赤髪の魔人
次回からは文章を短くして投稿頻度を上げたいです。
*あらすじ:赤髪の魔人と初邂逅
「ケッ、外れたか」
「あ?当てるつもりだったの?いやぁ、とろくて簡単に避けれちゃった」
煽るロメオ、ロメオの発言にイラつきを隠せない魔人。力任せに動こうとしたがついさっきの失敗を思い出す。
魔人からしてみればあの一撃で目の前の生意気な男を消し飛ばせるはずだった。だがしかし、忌々しいことに彼の放った渾身の一撃は掠ることすら許されなかった。
今までにない事態、人間など彼からしてみればアリのようなものであった。だがしかし目の前の人間は果たしてアリか?否、違う。目の前の奴は”敵”だ、彼は初めて”敵”を見つけたのである。
だがしかし、それでも自分が負けることはありえない。何故なら自分は魔人であり相手は人間なのだから。
そして魔人から敵認定されたロメオだが、実際はそこまで余裕があるわけではない。戦いは冷静さを先に失った方が負けるのだ。それ故煽るような発言をしていたのだが、上手くいったのは初めだけ。魔人は動きを止めて様子見に徹している。
ロメオからしてみれば文句の一つ言いたい気分であった。
「・・・どうしたの?ビビっちゃった?」
「フン、その手にはもう乗らんぞ。狭小な人間の浅知恵など俺には通用せんのだよ」
もはや先ほどの手は通じない。
若干危機感を覚えつつも、そう悟ったロメオは、自身の魔力を練り上げ体内に循環させる。この世界で広く見られる”身体強化魔法”である。
ロメオの戦い方はこの魔法を用いた格闘で隙を作り出し、その間に魔法を打ち込むというものだった。
「フハハハハ、そう来なくては、少しは楽しませてくれるんだろうなぁ?」
「さぁな、でもそんな大口叩いていられるのも今のうちだぜ?」
そんなことを言っているが、ロメオとて楽に勝てる相手だとは微塵も思っていない。今眼前に見据えている魔人の魔素量は、リュートと同じく底が見えない。そうであるなら、奴の魔素量はリュートと同じく自分の十数倍はあると考えるべき、そんな相手に楽々勝てるだろうなどと自惚れるほど、ロメオは馬鹿ではない。
だがしかし負けるつもりもないのは事実、彼は自分の持つ特質能力をフル稼働させ勝負に挑む。
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睨み合う両者、最初に動いたのはロメオだった。足で大地を蹴り、魔人の顔面へと切迫し殴りつける。
「当たるかよ」
だがしかし彼の拳は当たらない。
魔人は体を左にスライドさせ、難なくその拳を回避する。そして反撃の蹴りが魔人によって繰り出された。常人ならば視認できないほどの速度である、だがしかしロメオなら見える。切迫する暴力の塊を、強化された筋力による瞬発力で回避し次の一手を放つ。
「火炎誘導弾!!」
火炎誘導弾。その名の示す通り対象を追尾する炎の弾、これを防ぐためには結界で身を守るか魔法で相殺を行うしかない。
だがしかし魔人相手にはその常識は通用しない。赤髪の魔人は自慢の肉体でそれを正面から受け止めた。
「効かねぇなぁ」
あまりにもあっけなく受け止められたものの、ロメオに焦りは見られなかった。
何故か?そうなることはあらかじめ予想していたからである。
「ほう、やはりお前も”魔法妨害”を持ってんのか」
ロメオの推測したとおり、彼もリュートと同じく魔法妨害を所有していた。
結界系の魔法の可能性もあるが、その場合は結界の魔力が感じられるはず。だがそれが見られないということは、魔法の効果を減衰させる権能を持っていると考える方が妥当だった。
ロメオからしてみるとすこぶる相性が悪い相手である。
「やはりだと?」
「だから何だよ?」
「・・・フン、その態度、いつまで続くかなァ!?」
