12、勇者たちの作戦会議
王城の中にある大きな広場に、ドワーフたちは集められていた。
全部で五百人ほどだそうだ。
地面には布が敷かれ、炊き出しによって暖かい食事は出されている。
その上、寒くないよう毛布は配られ、至るところでかがり火が焚かれていた。さらに子供たちにはお菓子が渡されていた。
ただし酒は許していない。気が大きくなられても面倒だ。
現在は家族単位で、取り調べを受けている。中が見えない小型の天幕で、EAと兵士に囲まれている。
天幕の数は二つ。なるべく住居の近い二つの家族を同時に取り調べていた。
その一つを覗き込む。
「隣の家族に不審な点などないか? もしキミたちだけが教えてくれれば、キミたちが罪を犯していたとしても減罪されるし、家族は丁重に扱われる。帝国として約束しよう」
優しげに語りかける眼鏡の男に、ドワーフの一家が怯えながら頷いていた。
二つの簡易取調室で、尋問官が同じ質問をするようにしているはずだ。
「なお両方が自白すれば、上から二つ目の罪となる。自白せずに他の者より告発され罪が確かだった場合、一番上の罰が与えられる。すなわち家族全員が死刑だ」
「な、何も罪を犯していなければどうなりますか?」
酒樽のような体型の母親が、恐る恐る尋ねる。父親との違いが髭でしか判別できないな……。
「ふむ、何も罪を犯していなければ、何も起きない。これは帝国の法だ」
尋問官がわざとらしく優しい笑みを浮かべていた。
オレはそれを後ろから眺めている。
「わ、私たちは何もしてません……」
「なお、君たちドワーフの中に、敵国へ協力している人間がいることはすでに判明している。それが誰かわかるまで家には帰せない」
「え、そんな……仕事が……」
「それは私たちの知ることではないな」
実際のところは、帝国の工場で働いているなら賃金は保証される。しかし尋問官はそれを言う気はないようだ。
「さあ、知っていることがあれば、話したまえ。誰かが罪を犯していることはわかっているのだ」
結束の強い者たちに裏切りを唆すような尋問。こんなやり取りが、すでに数十回繰り返されていた。
「ふーん。やはりユル氏族の生き残りがいることは、ボラーシェクのドワーフたちには公然の秘密だったのか」
アネシュカ・アダミーク閣下が、足を組んだまま、退屈そうに報告書を読んでいた。
「冒険者たちにも信じられていなかったそうで。ドワーフの誇大妄想だと思っていたようです」
入り口に立つ士官が説明してくれる。
「どこから入るかは知られているのか?」
「いえ、詳しく聞いてみましたが、最初から知らないようです」
「わかった、引き続き尋問を続けろ。怪しいのは見つかったか?」
「二名ほど。口は固そうです」
「割らなければ家族に手を出しても良い。オレが許可する。子供の泣き声でも聞かせてやれ」
「はっ!」
報告者が天幕を出ていく。
書類をオレに渡しながら、母さんも暖かい飲み物を口に含んだ。
「進捗は想定通りか。ドワーフの氏族は頑固で結束力が高いという。長期戦覚悟か?」
「いいえ、すぐにわかりますよ」
「何をだ?」
「自分たちがいかに愚かかということが、ですよ」
訝しげな母の視線に、反応せず茶を堪能する。
「失礼いたします! 閣下!」
天幕の入り口が開けられ、先ほどとは違う士官が入室してきた。階級章のないところから、諜報部の人間のようだ。
「どうした?」
「エルフが動きました。遺跡近くの森へ向かっているようです!」
母さんが不思議そうに首を傾げる。年甲斐もねえ。
しかしオレは立ち上がる。
「来たか。行きます」
「シュタク少佐、これが言っていた後のお楽しみか?」
意地悪そうに笑いかけるアネシュカ・アダミークに、オレは同意の微笑みを返す。
「これが本命ですよ。ドワーフの次は自分たちだと思ってるんです、奴らは」
諜報部が追ったエルフたちの行き先へと向かう。
案の定、地下のユミル神殿の入り口があった森の中だ。追っていけば、自然とわかるだろう。
諜報部が案内する先には、巨木のうろがあり、そこに入っていったそうだ。人間が屈めば何とか入れるほどで、確かにこれが何かの入り口であるとは思えないだろう。
「間抜けは見つかったようだな」
「捕まえたエルフから聞き出した内容では、残りはここだけだそうです」
「ちなみにそのエルフは、どこで働いていた? 冒険者か?」
「帝国から斡旋された国営の紡績工場です」
「なるほど。面倒だな。もう全員殺すか」
