腕試し ヨミの場合
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*あらすじ:建国際でバトルトーナメントが開かれる、かも?
「はぁっ!!」
「遅いっ!!」
かつてはギルレオンの領土にあり、今はセキモ新生国の領土となった不帰の森。その森を切り開いて出来た広場にて二人の戦士が剣を交えていた。
「サノス、テスラ。何時までそうやって闘うつもり?もう日が暮れ始めてるけど?」
「「こいつが負けるまで!!」」
その返事を聞き、薄緑のコートを着た赤髪の女性がため息をつく。彼女の名はヨミ、リュートの侍女にしてセキモの中でも指折りの強者の一柱だ。
そして先程彼女に名を呼ばれた赤髪の男女、サノスとテスラもこの国における強者の一人である。彼ら二人はかれこれ数時間ほど一切の休みを挟む事無く模擬戦を続けていた。
「ねぇそろそろ止めにしません?このままじゃ一生終わりませんよ?」
「うるさいなぁ!!サノスが諦めたら終わる話なの!!」
「黙れ!!お前なんかに負けてたまるかよ!!」
ヨミの提案がかえって火に油を注ぐ結果となってしまったらしい。模擬戦の激しさがますます強くなってしまった。
もうこうなってしまってはどうしようもない、どちらかが折れるまで放置しよう。そう考えてすっぽり諦めてしまったヨミ、近くに置かれていた椅子に腰掛ける。
「全く、すぐに他の事に目が入らなくなる・・・。ま、リュート様のためにはなるだろうから良いんだけどさ」
そう呟くヨミ、実際彼ら二人の動きは訓練で模擬戦を導入した事により、以前とは比べ物にならないほど精錬されつつあった。どうやらお互いがお互いに学ぶ事があったらしく、サノスの剣には予測し難い緩急のある動きが、ヨミの体術には岩を穿ちうる力強さが増したように思われた。
とはいえ傍から見ると子どもの喧嘩にしか見えない。喧しいからもう少し落ち着いた訓練をしてほしいというのがヨミの切なる願いであった。
「良い加減諦めろお前!!」
「ふざけるな!!サノスが先に諦めろよ!!」
「「はぁ?誰が諦めるか!!」」
今までのはおふざけの範疇だったらしい。そのやり取りを皮切りにして更に剣戟の激しさが増す。テスラに関しては木刀の他に殴打や蹴りも使い始めた。
ここまで来るとヨミでは太刀打ち出来ない、彼女も多少なら剣や体術の心意気があるのだがこの域の戦士を相手取るのは不可能だ。勿論敵わないというのは剣術や体術でという前提付きであるのだが。
「はぁ〜、喧しい・・・」
「おぉ、やってんねぇ」
「リ、リュート様!?」
「「え!?リュート様!?」」
まさに神出鬼没、気が付いたらそこにいたのは彼ら三人の主人である魔王リュートだ。ヨミもまさか自分の主人がいきなり現れるとは思っていなかったらしく、声を掛けられ思わず叫んでしまった。そしてその叫び声を聞いたサノスとテスラ、リュートの姿を見るや否や模擬戦を中断し彼の前に跪いた。
「おいおい、そんな仰々しくしなくて良いよ、楽にしてくれ」
「そうは仰いますが・・・。それも中々に難しいのです」
「しかり。我々は貴方様に忠誠を誓った身、普段通りに振る舞うのは大変畏れ多い」
「その通り、貴方様は王であり我々はその臣下。ですから貴方様を敬わぬ行動などありえません」
リュートの言葉にそう返す三人。揃いも揃って凄まじいまでの猫被りっぷりである。先程とはまるで別人のようだ。
「まぁお前らがそう言うならそういう事にしておこう。さて、俺がここに来たのはある用事があるからなんだ」
「用事ですか?」
「おう」
リュートはサノスの問にそう答え、先程参加してきた会議の内容を伝える。そこに彼がここに来た理由があった、訓練場で開催される予定のバトルトーナメントである。
「実はな、もしかしたらギルレオンの訓練場を使ってバトルトーナメントが開かれるかもしれないんだ。んで、仮に開かれたなら多分お前達にも声が掛かると思う。だからここいらで一つ、君達一人一人がどこまで強くなったのか測ってみたいんだよ」
「なるほど、つまりリュート様が我々を直々に手解きして下さるということですね」
「なんか違う気もするけど・・・、まぁ大体そんな感じだ。ちなみに今の所立候補者はいるか?」
