと。
要は女性用の下着姿だったのだ。
ラトさんからずぼらという話は聞いていたが、まさかここまでとは・・・。
なお当の本人であるアリナは、その姿を俺に見られていることに対して、一切の恥ずかしさを抱いていない様子であった。
「だって今日暑いじゃない。リュートさんこそ、そんな厚着して暑くないんですか?」
「いや、全く」
「あらあら、それじゃあ私が暑がりみたいね。まぁいいわ、お部屋に入ってくださいな」
「・・・失礼します。って!?」
思わず絶句してしまった。
いやまあラトさんから聞いてはいたのだが。
「本当は片づけたかったのよ?」
何に絶句したのか。
アリナの部屋の散らかりようにである。
床には紙と本と服が散らかり、足の踏み場が無い。
他にも飲みかけのティーカップとか、文房具とかもあるけれど、全部言っていたらきりがなかった。
まぁ努力していたのはわかる。収納箪笥の隙間から、服と下着がはみ出ており、急ピッチで片付け始めたであろうことが容易に読み取れた。
「まぁ努力はしたんだね・・・」
「あら、私の下着が気になるのかしら?」
「は?」
「だって収納箪笥のほうをじろじろ見て、スケベな方ね?」
「違うよ、努力の跡を見てるんだよ!?」
「恥ずかしがらなくてもいいのに。あなたも男の人なのね~~」
そう言って煽ってくるアリナ嬢。
よもやよもや、まさかアリナがこんな人間だったとは。母親譲りか?
結構付き合いが長いと思っていたが、それは思い込みだったようだ。
「あ、そうだ。窓開ける?本を読むのに鬱陶しいから閉じていたのだけれど、今は気にしなくていいからね」
「え、いや、外から色々見えちゃうだろ?」
「あらぁ、何が見えちゃうのかしら?」
「・・・」
「・・・まぁ、見えても問題ないわよ。私のはあまり大きくないもの」
そう言い、悲しそうな顔で、自分の胸に視線を下したアリナ。
ただ一つ言えることがあるのなら、問題は絶対にそこではない。
「そういう問題じゃ・・・」
「えっ、なに、貴方は小さい方が興奮するのかしら?私、とっても嬉しいわっ」
「え、そういうことを言いたいんじゃ・・・」
「もしかして、リュートさん。私をそういう目で見てたんですか?」
「・・・チッ!!」
「あらあら、照れ隠しですの?」
だめだ、勝てない。
何やっても強力なカウンターが飛んでくる。
昨日のゴーレムよりもずっと手ごわいぞ。
「ま、冗談はここまでにしておきます。どうぞ座ってください」
アリナはそう言った後、窓を開けるのをやめて、散らかったベッドの端に座った。
大方あのうえでゴロゴロしていたのだろう、ベッドシーツがめくりあがっている。
座ったアリナが自分の隣をポンポン叩くのを無視して、対角側にある椅子に腰かけた。
「あら、どうしてそこに座るのかしら?」
「・・・別に」
しばらくの間、沈黙が部屋を支配する。
五秒か十秒ほどたって、アリナの呟きがその支配を打ち壊した。
「甲斐性なし」
「え?」
「せっかく誘惑したのに、指一本出さないなんて!!」
「??????」
乙女心は複雑だ。っていうけれど、ここまでなの?
ー解析不能です。
じゃあ何しに来たんだよ?
冷やかしか?
兎にも角にも、今はこの場をうまく抑えなければ。
「そういうのは恋人同士がやることだろ?」
「ふ~ん、なるほどね」
「あ?」
「うふふ」
そう不気味に笑って、アリナがベッドから立ち上がった。
ちょっと顔が赤い。
一体何をしだすのやら。
そう考えて少し達観気分だったのだが、それも長くは続かなかった。
「よいしょ」
「ちょ!?」
「うふふ、最高の特等席ね」
アリナが腰かけたのは俺の膝の上。
柔らかい肌と、鼻腔をくすぐる香り。そしてえらく煽情的なその姿が、俺の理性を揺さぶってくる。
前世だったらヤバかったね。
何がだって?ナニがだよ。
そんな下品な考えを浮かべて、気を逸らしている。
だけど俺の膝に座ったアリナの表情がすっと、真剣なものとなった。
「あのね?」
「どうした?」
「この前、助けてくれてありがと。もう一回こうしてあなたに会えて、本当にうれしいの」
「・・・俺も」
「そ、だったら嬉しいわ」
そう言ってそっぽを向くアリナ。
その顔はつい先ほどよりもずっと赤くなっていた。
まぁ多分俺も人のこと言えないんだろうな。
鏡が無いからわからないけど。
ー否。マスターの体には・・・
理屈はいらない。
こういうのは雰囲気でいいんだよ。
ーッ!!勉強になります。
なんの?
