泉の水はランダムです
なんと扉を開いた先には、獅子の顔があった。
石膏だろうか? 獅子の口からは水が湧き出ており、真下に泉を作っている。
これ、絶対自然に出来た奴じゃないだろ。
思わずツッコミ入れそうになってルーカとイリスに止められた。
どうやらこれはツッコミ入れてはいけない物らしい。
スルーしろというのかい二人とも。こんな不自然な泉に?
「ダイスケ、仕様よ」
「ええ、ここはスルーしなきゃいけないところなのよ」
聞き分けのない哀れな子を見るような瞳でルーカとイリスに見つめられ、僕はうぐっと鼻じろむ。
残念だが仕方無い。突っ込むなというのならあえてその通りにスルーしよう。
泉は自然に獅子の口から流れ出るのだ。これが若返りの水の正体である。
「で? 汲み取り用のコップすらも無いんだけどどうすればいい?」
「こいつに手を当ててみたら? アイテムとして汲めるんじゃない?」
ルーカに言われるまま泉に手を入れる。
―― 普通の水を手に入れた ――
……バグか?
普通の水が手に入りました。
とりあえず気のせいかともう一度手を入れる。
―― 美味しい水を手に入れた ――
あ、これランダムで手に入るシステムだ。
―― 普通の水を手に入れた ――
―― 普通の水を手に入れた ――
―― 普通の水を手に入れた ――
―― 泥水を手に入れた ――
―― 普通の水を手に入れた ――
―― 美味しい水を手に入れた ――
―― 普通の水を手に入れた ――
―― 長命水を手に入れた ――
目的ではない水が手に入った。
そして神様、なぜこんな澄んだ水から泥水が汲めるのか。
これは時間が掛かると気付いた僕は皆に手伝って貰って一気に入手する。
―― 普通の水を手に入れた ――
―― 普通の水を手に入れた ――
―― 普通の水を手に入れた ――
―― 泥水を手に入れた ――
―― 泥水を手に入れた ――
―― 美味しい水を手に入れた ――
―― 泥水を手に入れた ――
―― 甘露水を手に入れた ――
僕らは必死に水をかき集めた。
そして、普通の水29315、美味しい水1320、泥水3204、甘露水26、長命水7が手に入った頃、ようやく若返りの水が4つ手に入った。4つになったのはほぼ同時に引き当てたからだ。全員で一斉にやってたからね、手に入るまで凄い掛かった。
神様よ、このランダム率変えといた方が良くね?
流石にちょっと出なさすぎると思うんだ。
とりあえずその旨をメールしておく。
「あ、何かなこれ?」
シークレットが最後に、と手を泉に入れると、何か変わった水を手に入れたようだ。
えーとなになに、奇跡の水?
死に行く者を強制復活できる水らしい。
「なんかまた曰く付きっぽいアイテムが……」
まぁ、とりあえず回収しとこう。
でもこんな貴重そうな水手に入れるとかシークレットはツイてるなぁ。
さすがシークレット。
あ、こらルーカ対抗しようとするな。もう疲れたからさっさとケンウッドの自宅に戻るよ。
その手に入れた水は自分で持っとけよ。なんかもうアイテムボックス入れるのもメンドイから。
「ちょ、待ってよ、重いんだけど!?」
両手いっぱい水の入った瓶を持ったルーカがよろめきながら飛んでくる。
どうでもいいが泉に手に入れたら瓶の入った水が手に入るっておかしいよね?
あっちへよろめきこっちへよろめき、ルーカが大変そうだからってアニキが仕方なく半分持ってやっていた。
まったくアニキはルーカに甘いなぁ。
えーと手に入れてるのは泥水と普通の水、それから思い出の水。
思い出の水ってなんだよ。とりあえずそれだけアイテムボックス入れとくわ。
気になった水だけを回収し、後はルーカの自己責任に任せる。
帰りの道だからか敵が一人も出て来なかったのはよかった。
警戒しながら帰る必要ないからね。こういう時はソシャゲって楽でいいよね。普通のRPGゲームだったら帰り際も敵がわんさかでてくるはずだし。
BBA蝙蝠の相手とか二度としたくないしね。
洞窟を出て山を下る。
目的の物は余分に3つ手に入ったし、オリジナルのケンウッドに使った後はこっちのケンウッドに使ってみようか。
残った二つは、まぁ適当な時に使う時があるかもだし、そん時で。
意気揚々ケンウッドの自宅に辿りついた僕らは扉を開き……日本家屋へとやってきた。
……はい? え? ここってメンテナンス時に来る日本家屋じゃね?
え? どういうこと?
「あらら、緊急メンテっぽいね」
「おい、嘘だろ。じいちゃんが若返るのもうすぐだってのに……」
「なんか致命的なミス見付かったんじゃないかしら」
可能性はあるな。一体どんなバグがあったのやら。
まぁ、仕方ないからしばらくここに居るか。




