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とある魔王の無双譚  作者: azl
新たなる魔王
47/145

男女二人、密室、何も起きないはずがなく…

・ちょっとした下ネタあり


Are you ready?

 コンコンコン、というノック音が廊下に響き渡った。

 そのすぐ後に、アリナの部屋からも、慌ただしい足音が聞こえ始める。


 そしてガチャリという音ともに、アリナの部屋の扉が開いた。


「いらっしゃい、よく来てくれたわね。さ、上がって上がって」


 突っ込みどころは沢山ある。


 髪の色がちょっと変わっているのだ。

 美しい銀髪の中に、真紅の毛がメッシュのように交じっている。


 だけどそれ以上の問題があった、それは・・・。


「え!?ちょっ、服着ろよぉおおお!?!?」


 アリナの姿が上下ランジェリーだったこと。

 要は女性用の下着姿だったのだ。


 ラトさんからずぼらという話は聞いていたが、まさかここまでとは・・・。


 なお当の本人であるアリナは、その姿を俺に見られていることに対して、一切の恥ずかしさを抱いていない様子であった。


「だって今日暑いじゃない。リュートさんこそ、そんな厚着して暑くないんですか?」


「いや、全く」


「あらあら、それじゃあ私が暑がりみたいね。まぁいいわ、お部屋に入ってくださいな」


「・・・失礼します。って!?」


 思わず絶句してしまった。


 いやまあラトさんから聞いてはいたのだが。


「本当は片づけたかったのよ?」


 何に絶句したのか。

 アリナの部屋の散らかりようにである。


 床には紙と本と服が散らかり、足の踏み場が無い。

 他にも飲みかけのティーカップとか、文房具とかもあるけれど、全部言っていたらきりがなかった。


 まぁ努力していたのはわかる。収納箪笥の隙間から、服と下着がはみ出ており、急ピッチで片付け始めたであろうことが容易に読み取れた。


「まぁ努力はしたんだね・・・」


「あら、私の下着が気になるのかしら?」


「は?」


「だって収納箪笥のほうをじろじろ見て、スケベな方ね?」


「違うよ、努力の跡を見てるんだよ!?」


「恥ずかしがらなくてもいいのに。あなたも男の人なのね~~」


 そう言って煽ってくるアリナ嬢。


 よもやよもや、まさかアリナがこんな人間だったとは。母親譲りか?

 結構付き合いが長いと思っていたが、それは思い込みだったようだ。


「あ、そうだ。窓開ける?本を読むのに鬱陶しいから閉じていたのだけれど、今は気にしなくていいからね」


「え、いや、外から色々見えちゃうだろ?」


「あらぁ、何が見えちゃうのかしら?」


「・・・」


「・・・まぁ、見えても問題ないわよ。私のはあまり大きくないもの」


 そう言い、悲しそうな顔で、自分の胸に視線を下したアリナ。


 ただ一つ言えることがあるのなら、問題は絶対にそこではない。


「そういう問題じゃ・・・」


「えっ、なに、貴方は小さい方が興奮するのかしら?私、とっても嬉しいわっ」


「え、そういうことを言いたいんじゃ・・・」


「もしかして、リュートさん。私をそういう目で見てたんですか?」


「・・・チッ!!」


「あらあら、照れ隠しですの?」


 だめだ、勝てない。


 何やっても強力なカウンターが飛んでくる。

 昨日のゴーレムよりもずっと手ごわいぞ。


「ま、冗談はここまでにしておきます。どうぞ座ってください」


 アリナはそう言った後、窓を開けるのをやめて、散らかったベッドの端に座った。

 大方あのうえでゴロゴロしていたのだろう、ベッドシーツがめくりあがっている。


 座ったアリナが自分の隣をポンポン叩くのを無視して、対角側にある椅子に腰かけた。


「あら、どうしてそこに座るのかしら?」


「・・・別に」


 しばらくの間、沈黙が部屋を支配する。

 五秒か十秒ほどたって、アリナの呟きがその支配を打ち壊した。


「甲斐性なし」


「え?」


「せっかく誘惑したのに、指一本出さないなんて!!」


「??????」


 乙女心は複雑だ。っていうけれど、ここまでなの?


 ー解析不能です。


 じゃあ何しに来たんだよ?

 冷やかしか?