ろくなことではないんだろうが、今はそれどころではない。
アリナよ、言いたいことが終わったなら、早く退いてもらいたい。
これでも頑張って自分を抑えているので。
「アリナ、終わったなら・・・」
「あのね!!こっからが本当に言いたかったことなの」
そう言ってアリナがまた俺の方を向く。
茶化したりはしない、黙って頷き返す。
「あなたって、愛想が無い人って嫌い?」
「いいや、嫌いじゃない。無表情な人が時々見せる笑顔は、とてもとても価値のあるものだからね」
「え、そ、そうなんだ。ふ~ん・・・」
「どうした?ニヤニヤして?」
「別に~。あなたに嫌われなくてよかったぁ、なんて思ってもないわよ~」
「・・・あぁ、お前が聞きたかったことって、俺に嫌われてないか?ってこと?」
そう聞き返すと、アリナがまた俯き始めた。
しばしの沈黙、だがまたすぐにアリナが口を開く。
「それもある。けど、一番はそれじゃないっ」
真剣な面持ちで、そう言い放った。
薄赤色だった頬が、赤インクを垂らしたみたいに染まっている。
「あのね!!」
「聞いてる。どこにもいかないよ」
「ん、ありがと。じゃあ言う、ね」
「おう」
「私、貴方のことが・・・」
何か言いかけていたが、またすぐに口を閉ざした。
「・・・どうした?」
「・・・あぁ、もう!!」
アリナがそう叫び、またしても静寂をぶち壊す。
どうしたのだろうか?
そう思っていたら、俺の両頬にアリナの手が添えられた。
その小さくて柔らかい手は、微かに赤く染まり、ぷるぷると震えている。
「言葉で伝えるなんて、私、ちょっと焦ってたみたいね」
「?」
「目、閉じてくれる?」
「え?」
「早くして。恥をかかせるつもり?」
「・・・悪かったよ」
言われるがままに目を閉じる。
添えられた両手の力がどんどんと強くなる。
多分跡が残るね、浮気性の男の頬みたいになっちまうよ。
そんなくだらないことを考えて、強引に思考を切り替えていた。
そうでもしないと恥ずかしさで爆発してしまうだろうから。
「絶対開けちゃだめよっ」
「開けないよ」
掛かる鼻息が少しだけ荒い。
心臓の音すら聞こえる気がする。
「ん。そのまま楽にしてて」
両腕の力がさらに強くなった。
微かな呼吸音と心臓の音も、だんだんと強く鳴り始める。
「好きよ、ユウキ」
消え入りそうなささやきだった。
そしてーーー
・
・
・
「恥ずかしいならやらなかったらよかったのに」
「ふんっ!!」
頬に残った熱を感じつつ、そんなことを聞いてみた。
今のアリナ、またもやそっぽを向いて顔を赤くしていた。
ちなみに服も着始めた。”伝えたいこと”を伝えたら着るつもりだったらしい。
「それじゃだめよ。ちゃんと言葉にしないと」
「・・・そっか」
「それで、あなたはどうなのかしら」
「そりゃあもちろん・・・」
言い終わる前に、アリナが自分の唇に人差し指を当てる。
「今言っちゃダメ。それじゃあ私が言わせたみたいでしょ?」
「じゃあどうすれば?」
そう問いかけると、アリナはいたずら気な笑みを浮かべた。
「私ね、とてもドキドキしてるの。それはそれは、胸が張り裂けそうなくらい。あなたはどう?」
「・・・俺も同じだぞ?」
「じゃあそのドキドキを、三倍にして返してくれるかしら?」
う~ん、胸が張り裂けそうなのを三倍にしちゃったら、死んじゃうんじゃないかな。
・・・なんて言ったりはしない。
真剣な言葉には真剣に答えたかった。
「分かった。用意しておく、俺とお前の約束だ」
「あらあら、楽しみね」
そう言ってくすくすと笑う。
ただそうなると、この部屋にもう一度来ることになるかもな。
同じ轍を踏まないように、釘をさすことにしよう。
「それと、次会うときは服を着ておいてくれ」
「あら、この部屋の中でも?」
「そうだ」
「いやよ、暑いもの。それに覗かれちゃダメな理由が、私にはないわ」
理由?