先程よりも速度を増した魔人の拳、しかしロメオにはまだ届かない。続く拳の応酬、だが暴雨のごとく降る拳は、一度たりともロメオを掠ることはなかった。
その理由は彼の所有する特質能力”研究者”にあった。
この”研究者”の権能は、”思考加速”、”解析・鑑定”、”精密分析”、”超演算”、”未来予測”の計五つ。
”思考加速”と”解析・鑑定”はリュートが所有するものと同じ。
”超演算”はその名の通り、人間の域を超えた速度での演算を可能にする権能。
そして残る三つのうちの一つ、”精密分析”は一度”解析・鑑定”した事象をさらに細かく分析する権能である。
これをロメオはうまく戦闘に流用している。解析・鑑定が通じた相手なら、その情報を精査し、対象の筋肉の動きや視線の動き、さらには癖から脈拍数までもの情報を調べ上げることが出来るのだ。
その調べ上げられた情報を、さらに詳しく調べ上げ、細かく細かく積み上げていく。そしてこのまとめられた情報をもとに”未来予測”を発動させるのだ。
この未来予測、初めのうちは精度が非常に悪い。
だがしかし、研究や戦闘での分析により幾多もの情報が集まることで、その予測は高精度なものとなる。それこそ未来予知といっても過言ではないほどに。
だがそんな未来予測にも欠点がある。一度起きたことは予測できても、起きていないことは予測できないのである。毎度同じ量、具材、調味料でカレーを作ってみても、食べてみないことには味の予測は出来ないのだ。
これは戦闘面においても同じである。
つい先ほどの事例を挙げてみると、火炎誘導弾では魔人にダメージは与えられなかった。その情報から、どれぐらいの魔素を込めればダメージを与えられるかという情報は分かっても、どの魔法ならより効率的にダメージを与えられるかはわからないのだ。
だからこそ様々な手を使わなければならない、だがその分相手から情報を引き出せた時の優位性は確実なものとなる。長期戦になればなるほど有利、それこそがロメオの有する”研究者”の秘密なのだ。だがそれをもってしても・・・。
「火炎爆裂弾!!」
「馬鹿な奴だなぁ!!お前の力じゃあ、俺は倒せねぇんだよォ!!」
子馬鹿にしたような発言の後、またしても魔法は魔人の体に弾かれた。
この間にも幾多もの魔法が魔人に放たれた。だがしかし風魔法、水魔法、土魔法、どれ一つとして魔人の体を傷つけることは叶わなかった。
「いくらやっても無駄ァ!!お前じゃあ俺には勝てねぇんだよォ!!」
「へぇー、でもやってみないと分からないんじゃあないのかい?」
「やらなくてもわかる。俺は魔人でお前は人間!!これが全てだよォ!!」
先程よりもずっと速度を増した拳、とうとうロメオも避けきれず胸部への直弾を許してしまう。
「カハッ!!」
その一撃だけでロメオのあばらが何本か逝った。
口から血を吐き出し、咳き込むロメオ。急いで回復魔法をかけたことにより大事には至らなかったものの依然状況は最悪であった。
戦いは長期間続いており、研究者によるデータ収集も十分に行われていた、にも関わらずロメオが優位とも言い難く、むしろ押されつつあった。
その理由はただ一つ、ロメオは人間で相手は魔人だから。人間と魔人の間では種族の格が違うのだ。魔人の体は人間よりもずっと強靭、それでいて魔素量も多く生まれながらにして”能力”を有している。若い魔人でさえも、人間からしてみれば滅びを齎す恐怖そのものなのだ。稀に見つかる歴戦の個体など、厄災に等しい。
だがそれでもここで逃げるわけにはいかない。
「ほう、まだやるつもりかよ?」
「当然だ」
生きて帰ると約束したから。約束を破ることは出来ない。
「じゃあ死ねッ!!」
つい先ほどよりもずっと速度を増した拳。まるで弾丸の如き速度で、ロメオに迫る。だがロメオは一切動かない。その拳を避けることは不可能だったのだ。