呆れたように呟く言葉に、諜報部の人間が乾いた笑いを浮かべていた。冗談とでも思っているんだろうか。
「まだ何人か捕まえてるんだろう?」
「はい。ドワーフもすでに何人かが告発され、ヤン・ヴァルツァーの依頼を受けEAを密造していたことが確認されています」
「設計図をどうやって手に入れたかは吐いたか?」
「いえ、ヤンが持ってきたと全員言っています。おそらく真実でしょう」
「わかった」
「この入り口も潰しますか?」
「いや。潰したって奴らの力なら自力で這い出て来られるだろうな」
「ではどうされますか? 追いかけますか?」
「もう暗いところはこりごりだ。軍人がこれ以上、遺跡探索をするのもバカらしい」
「それでは?」
「看板でも立てておこうか」
「は?」
オレの言葉に、聞いた男が目を丸くする。
「道案内の看板だよ。演劇などで、会場はこちらという看板を見たことがあるだろう?」
「は、はぁ……」
「奴らが出てくればそれで構わんし、来なくても全員牢屋行きだ。オレたちが有利な場所に誘い出せばいいだけだ。戻ろうか」
踵を返し森の中、来た道を戻る。
「どういう招待状が良いか、みんなで考えないとな」
やれやれ。
後は会場で最高の劇を見せるだけだな。
■■■
「……帝国め!」
ユミル神殿最奥部のさらに下。そこにある広間で、『魔弓の射手』ヤンが、苛立たしげに机を叩いた。
「協力者のドワーフが割り出されるのも、時間の問題かと……」
エルフの男が申し訳なさそうに情報を告げる。
十人ほどが入っても余裕のある石造りの部屋に、リリアナ、セラフィーナ、ヤンという称号持ち三人がいる。
他にも三人ほどエルフが疲労に満ちた表情で立っていて、粗末なベッドには身長一ユルほどの少女が座っていた。
「搦め手は得意技ってことね。EAの武力だけかと思って甘くみたようね」
賢者が開き直ったように肩を竦める。
「ここに辿り着けなかった奴らはとっ捕まって拷問されてるに決まってる!」
「そうね……。ここで戦力を整え、相手の油断か隙を待つはずだったのに」
「こうなりゃ一斉蜂起だ。生き残ったエルフたちに、オレが用意したEAだってある!」
ヤンがベッドに腰掛けた少女の肩に手を置いた。
子供にしか見えないアーシャだが、彼女は原初のドワーフ『ユル氏族』の最後の一人であり、これでも成人している。
「レクターも修理は終わった。だけど偽ボウレの方は称号持ちにはオススメしない」
自信ありげな顔で頷く彼女の顔は、少し疲労している。
「どうして? 使えば強くなるんじゃないの?」
「ボウレの魔法刻印構造と触媒では、大きい魔力に耐えられない。あなたたちには、ただの重し。レクターとは違う」
「わかったわ。でも、そうならどうするか……」
ヤンが立ち上がり、リリアナに近づく。
「EAがあるならいける。そうだよな、リリ?」
アーシャの横に座っていた勇者は、首を横に振る。
「……わからない。セラさんが迷ってる理由を知りたい」
リリアナの言葉を聞いて、部屋にいた全員がセラの顔を見つめた。
「私はヴィート・シュタクに連敗しているのよ? 今更、簡単に勝てるなんて言えないわ」
「臆したのかよ、セラ。称号持ちってのは、どんな不利な状況でも覆し、数々の伝説を作ってきた。オレは独自に帝国と戦う準備を一人でやってきた。従ってくれたエルフも手伝ってくれたドワーフも見捨てられねえ!」
「私だって見捨てる気はないわよ……でも」
「何だよ? 相手は死をも怖れぬ無敵の軍隊ってわけじゃねえ。ちょっとばかし高性能な鎧に身を包んだ、一般人だぜ!」
小馬鹿にするような口調のヤンに対し、セラフィーナが小さく首を横に振った。
「だから怖いのよ」
「はぁ?」
「彼らは死を怖れる。自らが死なないために策を弄する。いっそ武力だけで攻めてくる敵なら良かった。それなら私は勝てると自負できる。でも、彼らは人質を取り、罠を仕掛け、奇襲をする。決してEAだけに頼らない」
「はっ、ゴブリンみてえだな」
「歴史上の称号持ちの末路で、最も多いものは何か知ってる?」
「あ? 普通に戦死だろ、戦ってるんだ。当たり前だ」
「そう、戦死よ。最も多いのは、寡兵に大軍が群がり殺される。かつては魔龍を倒した勇者でさえ、最後は民衆に殺された」
「……今度はオレらの番って言いたいのか。バカバカしい」
「そうならないように、私たちも考えて行動したいけれど……。EAというのは、上級の魔法剣士の量産。これは散々言われてきたこと。群がってくるのはゴブリンじゃない」