理由がいるのか、まぁそれっぽいのを言っておくか。
「・・・理由ならある。その恰好、誰にも見てほしくない」
「え!?」
「・・・」
「・・・ふんっ、まぁいいわ、服を着てあげます。まぁ、ラトは私のこの恰好を、毎日見てますけどねっ」
はい、契約成立と。
ってことで、これにて一件落着・・・、だと思ったその矢先、アリナの口からとんでもない爆弾発言が飛び出した。
「でも残念だわ。リュートさんのこと、尻に敷きたかったのになぁ」
「は?」
「だって恋人になったら必要でしょう?どっちか上か下かっていうのは」
「そう?」
「そうよ。だから言葉責めで私の優位性を築きたかったんだけど、ちょっと焦りすぎちゃったわね」
「言葉責め?」
「うん。お母様が仰っていたわ。”男を尻に敷きたかったら、まずは言葉責めよッ!!”って」
色々と突っ込みたい。
そもそも言葉責めの意味を分かってるの?とか、そんなアホみたいな会話が、親子の会話でいいの?とか。
まぁ面倒くさくて辞めたけどね。
「・・・ふう」
「あら、どうしました?賢者タイム?」
「・・・先が思いやられるよ」
やんちゃなお嬢様だこと。
若干躍起になって声高々に宣言してやると、アリナは大笑いを始めたのだった。
「アハハ、面白い冗談ね」
「何言っても無駄かよ。で、要件は終わり?」
「私の要件は終わり」
「そっか、じゃあ会議までここで待っててもいい?」
「え、会議?」
そう言えばアリナには伝えていなかったな。
びっくりした様子で俺のほうを見ている。
「そうそう、俺が魔王になるかならないかの」
「ちょっと待ってください!!魔王ですか!?」
「そうそう。俺とロメオの間ではもうなることになってる。メリットもあるしな」
「・・・確かに、悪いことばかりでもありませんね」
えらく真剣な顔で、アリナが悩み始めた。
・・・下がパンツ一丁じゃなかったら、格好良かったんだけどね。
「となると重要になるのは隣国との関係ですね」
「悪化しそうか?」
「初めのうちはあり得るでしょうね。ですがリュートさんは悪い魔王ではない、そのことが分かればすぐに柔らかくなると思いますよ」
「じゃあ初めが肝心ってわけね」
「はい。自分でいうのもなんですが、我が国はショクチェンドゥ、ゴケンコウ共に大変信頼されています。ですので我が国とリュートさんとの関係を見せつけることが出来れば、結構簡単に友好関係が築けると思いますよ。それにちょっとした策もありますし」
ほほう、それはいい。
策があるなら希望も見えてくる。
ただ一つ気になることがあるのなら、アリナの微笑みが若干女豹みたいだったことくらいか。
まぁ気のせいだよね、たぶん。
「ほう、それは一安心だね」
「はい。私たちが対等な関係でありかつ、友好な関係であることを見せつけましょう」
その通りだ。
上に立つものとして、しっかり気を引き締めねば。
「そうだな。俺の配下たちのためにも」
「え?配下?」
「あぁ、それは・・・」
言い終わる前に、部屋の扉がノックされた。
その正体はラトさん、会議の準備ができたことを伝えに来たようだ。
「アリナ様、リュート様、会議の準備が出来ました」
「すぐに行くわ」
「は~い、今行きま、ッ!!」
立ち上がろうとした俺。
だがその矢先、足元にあった巨大な辞典に、足を引っかけてしまった。
羽を広げてバランスを取ろうにも、この部屋では狭すぎる。
俺はそのままアリナの体を巻き込んで、ベッドのほうに倒れこんでしまった。
「きゃあ!!」
「ッ!!ごめん」
アリナがとっさに叫んだ。
そしてそれを聞いたラトさん、何事かと尋ねる前にバンッ!!と扉を開けた。
「何事ですか!?アリ、ナ、さま・・・」
ラトがその様を見て絶句した。
血の気が引いていく、大雨みたいな音を立てて。
「あらやだ、えらく積極的ねっ」
そう言って煽るアリナ嬢。
アリナを誤って押し倒した結果、顔と顔との距離がえらく短くなってしまった。
・・・後、俺の右腕がラッキースケベしてしまっている。
「リュート様、私、貴方を信用していたのですが・・・」
ラトさんの背後に雷が見える。
これはやばい。
「え、ちがっ!!」
「ちょっとラト!?本気にしないで、これは私が・・・」
途中までふざけていたアリナも、俺に加勢し始める。
だけど、
「やはり男はケダモノッ!!私のアリナ様に手を出すことは許しませんッ!!」
それだけではこの場は収まらなかった。
やれやれ、今度からは部屋を片付けるように、アリナに伝えとかないとな。
同じ轍を踏まないように。
次の投稿は十月六日でしょう、おそらく。




