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序文

序文


 私がこの本を執筆しようと考えたのには、三つの大きな理由がある。

 まず第一の理由として挙げるのは、現代社会において魔法というものの有用性・意味・影響が様々な場面で疑問視され王国としての魔法研究に対する懐疑的な意見が市井に見受けられるが、その議論が魔法というもののあり方に立脚して語られているとは言い難いということに問題意識を感じていたということである。感覚的な意見に基づいた議論ほど不毛なものはない。私はその議論に対する一つの情報源としてこの本を差し出したい。

 二つ目に、五百年を生きている古い魔術師である私だからこそ持ちうる視点を提供したいと思っている。古い魔術師は、昔ながらの慣習に則って公の場からは隠れて生きるため、社会に還元できるはずの多くの知識が彼らの死とともに闇へと消えてしまう。私自身も、百年前まではシレー山脈の奥のエルフの村のそばに篭っていたからこそ、この本を一つの契機として他の古い魔術師達にも山から降りて来てもらえることを願う。古い魔術師の深遠なる瞳は、諸問題が山積みとなっている現代社会だからこそ必要だと、私は考えるのだ。

 最後の理由として、これはひどく個人的なことでもあり恐縮なのだが、私の孫娘のミシェルのことがある。まだ五歳になったばかりのミシェルは、私の才能を少なからず受け継いでいるようでアカデミーでは飛び級で五年生になっている。本当に目に入れても痛くないほど可愛いく、そして賢いのだ。彼女が私のシラクスの家に遊びに来てくれてると、私は決まってロッキングチェアに座りながら昔話をするのだが、ある時ミシェルが私にこう言ったのだ。

「おじいちゃん! おじいちゃんのお話をみんなにも聞かせてあげてよ」

この言葉をその時の私は笑って受け止めたが、その後出版社のジェレット君に本の出版を提案された時、彼女のこの言葉を思い出さなければこの本は書かれなかったかもしれない。読者諸君は、愛すべきミシェルに感謝せねばならないだろう。

 さて、序文はこの程度でいいだろう。年をとると疲れやすくなっていけない。ところで賢い読者は気づかれたかもしれないが、この本は口語体を用いて書かれているとともに、今現在の人間を読者として想定している。これは、今までの多くの書物とは大きく違うことである。これは魔法連盟の最先端の成果である『印刷技術』と『口述筆記具』の発展に伴う変化である。このように魔法というものが全ての人間にとって身近なものであり、日常の当たり前の中には常に魔法が潜んでいることを再度認識し多くの人が考えるきっかけとなることを願って、序文に代えさせていただく。



 慣れない口述筆記具での執筆に最後まで付き合ってくれたジェレット君、ゴレニオ学術文庫の創刊に当たって私を一番目の書き手として選んでくださったゴレニオ氏、執筆中に支えてくれた家族、私の周りの全ての人々、そして愛すべきミシェルに感謝を込めて。





   (1227年 大魔術師バルバート・ボイトラー記す)

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