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とある魔王の無双譚  作者: azl
魔人との激闘
31/145

暗闇の中で

変な縛りをつけてしまった気がする。

 ギルレオン城の中庭に、飛来する一つの人影があった。

 焦り、急ぐ人々の波をかき分けて、騒ぎの中心へとその人影が着地する。


「大変なの!!アリナが!!」


 そう焦ったような声を上げたのは、ギルレオン王女ウルスラ・ギルレオン。

 その腕の中には、彼女の娘アリナ・ギルレオンが抱えられていた。


 その顔色は非常に悪く、呼吸も安定していない。

 何か悪いことが起きているのは明白だった。


「分かってる」


 ウルスラの焦ったような声にそう返したのは、つい先ほど空からやってきたリュートである。

 彼は自身の能力、”解析・鑑定”をフルに働かせ、アリナを助けようと必死にもがいていた。


「一体何が起こったの?」


「例の魔人の能力、死毒のせいだ。俺が取り逃したばっかりに・・・」


「取り逃したの?」


「すまん、油断はしてなかったんだが、経験が足りなかった」


「責めてるわけじゃないわ。それより、奴にもう一度攻め込まれる心配はないのかしら?」


「それはない。少なくとも今日明日で治しきれるような傷じゃない」


「それが聞けて安心よ。ところでアリナは大丈夫なの?」


 そう心配そうに声を掛けるウルスラ。

 そしてちょうどそのタイミングで、リュートの解析も終了した。


ー”死毒”はアリナの体中に蔓延しており、特質能力”破壊者”での治癒は困難。

 種族能力”王の盾”での治癒を推奨します。


『直せるのか?』


ー可能です。

 王の盾を起動しますか?


『頼む』


ー了。


「最善は尽くしますが、後はアリナ次第です」


 王の盾の発動条件は二つ。

 魔に適性を持つことと、リュートとの間に眷属契約を結ぶこと。


 この二つはリュートの意思次第で解決できる問題ではない。

 あとはアリナの意思が戻るのを、祈り続けるしかなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私は暗い暗い暗闇の中にいた。

 そこはとても暑くて、とても寒くて、とても痛い。


 蝕むような痛みと、孤独への恐怖が私の体を支配していました。


「誰か、誰か助けてッ!!」


 何度も何度も私は叫んだ。

 けれどその声は虚空に消えるばかり。だけど叫ばずにはいられなかったの。


 私が私であるためには、何かに縋らないと駄目だった。

 仮にそれが無駄だと悟っていても、叫ばないと壊れてしまいそうだった。


「誰かっ!!」


 喉に痛みはない。

 もうとっくに潰れてしまいそうなのに、そんな気配はまるでしなかった。


「誰か・・・」


 けれど私の心はもう壊れかけている気がした。

 必死に目を逸らしてきた。だけど誰も助けには来ないことを、心の中では分かっていたのかもしれない。


「ちゃんと伝えたかったな」


 ラトへの労いの言葉や、両親への感謝の言葉、言いたいことは山ほどあった。


「リュートさん・・・」


 そして彼にも、お礼の言葉が言いたかった。


 ・・・いいえ違うわ。言いたかったじゃない、絶対言うの。まだ諦めちゃ駄目なのよ!!


「まだ諦めないわ。私の意識が途切れるまで、全力で叫び続けます!!」


 挫けかけていた自分の心を、再び立ち直させる。

 私はまだやれる。そう発破をかけて再び助けを呼ぼうとした、その時でした。


「フフフ、やはり君は素晴らしいね」


 背後からそんな声が聞こえてきたのです。

 その声は普段から聞いているあの声で・・・。


 私は首をクルリと回して、後ろを振り返りました。


「リュートさん!!」


 赤い髪に、赤い瞳、そんな彼の服装はとても見覚えがあって、ついつい反射的に叫んでしまいました。

 けれどその人は、私の言葉を聞いた途端に、笑い始めたのです。


「フフフ、君みたいな美人に言い寄られるなんて彼は幸せ者だね。だけど私はリュートじゃないよ」


 目をぱちくりさせてしまいました。

 だってまるで意味が分からないんですもの。


 私はその辺のことを詳しく聞くべく、質問をしてみました。


「じゃあ、貴方は一体誰なんですの?」


「私はユウキの体の元の持ち主さ。ちょうど君に伝えたいことがあってね、いい機会だから助けるついでに聞いてもらおうと思ったのだ」


「そのユウキっていうのは?」


「あぁ、リュートのことだよ。普段は偽名を使っているんだ」


「偽名ですか?」


「・・・もしや彼が転生者だって知らないのか?」


 さも知っていることが当然なような態度を取られていますが、普通はそんなこと予想できません。

 聡明なお父様でもわからないでしょう。


「初めて聞きました」


「ほう、そうなのか。ラガルト君には話していたようだけどね」


「そうなんですの?」


「あぁ、そうだ。結構ギルレオン城の中では広まってると思ってたんだがね、みんな口が堅いのか。いいことだな」


 もしや王族の中で知らなかったのは私だけ?