小さく細いドワーフのアーシャを横目でチラリと見る。
向けられたアーシャは、その視線の意味に気づいたのか、
「これ以上、ドワーフを殺されるわけにはいかない。賢者、それに勇者。手伝って」
と真摯な眼差しで願った。
こうなれば、賢者も戦わないわけにはいかない。アーシャはレナーテとユル氏族が結んだ盟約で協力しているのだ。
困ったようにセラがリリアナに視線を送る。
彼女は少し考えてから、
「とりあえず様子を探って、どうやったら損害が少なく済むか、考えよう?」
と提案した。
リリアナの言い分にセラは諦めたようにため息を吐く。
「そうね……こちらの戦力は、リリアナ、私、ヤンとEA、アーシャのゴーレム、それと……いえ、これは駄目ね」
「えっと? レナーテ様の魔力体? あれは……」
「大丈夫よ。可能だとしても使わないつもりよ。いくらレナーテ様といえど、何の代償もなしにあれを送り込めるわけじゃないと思うわ……」
「うん……それに背中の内側にある魔法刻印は、装甲どころか刻印の内容まで劣化してるし、他と違ってアーシャちゃんも直せなかった」
「どちらにしても、戦場でレクターが……リリアナが動けなくなるのが一番怖いわ。相手にはヴィート・シュタクがいるのだから」
すでにレナーテの魔力体は、ヴィート・シュタク率いる帝国軍に敗れている。
しかも今回の敵は、前回のような治安維持の左軍主体ではなく、強力な兵装を揃えた右軍なのだ。
「わかったよ、セラさん。でも、それだと他に手があるの? 何か言いかけてたみたいだけど……」
おずおずと尋ねてくる勇者に、セラは安心させるように微笑む。
「大丈夫よ、手段は選んでいられない、と思っただけ。できれば使いたくないけど」
「あ、あの、セラさん、使いたくない手なら、別に」
そこまで言いかけたリリアナの髪を、セラが優しく撫でる。
「いつもいつも、あなただけに頑張らせるわけにもいかないわ。いいのよ。今回は私が召喚を使いましょう」
「セラさん……」
「人によっては軽蔑するかもしれない。だけど、これなら帝国を退かせることができるかもしれない」
その決意したような顔に、リリアナが不安げにまつげを揺らした。
「賢者様! 勇者様!」
一人の女エルフが慌てた様子で走り込んでくる。
「どうしたの!?」
「そ、外の様子を窺おうとしたら、も、森の隠し出口に看板が立っていて!」
「看板?」
「そ、そこには、ドワーフは全部殺していくから、ゆっくり寝てろ、と!」
その報告に、座っていた人間たちも腰を浮かす。
原初のドワーフの生き残りが、青ざめた表情に変わった。
ヤン・ヴァルツァーが壁を叩いた。
「ヴィート・シュタクめ! 人でなしが!」
すでに相手の手の平の上だ。そう気づいて、セラフィーナは頭を横に振る。
「セラさん、ヤンさん、アーシャちゃん、行こう!」
リリアナが拳を握った。
「私が単機で突撃して、混乱させる。アーシャちゃんにレクターも直して貰ったし、大丈夫!」
「それだとリリアナが危険すぎるわ!」
まるで自分に言い聞かす雰囲気に、セラフィーナは嫌な予感を覚えた。
小さなドワーフ、アーシャが立ち上がる。
「ゴーレムを引き連れていくから、混乱させることはできる。リリアナにだけ無理させるわけにはいかない」
「危険はないんだろうな?」
ヤンの心配に、アーシャは小さな胸を叩いた。
「少しは近づくけど大丈夫。敵が沢山なら、こっちも沢山用意するだけ」
「具体的には?」
セラが眉をひそめて尋ねる。
「このユミル神殿地下にあるゴーレムを、私は操ることができる。そういう風にご先祖に作られたゴーレムだから。それを使う」
「数はあるのね」
「あと三十体ある」
アーシャの回答に、賢者は顎に手を当て、深く考え込む。
その思考を遮るように、ヤンが手を叩いた。
「オレに良いアイディアがある。ヴィート・シュタクを仕留める自信がある」
「ああ、そう」
「何だよ、信用ねえな」
「まあ、聞きましょうか?」
冷たい表情の賢者を気にすることなく、ヤンは自信ありげに口角を釣り上げた。
「簡単さ。相手は自信家だ。だから罠にかかった振りをして、罠にかけるのさ」
それは貴方にも言えることじゃないかしら、という言葉を飲み込み、セラは小さく頷いて返答するに留めるのだった。
続、悪の帝国
いつも読んでいただき、ありがとうございます
実は作品投稿開始前と二章をガラッと変えたので、十万字近く書き直してます。
誤字脱字には気をつけてますが……




