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「ガチガチすぎてビックリだわ」



「好きな人の前で態度を変えたら好きな人の前でこれからずっと本性を隠して生きることになる。そんなことにならないように今から先生の前で性格を変えない練習をしないと!」



という由比羽からのお達しがあった。男嫌いのくせに男に対してのアドバイスをされるのはなんか尺に触るけど……言っていることは正しい



ということで……



「せ、先生!お、おはよ……ご……ございます……」


「ん?ああ。おはよう」



朝一から普通に挨拶を交わしてみたけど……



「普段通り出来たのでは?」


「ガチガチすぎてビックリだわ」



と、後ろでこっそり見ていた由比羽に指摘された



「え?普段通りだったと思うけど……」


「あんなに挙動不審なあんたを私は一度も見たことなかったわ」



私の思考とは裏腹に結果には結びついていなかったようだ



「なんなら次の時、ムービー撮ってあげようか?」


「お願い!」



ムービーを撮ってくれるとのことなので、一つ授業を挟んでの休み時間。美術の先生なので美術室にいることが大半。私は忘れ物を取りに来たという設定で美術室に入った



「せ、せせせ先生!」


「うん?卯月か。何しに来たんだ?今日はお前のクラス、授業ないだろ?」


「わ、忘れちゃった物を奪いに来た‼︎」


「お、おうそうか……好きに奪ってってくれ」



♢ ♢ ♢



「……今の……私?」


「約1分前のあんたよ」



こっそりと教室のドアの窓から撮影してもらった映像を見せてもらった。あまりのテンパり様、そしてテンパったせいで引き起こされた訳の分からない言葉。普段とはかけ離れていたことは明らかだった



「おかしい……普段通りを意識したらなんか……おかしい」


「その言葉にあんたのボキャブラリーの少なさを感じるわ」



由比羽の言う通りだった。私をバカにする為のハッタリだと思ってたけどそうじゃなかった。



「逆にじゃあ次は意識しないで行ってきてよ」


「分かった!でも、もう時間がないから次の休み時間ね」



♢ ♢ ♢



また一つ授業を挟んで美術室にやってきた。また忘れ物をしたという設定を引っ提げて



「今日はよく来るな……」


「なんですか?来ちゃダメなんですか?」


「ダメじゃないが……今度は何用だ?」


「まだ忘れ物をしていたことに気がついただけですよ」


「そ、そうか。お前そんなに忘れ物多いやつだったか?」


「人間、たまには抜けた日もあるものなんです。私はそれがたまたま今日だっただけで」


「は、はぁ……そうか」



♢ ♢ ♢



「……別人やん」


「別人ですな」



意識してない。私はこんな少し冷たく接するようになんて意識してない。私にも原因が分からないが、とりあえず言えることは……ヤバイ



「私いつも先生にあんな感じで接してたんだ……」


「しかも今日は、その前に二回テンパりまくりの卯月を見てからのコレだから、普通にちょっと戸惑ってる感じはするよね」



確かに動画を見返すと、綿田先生も何か喋りずらそうというか、普段通りではないような感じがする



「まあこれで分かったとは思うけど、このままじゃヤバイよ?」


「うん……ヤバイ。ボーリングでミスって隣のレーンに投げ入れちゃって、その隣のレーンの人の成績をガーターにしてしまった時ぐらいヤバイ……」


「その感性はちょっと理解出来ないけど、ヤバイ度がかなり高い事だけは伝わるわね」



私の実体験の中で一番ヤバイ物を引き合いに出した。隣のレーンの人は優しいからか笑ってくれてたけど……



「とりあえず今ので分かったとは思うけど、改善が必要なのは明確でしょ?」


「……うん。あまりに私と違いすぎて私自身が戸惑ってるもん」



もはや二重人格なのかもしれない



「でもまあ、違いが理解出来ただけでも良かったんじゃない?」


「……変わらないと意味ないよ」


「それは卯月次第。好きな人によく見られようとするのは誰でも同じ。男も女も関係なくね」


「それでも私は露骨過ぎない?」


「うん」



否定はしてくれなかった。事実を突きつけられた分、まだマシだけど……



「とりあえずしばらくは意識しながら喋ったら?冷たくするよりはテンパってた方がマシだと思うわよ」


「……マシかな?余計に悪化するような気が……」


「気のせい気のせい。あんたは頭悪いんだからテンパってた方が良いって」


「頭悪いからテンパっても問題ない理由が分からないし、さりげなくディスるのはやめて。その言葉、私からすれば弓矢レベルの攻撃だから」



たまにこうやって毒舌を吐いてくる由比羽。私も一度でいいから琴乃ちゃんみたいに由比羽から崇め奉られてみたい……



「解決方法……あるかなぁ?」



私が真剣な雰囲気で悩んでいると、由比羽は私の肩に手を置いた。まさか……私に救いの手をーー



「ないね。ドンマイ」



差し伸べてはくれなかった。いや、差し伸べたと思って私が手を伸ばしたら、由比羽の方から手を引きやがった



「せめて一緒に考えて……」


「あ、私図書委員で忙しいから!」



と、私を遠ざけるように、由比羽は去っていった……



「当番は週に一回だけって言ってたじゃん……」

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