 そんな考えもよぎりましたが、今は気にしている場合ではありませんでした。


「まぁいいですわ。後で文句を言いますから。ところで、あなたは一体何をしに来たのですか?」


「おっといけない、肝心なことを伝えていなかったね」


 手をぽんっと叩いた赤髪の男性。

 そして表情を真剣なものに変えて、口を開かれました。


「私は君を助けに来た。ただし、そのためには君にいくつかの条件をのんでもらう必要がある」


「条件ですか?」


「そうだ。一つは君の体を魔に適性を持つよう作り変える許可。そしてもう一つはリュートとの間に眷属契約を結ぶことだ」


 その男性は、人差し指と中指を立ててそんなことを仰っていました。

 だけどまるで意味が分かりません。かみ砕いて説明してもらいましょう。


「あの、よく分からないのですが・・・」


「これは失礼。それでは順々に説明します。

 まず一つは君の体を魔に適性を持つように作り替えること。これは、君を人間という種族から別の種族へと作り替えるという意味です。あなたにはその許可をいただきたい。

 そして残りの眷属契約なんだが・・・」


「だが?」


「・・・要は彼と家族になってください」


「あ~、眷属ってそういう」


「はい。理由を説明すると、彼との間に眷属契約を結べば、王の盾という能力を発動することが可能になる。これを使えばあなたをこの暗闇から救出できる。

 そしてこの眷属契約というのが、魔に適性を持ち、かつリュートに忠誠あるは生涯を共にする誓いを立てることが必須条件です。

 これを満たさない限りあなたを助けることは出来ません」


 そう言って申し訳なさそうにする男性。

 だけどそれをを責めるのはお門違いというものです。


「いいえ、むしろ助かるだけで嬉しいのです。そんな顔をしないでください」


「そう言ってもらえると助かる。

 本当は制約無しにしたかったんだが、強力な権能には必ず何らかの制限がかかるからな。こればかりは私にはどうしようもない」


「?」


「おっと、話が逸れてしまいました。それでは聞きましょう、貴方は彼との間に眷属契約を結びますか?」


「はい」


 断る選択肢はなかった。

 だから迷わずそう言ったのだけど、彼には少し気になることがあるみたい。


「もしかして、”彼との間に生涯を共にする誓いを立てる”の意味を把握してなかったりしません?」


「え?ずっと彼と一緒にいればいいんですよね?今でも結構仲いいですし、問題ありませんわ」


 そう返事をしてみたのだけど、その男性は若干困ったような表情を浮かべておられました。

 そしてその顔を、何かに決意したような顔に変えて、口を開かれました。


「アリナさん」


「はい」


「眷属契約っていうのは、要約するにリュート君と愛し合えということです」


 愛し合う・・・、愛し合う!?どうしてそうなるのですの!?

