第十三節 約束
(回想)
「もし、俺がゾムビー化したら」
「!」
「容赦なく殺してくれ」
「馬鹿者!! 何故そんな事を……」
爆破は怒鳴った。目にじんわりと涙を浮かべながら――。
「好きだから――、スマシちゃんに生きて欲しいからに決まってるだろ?」
「! ――」
(回想終了)
その、“もしも”の状況が、今まさに起きてしまった。爆破は悲しみ、悔いた。今ある状況を――。
「何で……どうして……?」
「ゾゾォ……」
感傷に浸る間も与えず、杉田をゾムビー化させたゾムビーが、爆破を襲ってきた。目をキッとさせる爆破。
「ボッガァアア!!」
爆破は廊下ごとゾムビーを爆破させた。
「キサマさえ居なければ……! クソッ!!」
不意に、ゾムビー化した杉田を見つめる爆破。
「好実……」
(回想)
「な……なら、私がゾムビー化しても、殺してくれ」
「無理だ」
きっぱりと断る杉田。
「な……何故だ! 道理に適ってないであろう!? 不平等だ!!」
「ハハッ、俺はバーストなんて、超能力なんて使えないんだぜ? しかも銃器を扱う軍人でもない。だから俺にゾムビーを殺す力は無い」
「成程、心情的に無理なのではなく、能力的に無理なのだな?」
「んー、その条件ならどっちも無理かな?」
「何故だ!? 能力的に殺せないなら百歩譲ってアリだが、心情的に無理というのは道理が通らんぞ!」
「好きだから――じゃあダメかな」
「! ――」
再び顔が赤くなる爆破。
「ひ……卑怯者!!」
「ハハッ、卑怯で結構。じゃあこうしよう。俺がゾムビー化したら、スマシちゃんが俺を殺す。スマシちゃんがゾムビー化したら、俺もゾムビーになろう」
「……参った。分かったよ。お前を苦しめない為に、その条件を呑もう」
(回想終了)
「それでも! こんな事って……!」
杉田だったモノに手を指し伸ばす爆破。
(回想)
「そうか、前に好きだった相手には、先立たれてしまったのだったな」
爆破の頭をくしゃっと撫でながら杉田は言う。
「そーゆーコト!」
「わ……私は! その娘の様にはいかんぞ!」
「?」
「お前よりも、長生きしてやる! それで、お前を苦しる様な事はせん!!」
「ハハ、サンキュー」
杉田は笑った。満面の笑みで。
(回想終了)
「好実ぃ……」
「ゾ……」
杉田だったモノは口を開いた。
「ゾ……して……こ……」
「!」
「……殺して……くれ……」
「! 好実、意識が……!」
「……殺してくれ……もう、持たない……ゾム……ゾゾォ!!」
杉田だったモノは爆破を襲ってきた。
(回想)
「お前よりも、長生きしてやる! それで、お前を苦しる様な事はせん!!」
(回想終了)
(それが……お前の望みなんだな……)
「ゾゾォ!!」
「バースト……」
「ボッ!!」
杉田の命は、完全に断たれた。
数十分後――、
「タタタタタタタ!!」
『こちら第三棟、奴らの数が多い、至急応援を頼む。どうぞ』
『了解、今から向かう』
銃器で隊の一人がゾムビーと戦っていた。
すると――、
「ボッガァアア!!」
隊員の向こう側で、ゾムビーが教室丸々一つごと吹き飛んだ。
「な……? 何だ……?」
メラメラと第三棟の一部が燃える。そこには、左手を掲げた少女が居り、炎の所為か赤い涙を流しているように見えた。
「全員殺してやる……!」
赤い涙を流しているのは、爆破スマシだった。
「あの……少女がやった……のか?」
第三棟、三階――、
「ボッガァアア!!」
「ボッ!!」
「ボッガァアア!!」
爆破はゾムビーを見つけ次第、次々に施設ごと破壊していった。
「手榴弾でも使っている奴がいるのか……?」
隊員はバーストで爆破される施設を目の当たりにし、トランシーバーを取り出して言う。
『こちら第三棟。誰か手榴弾を使っているのか? 施設の破壊は許可が出ていないぞ。どうぞ』
『こちら第三棟存じ上げません。どうぞ』
『こちらも使用していません。どうぞ』
(……どこのどいつだ? 米陸軍……では無い……な)
『ジージー』
トランシーバーが反応する。
『こちら、第三棟一階、先程、とある少女が左手をかざしながら、おかしな力で空間を爆破させているのを見かけました。どうぞ』
『何!? それは本当か?』
爆発のあった方向に目をやる隊員。しかしそこに爆破の姿は無かった。
十数分後――、
「これで、終わり――、か」
隊の全員が第三棟近くの校庭に集まっていた。
「それにしても、あの少女は何だったのか……?」
「こちらとしては、嬉しい誤算となってくれたよ。施設を破壊する以外は――な」
「ハハ、それはそうだな」
その後、ゾムビーは一体たりとも発見されず、○○高校のゾムビー事件は終息を迎える。
――、
爆破は、いつも歩いていた通学路を通り、家路を辿っていた。
「……」
(回想)
「やあ。こんなところを一人で歩いていたら、危ないオジさんに連れてかれるぜ?」
一人の少年が話し掛けてきた。
「誰だ? キサマは」
「俺か? 俺は杉田好実すぎたこのみ。中学2年の青春真っただ中の少年だ!」
(回想終了)
「……もの」
(回想)
「今日は込み入って話が合ってな」
「何だ?」
ふーと一呼吸入れて杉田は口を開く。
「付き合ってくれ」
(回想終了)
「……かもの……」
(回想)
「キレイだ、スマシちゃん」
「スマシちゃんじゃない。スマシだ」
杉田は首を縦に振り、言い直した。
「綺麗だ、スマシ」
二人の体は重なった。
「良かった……か?」
「ああ……良かった。スマシ……は?」
「痛かった……こういう事って、痛いんだなぁ」
「そりゃあ、初めてだったからじゃないかな?」
「そうか、初めてって、痛いんだなぁ」
(回想終了)
「……馬鹿者……!」
(回想)
「そうか、前に好きだった相手には、先立たれてしまったのだったな」
爆破の頭をくしゃっと撫でながら杉田は言う。
「そーゆーコト!」
「わ……私は! その娘の様にはいかんぞ!」
「?」
「お前よりも、長生きしてやる! それで、お前を苦しる様な事はせん!!」
「ハハ、サンキュー」
杉田は笑った。満面の笑みで。
(回想終了)
「馬鹿者……! 本当に死ぬ奴があるか……! 私には……!」
爆破は足を止め、空を見上げる。
「お前しかいないんだ……好実ぃ……」
目に浮かんだ涙は頬を伝い流れ落ちていた。
「ブー、ブー、ブー」
ふと、携帯が鳴った。
「!」
例のスーツ姿の男からだった。電話に出てみる。泣き声になりそうだったが、必死に堪え、耐え、気丈に振舞った。
「もしもし、私だ。……爆破だ」
「もしもし。高校の件、良くやってくれた。感謝するぞ」
「! ――」
(人の気も知らないで……)
その言葉は、声にしなかった。
「これからも、ゾムビーが発生したら、その都度現場に向かって欲しい。主に、この県の事件のみで良い。解決へ協力して欲しい」
「……」
爆破は暫く口を閉じていた。数秒後、遂には口を開く。
「それで、奴らを根絶やしにできるのか……?」
「それは理想論だ」
「なら」
「!」
「少しでも多くのゾムビーを殺してやる!」