 兎にも角にも、今はこの場をうまく抑えなければ。


「そういうのは恋人同士がやることだろ?」


「ふ~ん、なるほどね」


「あ?」


「うふふ」


 そう不気味に笑って、アリナがベッドから立ち上がった。

 ちょっと顔が赤い。

 

 一体何をしだすのやら。

 そう考えて少し達観気分だったのだが、それも長くは続かなかった。


「よいしょ」


「ちょ!?」


「うふふ、最高の特等席ね」


 アリナが腰かけたのは俺の膝の上。

 柔らかい肌と、鼻腔をくすぐる香り。そしてえらく煽情的なその姿が、俺の理性を揺さぶってくる。


 前世だったらヤバかったね。

 何がだって?ナニがだよ。


 そんな下品な考えを浮かべて、気を逸らしている。

 だけど俺の膝に座ったアリナの表情がすっと、真剣なものとなった。


「あのね?」


「どうした?」


「この前、助けてくれてありがと。もう一回こうしてあなたに会えて、本当にうれしいの」


「・・・俺も」


「そ、だったら嬉しいわ」


 そう言ってそっぽを向くアリナ。

 その顔はつい先ほどよりもずっと赤くなっていた。


 まぁ多分俺も人のこと言えないんだろうな。

 鏡が無いからわからないけど。


ー否。マスターの体には・・・


 理屈はいらない。

 こういうのは雰囲気でいいんだよ。


ーッ!!勉強になります。


 なんの?

 ろくなことではないんだろうが、今はそれどころではない。


 アリナよ、言いたいことが終わったなら、早く退いてもらいたい。

 これでも頑張って自分を抑えているので。


「アリナ、終わったなら・・・」


「あのね!!こっからが本当に言いたかったことなの」


 そう言ってアリナがまた俺の方を向く。

 茶化したりはしない、黙って頷き返す。


「あなたって、愛想が無い人って嫌い?」


「いいや、嫌いじゃない。無表情な人が時々見せる笑顔は、とてもとても価値のあるものだからね」


「え、そ、そうなんだ。ふ~ん・・・」


「どうした?ニヤニヤして?」


「別に~。あなたに嫌われなくてよかったぁ、なんて思ってもないわよ~」


「・・・あぁ、お前が聞きたかったことって、俺に嫌われてないか?ってこと?」


 そう聞き返すと、アリナがまた俯き始めた。

 しばしの沈黙、だがまたすぐにアリナが口を開く。


「それもある。けど、一番はそれじゃないっ」


 真剣な面持ちで、そう言い放った。

 薄赤色だった頬が、赤インクを垂らしたみたいに染まっている。


「あのね!!」


「聞いてる。どこにもいかないよ」


「ん、ありがと。じゃあ言う、ね」


「おう」


「私、貴方のことが・・・」


 何か言いかけていたが、またすぐに口を閉ざした。


「・・・どうした?」


「・・・あぁ、もう!!」


 アリナがそう叫び、またしても静寂をぶち壊す。


 どうしたのだろうか?

 そう思っていたら、俺の両頬にアリナの手が添えられた。


 その小さくて柔らかい手は、微かに赤く染まり、ぷるぷると震えている。


「言葉で伝えるなんて、私、ちょっと焦ってたみたいね」


「?」


「目、閉じてくれる?」


「え?」


「早くして。恥をかかせるつもり?」


「・・・悪かったよ」


 言われるがままに目を閉じる。


 添えられた両手の力がどんどんと強くなる。


 多分跡が残るね、浮気性の男の頬みたいになっちまうよ。


 そんなくだらないことを考えて、強引に思考を切り替えていた。

 そうでもしないと恥ずかしさで爆発してしまうだろうから。


「絶対開けちゃだめよっ」


「開けないよ」


 掛かる鼻息が少しだけ荒い。

 心臓の音すら聞こえる気がする。


「ん。そのまま楽にしてて」


 両腕の力がさらに強くなった。

 微かな呼吸音と心臓の音も、だんだんと強く鳴り始める。


「好きよ、ユウキ」


 消え入りそうなささやきだった。

 そしてーーー



「恥ずかしいならやらなかったらよかったのに」


「ふんっ!!」


 頬に残った熱を感じつつ、そんなことを聞いてみた。

 今のアリナ、またもやそっぽを向いて顔を赤くしていた。


 ちなみに服も着始めた。”伝えたいこと”を伝えたら着るつもりだったらしい。


「それじゃだめよ。ちゃんと言葉にしないと」


「・・・そっか」


「それで、あなたはどうなのかしら」


「そりゃあもちろん・・・」


 言い終わる前に、アリナが自分の唇に人差し指を当てる。


「今言っちゃダメ。それじゃあ私が言わせたみたいでしょ?」


「じゃあどうすれば?」


 そう問いかけると、アリナはいたずら気な笑みを浮かべた。


「私ね、とてもドキドキしてるの。それはそれは、胸が張り裂けそうなくらい。あなたはどう?」


「・・・俺も同じだぞ?」


「じゃあそのドキドキを、三倍にして返してくれるかしら?」


 う~ん、胸が張り裂けそうなのを三倍にしちゃったら、死んじゃうんじゃないかな。

 

 ・・・なんて言ったりはしない。

 真剣な言葉には真剣に答えたかった。


「分かった。用意しておく、俺とお前の約束だ」


「あらあら、楽しみね」


 そう言ってくすくすと笑う。


 ただそうなると、この部屋にもう一度来ることになるかもな。

 同じ轍を踏まないように、釘をさすことにしよう。


「それと、次会うときは服を着ておいてくれ」


「あら、この部屋の中でも?」


「そうだ」


「いやよ、暑いもの。それに覗かれちゃダメな理由が、私にはないわ」


 理由?