 その言葉を聞いた途端に、私の顔が真っ赤になるのが分かりました。


「愛し合う!?えっと、それは、その・・・」


「あぁ失敬。言葉足らずでしたね。なにも肉体関係は持たなくていい、言葉通りに愛し合ってください」


「それはつまり・・・」


「まぁ心を通わせて、一生のパートナーになれということです。恋人という言葉にも言い換えられるかな」


 ますます顔が赤くなっていきます。

 確かに彼のことは悪くは思ってませんけど、恋人だなんて。


「・・・一生のパートナーなら、親友じゃダメですの?」


「残念ながら不可能だ。私がこの能力を作ったとき、友と呼べるような存在がいなくてね」


「友達はいないのに恋人はいたんですの?」


「一応な。向こうがどう思ってたかは知らないが、俺は心から大事にしていたよ」


「・・・他に方法はないんですか?」


「彼に忠誠を誓うっていうのがもう一つ。だけど君は王族だ。誰かの言いなりになってるなんて他の国に知られたら、ギルレオンのメンツに傷がついてしまうだろう」


「確かにその通りですが・・・」


「ふむ、まだ踏ん切りがつかないか」


 そう言って何か考え込む男性。

 だけどすぐに顔をにやにやさせ始めて、天井のほうを指さしました。

 そして私もそれにつられて、天井を見上げてみました。


「ッ!?」


「フハハハハ、どうして顔をそらすんだい?彼の顔は真剣だよ」


 そこにあったのはリュートさんの顔。

 とてもとても真剣な顔。普段は何も思わないのに、今日ばかりは意識してしまいました。


「ちょっと、消してくださいッ!!」


「ふ~む、君が覚悟を決めるまでは無理だね。彼だってあんなに頑張ってるのに、君はどうして踏ん切りがつかないんだ?」


「それは・・・」


「君だって彼を憎からず思っているはず。何故駄目なんだ?」


 そう言った彼の顔に、さっきまでの飄々とした様子はありませんでした。

 彼はきっと本気で私のことを考えてくれている、そう理解しました。


 ですので私は、自分の心の内を正直に話すことにしました。


「・・・嫌われちゃうかもしれないから」


「ほう、聞かせてごらん」


「私って昔から感情の起伏がないんです。怒ってないのに怒ってるって見られて・・・。だから人と仲良くなる方法なんて知らない。だから嫌われるかもって・・・、だけど彼に嫌われるのは絶対に嫌なんです」


 この人なら真剣に聞いてもらえる気がして、頑張って話してみました。

 石像だとか彫刻だとか揶揄されていたのも、私のこれが原因です。


 そしてそんな彼ですが、私の胸の内を聞いて、慰めるどころか・・・。


「フフフ、フフフフフ」


 急に笑い始めたのです。

 なんてひどい!!