リュートが三人にそう問いかける。挙がった手は二つ、サノスとテスラだ。
「機会があれば是非参加してみたいです。私の剣術がどこまで通用するのか試してみたい」
「私もサノスと同意見です」
「なるほど、ヨミは参加しなくて良いのか?」
「構いません、私は彼らのように戦闘が得意なわけではありませんから。しかしリュート様の指導は受けたいと思っています」
リュートの発言にそう返すヨミ。リュートの方もその意見を承諾する。
「なるほどね。じゃ、ちょっとやるか」
「畏まりました」
そう言って立ち上がるヨミ、リュートの方もふさわしい立ち位置に立つ。
「ご指導宜しくお願いします」
「あいよ。けどガチる予定は無いからすぐに終わると思う。お前達二人はそこに座っててくれ」
リュートがサノスとテスラに指示を送る。そして模擬戦が始まった。
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「先手は譲ろう」
「では遠慮なく」
リュートのお言葉に甘えることにしたヨミ。集中し、ある魔法を発動する。
「出でよ、怒れる炎の獣!!地這い焦がす炎精霊!!」
その詠唱の刹那、地面が赤熱したかと思うとそこから一匹の獣が這い出てくる。それは真っ赤なトカゲ、しかしただのトカゲではない。
そのトカゲ、地這い焦がす炎精霊は魔素と無数の精霊の集合体である。全身は超高温の炎で覆われており、その体躯も優に二メートルを超えている。またその持久力も異常であり、薪となる熱が尽きない限りはどんな衝撃を受けようと消滅することは無く、熱を食らうたびにその体躯はより大きくなる。
召喚魔法が一つ、地這い焦がす炎精霊。数ある魔法の中でも指折りの習得難度である召喚魔法の一つをヨミは修めていたのだ。これには流石のリュートも驚きを隠せない。
「お前!?何時の間に召喚魔法なんて覚えてたの!?」
「つい最近習得しました。どんどんと強くなっていく同僚二人に遅れを取る訳には行きませんから」
思わずと言った様子のリュートの言葉にそう返したヨミ。
前準備は完了した。彼女は地這い焦がす炎精霊召喚と同時に現れた赤い杖を握り、その先をリュートの方へ向けた。
「ディエ・フレメ!!」
その詠唱の刹那、地這い焦がす炎精霊の口から放たれる巨大な炎の球。その炎の球は金属すらも容易く溶かす凄まじいまでの熱量を有しており、その速度も中々の物であった。とはいえこの世界でも指折りの強者であるリュートに取っては少しばかり遅すぎた。
「火炎弾!!」
ディエ・フレメを難なく躱し、その反撃として火炎弾を放つリュート。その威力も流石の一言だ、最上位魔法である獄滅炎とまでは行かずとも、上位魔法である業火には達し得るほどの威力を有している。昔なら大失敗に終わっていた魔法だが、彼も今までの経験の中で大きく成長していたのである。
ちなみに彼の魔法が一般的な魔法よりも強力になった要因にあるのは卓逸した魔素量とその操作精度にある。特に成長したのは後者だ、要はロスが少なくなったと言い換えられる。以前は必要以上の魔素の消費、そしてあまりにも悲惨な魔素操作練度の結果、使用した魔素の大半を失っていた訳だが今ではその魔素の損失を一割程度に抑えることが出来ていた。
そしてそれは偏に”赫イ智慧”のサポートのおかげである。熟達した魔法使いでも使った魔素の四割は大気中へ逃してしまうと言われているのだから、この権能のイカれっぷりが分かるだろう。
とはいえヨミの成長速度もリュート程では無いが中々のものであった。
「ディエ・フレメ・ウェーベル!!」
その詠唱の後地這い焦がす炎精霊の口元より放たれる巨大な炎の渦。それはリュートの火炎弾とぶつかり大爆発を引き起こす。
「お前、やるな・・・」
まさかの結末に驚愕するリュート。てっきりヨミは火炎弾を回避するものだと思っていたし、まさか自分の放った魔法が同属性の炎の魔法によって打ち消されるとは思っていなかったのだ。
なお、森の中で爆発なんて起こそうものなら引火して大変な事になると思われるかもしれないが、その辺に関してはご安心、事前にリュートが魔法で手を打っている。