だがしかし、予測はしていた。”精密分析”で得られた情報をもとに予測される未来、迫りくる拳の軌道、速度、踏み込み、その全てはロメオの掌の上にあった。
だからこそ彼は動かない、自身の弄した策が成功すると確信しているのだ。
「ッ!!なんだこれは!!」
そしてその策は成功する。
魔人が踏み込んだ足元より現れる魔法陣、そこに描かれていた魔法は光魔法”聖鎖”。足元二つとその線対称に浮かぶ二つの計四つの魔法陣から現れた聖なる四本の鎖が魔人の体を雁字搦めに固めていく。
光魔法は魔素を使用しない魔法である。ゆえに魔法妨害はその効果を発揮しないのだ。その分時間と集中力を必要とするのだが、その効果は絶大である。
「ご自慢の肉体でも抜け出せないだろ?今の気分はどうなんだい?」
「馬鹿を言え、時間をかければぬけ出せる!!」
その言葉を体現するがごとく、聖鎖はギチギチと嫌な音を立てていた。ロメオからしてみればもう少し長く束縛する予定だったが、それは叶いそうにない。
「仕方ないなぁ。切り札使うしかなさそうだな」
「お前は何を言って・・・」
その言葉に反応することなく、ロメオは詠唱を開始する。
「光子、我が意に従いて剣となせ」
「ッ!?お前は!?」
飄々としていた魔人が、驚きに目を見開いた。ロメオが隠し持っていた短杖の先端に集まる光、それが自分を滅ぼし得る力を持っていると察したのだ。
「光子、我が意に従いて敵を討て」
「よせっ、やめ・・・」
「解き放て!!聖光破砕砲!!」
ロメオの詠唱の後、解き放たれたのは光の奔流。
聖光破砕砲。集められた光子が良い闇を塗り替える程の極光と魔を滅する聖なる力をもって敵を貫く。さらに魔人の体を固めていた聖鎖も、その魔法を合図に、秘めた聖なる力を爆裂させ消滅していく。
凄まじいまでの聖なる力が魔人の体を包み込むーーー
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閃光が辺りを支配し、しばしの間沈黙に包まれる。
だが、
「チッ、まだ死なねぇのかよ!?」
長らく続いた沈黙も、ロメオの叫びによって破られる。
「フハハハハ、人間というのも舐めれたもんじゃあないなァ」
魔人は消滅しなかった。体の左半身は消し飛び右半身だけが残って居る。にも拘わらず生きていたのだ。
だがさすがの魔人も戦闘の続行は難しかった。
「しかしここは一旦退かせてもらおう」
「何?」
「俺たち魔人は精神体を破壊しないと死ぬことはない。肉体への依存度が貴様らに比べると低いのだ」
「・・・」
「だがこれほどの傷となると修繕に時間がかかる、故に退くことにした。それにもっといい案が思いついたからなァ」
「なんだと?」
下卑た笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開く。
「三回月が沈んだら」
「あ?」
「三回月が沈んだら、お前の大切なお友達の住む街を血祭りにあげてやろう」
「ッ!!貴様ッ!!」
「弱い人間など価値がないと思っていたが、お前を食らうにはコツコツ積み上げていく方がよさそうだ。楽しみにしておくといい。フフフ、フハハハハ!!」
それだけ言い残して魔人は霞の如く消えていく。
ロメオは怒りを覚えながらもその思考は冷静であった。
忌々しいことに今の自分の実力ではあの魔人を倒せない。だが彼なら、彼ならば出来るかもしれない。最早彼に全てを委ねるしかない。
後ろめたさはある。だがそれでも、
「・・・俺にできることは全てやりつくすまで」
頼るしかなかった。
魔法軍長ロメオ・アズリア、初めての敗北である。だが諦めてはいない。彼の瞳は未来を見据えていた。