「ちょっと、どうして笑うんですか!?こんなにも真剣に話してるのに!!」


「いやはやすまない。似ているとは思っていたがここまでとはな。ついついね、いつもみたいに笑ってしまったよ」


「え?私みたいな人がほかにも?」


「そうだ。まぁしばらく会えてないがね」


「そうなんですか」


「あぁ、そうなのだ。さてと、君は彼に嫌われるのが嫌だといったね」


「はい。それだけは絶対に嫌なんです」


「安心したまえよ。少なからず、今の彼は君のことを好いている。そう簡単に君を見捨てたりはしないだろう」


「そう、ですか?」


「そうなんだよ。なんてったって彼は私が認めた男だからね」


「・・・理由になってます?」


「なっているとも。安心するといい」


 そう言ってにやりと笑った男性。

 一体その自信はどこから来るのか、私にはわかりませんでした。


「さてと、覚悟は決まったかい?彼は君のために必死になっている、君は自分の心に従って御覧。

 誰かにどう思われたいじゃない、自分はどうしたいか。心に従って選びなさい」


「自分はどうしたいか・・・」


「なにも焦って関係を進める必要はない。ただ君が純粋な思いを自覚できたなら、それで眷属契約は履行される。関係は後から作ればいい」


「・・・分かりました」


「お?」


「私は、リュートさんと共にあり続けます。最期の時まで、ずっと」


 それを聞いた男性は、表情を柔らかいものに変えて、口を開きました。


「ふ~む、なかなか良いじゃないか。王の盾の本質は”信頼”、それが二者間の間で結ばれていなければならない。合格だ、ここに契約は結ばれたよ」


 その厳かな宣言が暗闇の中に響き渡ります。そしてその時、暗闇の世界に一筋の光が差し込み始めました。

 びっくりして見上げてみると、暗闇のドームの天井が、どんどんとまばゆい光に塗り替えられて行きます。


「これは・・・」


「お別れの時だ。せいぜいうまくやってくれ」


「お別れですの?」


「そうだ、契約が履行されたことにより、君の意識は回復に向かうだろう。

 今回は彼が君を支えたけれど、次は君が彼を支えてやってくれ」


「分かりました。ところで、私はどうして意識を失くしたんのですの?」


 私としては知っておきたいところでした。


 そしてその質問を聞いた男性は、少し遠くを見るような目をした後、こう答えました。


「赤髪の魔人のせいだ。奴の能力、”死毒”によって君は倒れたのさ」


「そうですか。では、その赤髪の魔人はどうなったのですか?」


「取り逃がした。だがまぁ問題ない、半年かけても直らない傷だし、それに・・・」


「それに?」


「奴はやりすぎた。この世は弱肉強食、多分ひどい目にあうだろうな」


 残虐な笑みを浮かべながらそう言った男性。

 先程の優しい雰囲気とは打って変わって、凶悪な雰囲気を醸し出していました。


「後そうだ、ユウキは押しに弱いからね、名前をささやきながら読んでやってくれ、一度でいいから」


「え?何故ですの?」


「いやぁ、彼も君みたいに眷属契約について理解してなかったみたいでね、今しがた説明してやった。表情は凛々しいが心の中は真っ赤だよ。

 だから揶揄ってやりたまえ、彼に対して優位性を取りたいならね」


 フフフ、と笑う男性。


 確かにお母様もお父様をいつも揶揄っていらっしゃいます。

 子どもが出来てから大分落ち着いたと聞きましたけど、昔は四六時中揶揄っていたという話も聞きました。


 そして今、お父様はお母様の尻に敷かれています。

 でしたらその理屈も正しいのかもしれません。


「分かりました。私、やります!!」


「フハハ、そりゃあいいな。俺はもうすぐ消えるけど、多分うまくやっていけるだろうね」


 そう言って頷いた男性。

 そしてその瞬間に、暗闇のドームの天井周囲全てが、まばゆい光に包まれました。


「今度こそお別れの時間だ。リュートのこと、しっかり見守ってやってくれ!!」


 彼が初めに言っていた伝えたいことっていうのは、この事なのでしょうか。

 結局最後まで分かりませんでしたが、それはそれでよかったのかもしれません。


「あの、貴方の名前は?」


 薄れゆく意識の中で、いつの間にかそんなことを聞いていました。

 そして彼は、少しだけ考えこむ様子を見せた後、口を開きました。


「まぁ、せっかくだし教えてやろう。私の名はーーーーー」


 その最後の言葉を聞き取ることは出来ませんでした。

 私の意識のほうが先に沈み、はっきりと認識することが出来なかったのです。


 だけどそのぼんやりとして聞きそびれた名前は、どこかで聞いたことある気が・・・。



 ゆっくりと目を開く。

 眩しいッ!!


「あ、アリナ様、目を覚まされたのですね!!」


 目を開いたのはほんの一瞬だったはずなのに、声を震わせたラトが抱き着いてきました。

 その目じりには涙がたまっています、心配かけちゃったみたいね。


「うん、覚ましたわよ。迷惑かけてごめんなさいね」


「いいえ。目を覚まされただけで私はッ!!」


 そう言いながら泣き始めたラト。

 懐からハンカチを取り出して、涙を拭いています。


「ところでリュートさんは?」


「あぁ、そこで寝ているわ」


 そう言って指を差したのはお母様。

 ラトと同じように、目じりに少しだけ涙がたまっています。


 とはいえさすがはお母様、その表情をすぐに普段通りのものに変えていました。

 そんなお母様の指先をたどってみると、私と同じようにベッドで眠っているリュートさんの姿が。


「えっ、一体何が?」


「急に倒れたの。けどまぁ大丈夫だと思うわよ」


「何が大丈夫なのよ!?何かあったらどうするの!?」


 他人事みたいな態度に、少し声を荒げてしまいました。

 だけどお母様は叱るでもなく、その理由を説明してくれました。


「倒れる前に”あ、ちょっと、やめろ!!勝手なことをするんじゃねぇ!!”って言ってたの。だからきっと大丈夫」


 失礼、これは理由ではありませんね。

 先程の男性といい、お母様といい、どうしてこうやたらと自信満々なのでしょう。

 ですが、ちゃんと根拠のある意見を言える人間も、この中にはいました。


「”解析・鑑定”してみたところ、容態は非常に安定しておりました。ですので命に別状はないと思われます」


 そう言ったのは、この国の魔法軍長、ロメオ・アズリア。

 こういう時だけは頼りになるのよ、こういう時だけは。


「良かった。私、ちゃんとお礼を言いたかったのよ」


「ふ~む、でしたら私が代わりに伝えておきましょうか?」


「それは駄目よ。ちゃんと自分の言葉で伝えたいの」


 ラトがそんな提案をしてきたけれど、今回は呑み込めません。

 やっぱり感謝の言葉は自分で伝えないとね。


「分かりました。仰せのままに」


「うん。ありがとう」


 納得してくれたみたいで良かった。


 ・・・安心したら眠くなってきちゃった。


「・・・眠くなってきました」


「でしたら、お休みを取られてください。リュート様がお目覚めになられたときに、起こしますので」


「悪いわね」


 起こしてくれるなら安心ね。

 優秀なラトに感謝しながら、久しぶりにぐっすり眠るのでした。

赤髪の男も言ってましたが、次回赤髪の魔人がひどい目にあいます。

ちょっと痛々しい表現がありますので、次回の前書きに結果だけ書いておきます。

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