第十四節 家族
○○高校の事件から一週間が経とうとしていた。
ここは爆破自宅――。
爆破の母がリビングで新聞を広げ、読んでいた。『超能力少女、ゾムビーを一蹴』新聞の一面に大きな文字で爆破の活躍が書かれてあった。丁度、爆破が二階から降りてくるところだった。
「スマシぃ。お願いだから無理だけはしないでね」
「どうしたのだ? 母さん」
「だって、家族だから……」
“家族”
その言葉で爆破の脳裏を一つの考えが過ぎった。
(好実にも……家族が……母親が居た……)
急いで二階へ上がっていく爆破。
「ちょっとぉ、どうしたの?」
「母さん、ちょっと出掛けて来る」
「話、聞いていたの!?」
「聞いていたさ。母さんを悲しませるマネはしない」
「!」
「だって、家族だから」
「……もう」
「じゃあ、母さん。行ってくる!」
「好きにしなさい」
爆破は小走りで走っていった。杉田の家へと――。
数十分後、杉田の家に着いた。始めのうちは下を向いて、下唇を噛み締めていた爆破。遂には決心がついたのか、インターフォンを押す。
「ピンポーン」
「はーい」
奥から声が聞こえてきた。恐らく杉田の母親だろう。玄関のドアが開く。出てきたのは杉田の母親だった。
「あら、スマシちゃんじゃない」
「お母さん、お久しぶりです。少し、よろしいでしょうか?」
「いいわよ。上がって」
「失礼します」
爆破は杉田の家に上がった。
――、
「まあ……好実はスマシちゃんをかばって……」
「はい、全て私の不注意が原因です。申し訳ありませんでした」
スッと頭を下げる爆破。それを見つめる杉田の母親。数秒後、口を開いた。
「いいわ。頭を上げてちょうだい」
「!」
「いつかこういう日が来るって覚悟していました」
「お……お母さん?」
「お節介焼きでね、色んな人に声や手を掛けたりしてたのよ。あの子」
「! ……」
「あれでいて正義感が強い方だったのよ。特に最近は、沢山の人を助けるぞって、張り切ってたわ」
「そうなんですか……(それで、ゾムビー狩りを……)」
「……。小学校くらいの時だったかしら。喧嘩をして帰ってきてね。相手に手を出してしまったって酷く後悔していたわ」
「……それで?」
「それでね、こう言い聞かせたの。『人は失敗や過ちを犯す生き物なんだよ。しかも、何度でも、何回も。しかしその度に反省してまた前を向いて生きていけるの。だからこそ人間は正しくて清い、それだからこそ人生はおもしろい』ってね」
「! あの時の……言葉……!」
爆破は杉田がゾムビー化する、丁度その直前の事を思い出していた。
「あら、あの子から聞いていたの? まだ覚えていてくれたなんて……ホントに素直でいい子だったなぁ……」
杉田の母親は薄っすら、目に涙を浮かべていた。下を向き、杉田の母親に顔を合わせられないでいる爆破。と、突然何か思い立ったように顔を上げて、言う。
「お母さん! 私は、息子さんの遺志を継いで、なるべく多くのゾムビーを倒していきます! この力(超能力)を……神様からもらったこの力を、人助けの為に使っていきます!!」
「あら、まあ……」
杉田の母親は少しだけ笑顔になったように見えた。
――、
杉田の家を後にする爆破。左手をそっと見つめる。ボッと左手の近くの空間が音を立てて爆発した。その左手を握りしめ、上を向いた。
(好実……私は、やるぞ……!)
その日から、爆破の生活は少しだけ変化していった。
授業時間内は授業に集中し、学校で常に首席の成績を収めた。放課後は部活動に所属せず、自転車で周辺を散策。ゾムビーを見つけ次第、戦闘を行い、撃破した。時たま、例のスーツ姿の男からの連絡が届く日もあった。そういった時には、授業中だろうと仮病を使い、学校から抜け出し、ゾムビーを撃破しに向かった。気付けば一年と数カ月が経ち、時は2015年、爆破は中学を卒業する頃となっていた。
ある日、スーツ姿の男からの連絡があり、ゾムビーの処理に向かう途中、男はこれからの進路について話してきた。
「爆破スマシさん、君は未だ年齢も学歴も伴っていない。これから、陸上自衛隊高等工科学校に進学、次いで防衛大に進学し、首席で卒業するんだ。その頃はゾムビー撲滅協会が、なんらかのゾムビー対策組織を設立しているだろう」
「そこに配属しろ、と?」
「そうだ。それまでに目覚ましい功績を上げているのならば、一つの隊を任されるようになっているかも知れんな」
「フン……」
爆破は陸上自衛隊高等工科学校に進学した。
そこでトップクラスの成績を上げつつ、ゾムビー駆除の活動にも邁進していった。単体で倒したゾムビーの数は、40体を超える様になっていた。
「倒したゾムビーは何体になった?」
ある日、スーツ姿の男が電話で話し掛けてきた。
「40……は超えた、な」
「それは凄い。理事会は30体を超えると力があると認め、ゾムビー対策組織に入れてくれるそうだ」
「そうか……」
どこかの建物の屋上で、夕日を眺めながら爆破は答えるのだった。
――、
陸上自衛隊高等工科学校としては数少ない休みの日、爆破はとある墓地に来ていた。とくとくと墓石に水をやる爆破。
「なあ好実、お前が死んでから3年が経つ。いつの間にか私は、お前と同じ年になっていたぞ」
墓石は杉田のものだった。17歳で、杉田の時は永遠と止まったままだった。そこから三年が経ち、爆破は杉田に、年齢が追い付いていたのだ。
「好実……」
爆破は墓石に手をやる。
「私はこれからも生き続ける。生きて、ゾムビー達と戦い、お前の様な犠牲者を一人でも出さないよう、尽力していくぞ」
爆破は亡き杉田に誓った。
その一年後――、
「受験番号は、××××」
爆破は、防衛大キャンパス内で、掲示されている合格者受験番号をちらりと見る。
「あ……あった」
爆破は防衛大入学試験に合格した。
(学力テストも、体力テストもさほど困難では無かったしな)
中学の頃から真面目にやって来た勉強と、高等工科学校時代から鍛えた体力の前では、防衛大の大学入試も、さほど難しくは無かったようだ。それから防衛大に入学した爆破は、そこのカリキュラムに則った講義、訓練等を行い、技能、体力を高めていった。
爆破が二十歳を超えた、ある春の事――、
高校二年生、身体スグルが河川敷をランニングしていた。ふと、何かの気配に気付く。川の方を見るとそこには紫色をした、得体の知れない生物がたたずんでいた。
「! 何だコイツは!?」
その生物はじりじりとこちらへ近寄ってくる。
「ゾム……ゾム……」
「くっ来るなぁ!!」怯える身体。
「……バースト」
「ボボン!」
得体の知れない生物は爆発するかのように弾け飛んだ。声のした方へと身体が顔を向ける。
「危なかったな、青年。もう大丈夫だ」
そこにはたまたま散歩をしていた、爆破がいた。
「あ、貴女は?」
「ん? 私は爆破スマシ。ストレス解消と趣味で、さっきのような生物を駆除している者だ!」




