「敬語は嫌いなの」
「まずはあのお店から行きましょうか」
「う、うん」
未だに私の手を掴んで離さずに歩く樹咲。私は手を引かれていないと置いていかれそうなほど、歩くスピードが速い
「ちょ、ちょっと速いから‼︎もっとゆっくり歩いてよ!」
「あっ!ごめんなさい……」
手は離さないが、歩くスピードが緩やかになった
「……ねえ。一つ聞きたいんだけど」
「なんですか?」
「どうしてあの2人で行動させるの?今までのあなたの言動や行動を見てると、琴乃と太一を2人きりにするのは嫌なはずじゃない?」
私は樹咲が、琴乃同様、独り占めにしたいタイプだと思っている。だからこそ、今回の行動は辻褄が合わない
「由比羽さん。分からない事をなんでも聞けば答えが返ってくるわけじゃないですよ?」
「……えっ?」
「私はその件に関しては黙秘します。由比羽さん自身で考えてみると良いですよ。……多分分からないとは思いますけどね」
1番モヤモヤする回答が返って来た
「そんな事を気にしてないで、今日は目一杯遊びませんか?」
……確かに温泉街なんて滅多に来れる場所ではない。ましてや入り放題、食べ放題。7時間では物足りないかもしれない
「……そうね。なら楽しむために私に対して、タメ口でお願いね」
なぜか私に対してだけ敬語口調な樹咲。太一に対しては通常。琴乃に対しては喧嘩口調。私だけ遠慮されている気がしていた
「……変な事をお望みになるんですね。敬語の方が、自分が立場を上に感じられるから良いでしょうに」
「私は敬語使われるのが大嫌いなの」
「……分かった。じゃあ行こう?由比羽」
「……なんだ。ちゃんと呼べるんだね。……よーし!遊び尽くすよ‼︎」
そして私と樹咲は温泉街を堪能した。連続で温泉に入るのではなく、一度食事を挟んで温泉……卓球、ボウリング、カラオケなどのレジャー施設も豊富だったので、遊びで汗を流してまた温泉……と、遊び尽くしていた
そして現在5時過ぎ……合流前最後の温泉に浸かっていた
「……ここの景色いいね」
「夜だともっと綺麗に見えるらしいよ?」
温泉から見える外の景色が圧巻だった。ここの温泉街は山奥にあり、街の様子などが一望出来た。夜の方が綺麗なのは
そのためだろう
「……疲れたね」
「……本当に」
温泉街に来て疲れるなんてどういう事?と思うかもしれないが、レジャー施設が豊富なお陰で、そっちの方にも身が入ってしまった。明日、腕は確実に筋肉痛だろう。だけど温泉のお陰で、疲労感は取れるはずだ
そしてこの数時間で樹咲とかなり仲良くなれた。この子のやってることは、琴乃の邪魔をしてて、私にとっては良いのか悪いのかよく分からない。でも人としては、私は樹咲は良い子だと思った
「……由比羽、聞いていい?」
「んー?なにー?」
仲良くなったせいか、返答が軽くなる。ただ私のことを知る為の質問だと思っているからだ
でも……
「由比羽は、なんで太一の妻をしているの?」
そんな軽い返事で返していい話題ではなかった
「……好きだからだけど?」
「嘘。とてもじゃないけど、由比羽は太一のこと好きには見えないよ。少なくとも結婚するほどじゃない」
見破られてた……
ただ私は思った。そもそもなぜ隠す必要がある?隠してほしいだなんて2人から頼まれた訳じゃない。私が勝手にそうするべきだと思ってそうしているだけ……
隠さないといけない相手は確かにいる。私達家族全員の親族。祝ってくれた学校の生徒、教師達……それは理解している
でも樹咲に隠す必要はない。私は樹咲に真実を話すことにした
♢ ♢ ♢
「……そういうことね」
私は、自分は琴乃の要望を叶える為に、自らもう1人の妻になったこと。私自身、男が嫌いなことを包み隠さずに話した
「……騙してるつもりじゃなかったけど、そう感じてたならごめん……」
「全然大丈夫だよ!むしろそこまで琴乃ちゃんの為に行動出来ることがすごいって思うし」
私を嫌悪する様子はない。私は一応、太一が結婚することになった原因の一つなので、怒られるかと思っていた
「……てことは、由比羽は太一のこと、好きじゃないってこと?」
「……好き……ではないかも。でも……マシではあるのかな」
私は男に対して拒否反応が起こる。話しかけられると鳥肌が立つし、触られると悪寒が走る。でも、太一に対してはそういった現象が起こらない。慣れたせいもあるかもしれないが、私が男相手に拒否反応が出ないのは、太一と奏斗……あともう1人だけだ
「ならさ……私に提案があるんだけど」
「もう……離婚していいんじゃない?」