とはいえリュートもまさかこれほどまでにヨミが召喚魔法の使い手として成長しているとは思わなかった。だからこの激しい戦いの中、森を燃やさないための魔法を維持させる自信は綺麗サッパリ消え去ってしまっていた。
「ヨミ、悪いんだが次で最後にしよう。お前は俺が思ってたよりも大分強かった。だからこの森を燃やさずに守り切る自身が無くてだな・・・」
「勿論文句などございません。では最後の一撃、私の持ち得る全力を尽くしましょう」
そう言って再び赤い杖を強く握るヨミ。その体からは凄まじいまでの魔素が溢れ、握られた杖が強い赤い光を放ち始める。
「ディエ・フレメ・ヴァルカン!!」
刹那、赤く燃えるトカゲの体が大地に染み込み消えていく。しかし決して消滅した訳では無い、その証拠に地中深くから凄まじいまでの熱が迫り上がりつつあるのだ。それは先程よりもずっと熱く、巨大だった。
「炎膜」
半端な魔法では受けきれないし、手を抜くのはヨミに対して失礼だ。そう考えたリュートは自分で開発したオリジナルの魔法を発動する。
炎膜、それは自分の体を薄い炎で覆う魔法である。勿論その熱量は計り知れない。ただ一つ言えることがあるのなら、炎膜に触れられたものは皆等しくドロドロに溶かされることだろう。いわば攻撃を兼ねた最強の盾なのだ。
尤も現状において正しい選択かと聞かれるとそうではないと言える。炎に対して炎をぶつけるというのは魔法使いなら失笑物の行為なのだ。ここでの正解は水か氷魔法での迎撃であろう。
しかしそれでも彼がその選択を取ったのはヨミがどれほど成長したのかを自分の体に走る感覚で知りたかったからだ。後ついでに新魔法の検証も兼ねている。
「捕えろ!!」
ヨミのその命令を合図とし、地中から溶岩をまき散らしながら出現する大口を開けた地這い焦がす炎精霊。その体躯は溶岩を食らった結果、先程よりもずっと大きくなりリュートの体を悠々と飲み込んだ。
その様はさしずめ噴火する火山の如し、表皮の炎も更に強くなり、遠くで座っているサノスとテスラの肌に痛みが走るほどの熱量であった。
「爆ぜろ!!」
その命令の刹那、地這い焦がす炎精霊が自らの持つ熱全てを使った大爆発を引き起こす。凄まじい熱と爆音が不帰の森に響き渡った。
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爆炎の煙が晴れた後、焦げた大地の中央に一つの人影があった。
そう、先程トカゲの口に飲み込まれたリュートである。
「ヨミ、お前の火力は素晴らしいものだったぞ。けど今後の課題は持久力みたいだな」
「ははっ、そのようですね」
何事も無かったかのようにそう告げたリュート。実際服は焦げているものの体は無傷である。まぁ当たり前ではあるのだがそう簡単に負けたりしない、炎膜で先程の爆発をほとんど防いでいた。尤も本当の所は少しだけ火傷を負っていたのだが”瞬間再生”でもう治している。
そしてそれとは対象的なのがヨミである。額に汗を浮かべ、もう息絶え絶えと言った様子だ。
この汗の原因は先程の爆発ではなく召喚魔法にあった。この召喚魔法というものは他の魔法に比べ凄まじいまでの体力を消耗するのだ。魔素を使いながら精霊との交信も行わなければならないのだから当然と言えば当然だ。
「じゃ、一旦終わろうか。次はテスラかサノスだけど・・・」
「では私が」
「待て、俺が行く」
「はぁ?サノスはこの前リュート様に模擬戦見てもらったんだろ!!」
「だからなんだ?今は関係ないだろ!!」
またしても喧嘩を始める二人。怒号が森中に響く。
「すいません、リュート様。汗でびしょびしょなので着替えてきても宜しいでしょうか?」
「あぁ、いいよ。ついでにお茶とお菓子を持ってきてくれ、俺とお前の分」
「まぁ!!一緒にですか?!」
「うん、長引きそうだから」
「はい、では着替え次第すぐに!!」
そう言って屋敷の方へ猛ダッシュするヨミ。リュートはそれを見ながら椅子に座る。
この喧嘩は果たして何時終わるのだろうか、そう考えながら頬杖を付き二人の喧嘩を見守るのだった。
モチベーションがあれば月曜までにもう一回投稿します。無ければ月曜日です。