 理由がいるのか、まぁそれっぽいのを言っておくか。


「・・・理由ならある。その恰好、誰にも見てほしくない」


「え!?」


「・・・」


「・・・ふんっ、まぁいいわ、服を着てあげます。まぁ、ラトは私のこの恰好を、毎日見てますけどねっ」


 はい、契約成立と。

 ってことで、これにて一件落着・・・、だと思ったその矢先、アリナの口からとんでもない爆弾発言が飛び出した。


「でも残念だわ。リュートさんのこと、尻に敷きたかったのになぁ」


「は?」


「だって恋人になったら必要でしょう?どっちか上か下かっていうのは」


「そう?」


「そうよ。だから言葉責めで私の優位性を築きたかったんだけど、ちょっと焦りすぎちゃったわね」


「言葉責め?」


「うん。お母様が仰っていたわ。”男を尻に敷きたかったら、まずは言葉責めよッ!!”って」


 色々と突っ込みたい。


 そもそも言葉責めの意味を分かってるの?とか、そんなアホみたいな会話が、親子の会話でいいの?とか。

 まぁ面倒くさくて辞めたけどね。


「・・・ふう」


「あら、どうしました?賢者タイム?」


「・・・先が思いやられるよ」


 やんちゃなお嬢様だこと。


 若干躍起になって声高々に宣言してやると、アリナは大笑いを始めたのだった。


「アハハ、面白い冗談ね」


「何言っても無駄かよ。で、要件は終わり?」


「私の要件は終わり」


「そっか、じゃあ会議までここで待っててもいい?」


「え、会議?」


 そう言えばアリナには伝えていなかったな。

 びっくりした様子で俺のほうを見ている。


「そうそう、俺が魔王になるかならないかの」


「ちょっと待ってください!!魔王ですか!?」


「そうそう。俺とロメオの間ではもうなることになってる。メリットもあるしな」


「・・・確かに、悪いことばかりでもありませんね」


 えらく真剣な顔で、アリナが悩み始めた。


 ・・・下がパンツ一丁じゃなかったら、格好良かったんだけどね。


「となると重要になるのは隣国との関係ですね」


「悪化しそうか?」


「初めのうちはあり得るでしょうね。ですがリュートさんは悪い魔王ではない、そのことが分かればすぐに柔らかくなると思いますよ」


「じゃあ初めが肝心ってわけね」


「はい。自分でいうのもなんですが、我が国はショクチェンドゥ、ゴケンコウ共に大変信頼されています。ですので我が国とリュートさんとの関係を見せつけることが出来れば、結構簡単に友好関係が築けると思いますよ。それにちょっとした策もありますし」


 ほほう、それはいい。

 策があるなら希望も見えてくる。


 ただ一つ気になることがあるのなら、アリナの微笑みが若干女豹みたいだったことくらいか。

 まぁ気のせいだよね、たぶん。


「ほう、それは一安心だね」


「はい。私たちが対等な関係でありかつ、友好な関係であることを見せつけましょう」


 その通りだ。

 上に立つものとして、しっかり気を引き締めねば。


「そうだな。俺の配下たちのためにも」


「え?配下?」


「あぁ、それは・・・」


 言い終わる前に、部屋の扉がノックされた。

 その正体はラトさん、会議の準備ができたことを伝えに来たようだ。


「アリナ様、リュート様、会議の準備が出来ました」


「すぐに行くわ」


「は~い、今行きま、ッ!!」


 立ち上がろうとした俺。


 だがその矢先、足元にあった巨大な辞典に、足を引っかけてしまった。


 羽を広げてバランスを取ろうにも、この部屋では狭すぎる。

 俺はそのままアリナの体を巻き込んで、ベッドのほうに倒れこんでしまった。


「きゃあ!!」


「ッ!!ごめん」


 アリナがとっさに叫んだ。


 そしてそれを聞いたラトさん、何事かと尋ねる前にバンッ!!と扉を開けた。


「何事ですか!?アリ、ナ、さま・・・」


 ラトがその様を見て絶句した。


 血の気が引いていく、大雨みたいな音を立てて。


「あらやだ、えらく積極的ねっ」


 そう言って煽るアリナ嬢。


 アリナを誤って押し倒した結果、顔と顔との距離がえらく短くなってしまった。


 ・・・後、俺の右腕がラッキースケベしてしまっている。


「リュート様、私、貴方を信用していたのですが・・・」


 ラトさんの背後に雷が見える。

 

 これはやばい。


「え、ちがっ!!」


「ちょっとラト!?本気にしないで、これは私が・・・」


 途中までふざけていたアリナも、俺に加勢し始める。

 だけど、


「やはり男はケダモノッ!!私のアリナ様に手を出すことは許しませんッ!!」


 それだけではこの場は収まらなかった。


 やれやれ、今度からは部屋を片付けるように、アリナに伝えとかないとな。

 同じ轍を踏まないように。

次の投稿は十月六日でしょう、おそらく。

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