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モンスターといこう  作者: hachikun
サトルとテイマーとウサギの章
12/106

危機そして交差(4)

 村から外に出た時、その気配を感じた。

 だけど前回のようなわけにはいかない、とすぐに悟った。数が多かったからだ。

 本来、それはプレイヤーを意味する反応。

 だけど、俺とフラッシュを確実に包囲するように展開してくるそれは、隠しようのない悪意を感じるものだった。

 逃げる事はできる。だけど、今すぐ逃げて意味があるとも思えない。

 集団化した人間が悪意をもった場合、どんな事でもする。最悪、犯罪行為をでっちあげてGMってやつに苦情をあげたり、ネットで個人を特定しようとしたり、ろくな事をはじめないだろうとも思った。

 俺はこの手のゲームに詳しくはない。だけど、集団がソーシャルな手段に訴えたら何が起きるかも一応は知っていた。

 直接戦う意味はない。

 だけどこっちは相手を知らない。とりあえず、記録準備をするか。

 試しに一度ショットをとる。少し手間が必要かなと思ったが、どうやらショートカットが可能らしい。二度ほど練習して、ササッと簡単にとれる事も確認した。

「フラッシュ。おまえ逃げとけ……フラッシュ?」

「……」

 フラッシュは俺を見ている。その目は確かに『拒否』を示している。

「フラッシュ、あいつらは俺を攻撃できないがおまえを殺せるんだ。頼むから安全圏に逃げて……え?」

 何か今、どこかで気配が動いた。なんだろう?

 だけど確認する前に、俺は何人かのプレイヤーに囲まれていた。

 ぶっちゃけた話、俺はフィールドでプレイヤーに遭遇した事がほぼない。この世界の住人ならいくらでもあるけど。

 まして、きちんと戦闘準備をしたパーティ単位でのプレイヤーなんて、見るのは初めてだった。

「よくわからないが、何か用かな?」

「ははは、そうビビるなよ。俺たちは『OHANASHI』しにきただけさ!」

「ねー」

「うんうん」

「あははは」

 いや、別にビビってはいないが。あと「おはなし」が変な発音なのは何か意味があるのか?

 とりあえず、こっちはやる事がある。

 え、何かって?

 俺はネトゲってやつは正直詳しくない。だから警告をもらった時点で運営の方に「嫌がらせ」について相談したんだ。そしたら、記録の取り方を教えてもらえたんだよね。だからそれを全部やる。

 彼らをガン無視してスクリーンショットを撮っていく。アバターとスクリーンネーム、状況くらいはこれでわかるだろう。いやがらせ対策のレコーダーツールはさっきオンにしてそれっきり。テキストログも落ちている。

「は?何勝手に撮ってんの、おめ?」

「おいおいおい、新人君はマナーなんて知らないってか?」

「ああ、教えてあげないとダメですねえ。でもツンダークってプレイヤー同士の対人戦は原則禁止なんですよね」

 うんそうだね。原則禁止だよね。

「ねえ新人君、マナー違反の落とし前はどうしてくれるつもりなのかな?」

「そこのペット、いやテイムモンスターだろそれ?そいつをよこせや、それで無かった事にしてやってもいいぜ。な?」

 なんのつもりか知らないが、ポンポンと肩を叩きに来る。

 鬱陶しいのでその瞬間、忍び早足で一歩下がった。斜め後ろに。

「……あれ?」

 スカッと手の外れたそいつは、みっともなく前によろけた。そんな全力で叩くつもりだったのかよ。

「おい、何やってんだよおめえ!」

 わめくそいつを無視して一言告げた。

「今の会話とこの状況を通報すると、威圧行為として君らは警告の対象になるね。通報されたくなかったらさっさと引き上げてくれないかな?」

 あの女の人……ガラムさん経由で伝言もらった直後に、規約についても見直してある。こういうのは理論武装しておいて損はないからね。

 それによると、脅迫や威力業務妨害みたいな行為はゲーム世界の平安を乱す行為として、ツンダークではかなり厳格に禁止されている。正式に通報して悪質と認められた場合アカウント削除もありうる事が明記されているんだよね。

 で、wikiによると、実際に削除も行われている。クレカの上限まで使ってるような重課金者が切られたケースすらあるという。なんでもネトゲの中には商売優先でこの手のトラブルは削除までやらない事も珍しくないそうだけど、ツンダークの場合は商売よりも治安維持が優先されているそうだ。なぜかというと、運営会社の背後にいるという研究機関の人たちもこのツンダーク世界で研究を続けているかららしいんだよね。どういうカタチでかはわからないそうだが。

 通報については、運営に尋ねた時点で改めて確認ずみでもある。もちろん彼らが動くのは事後なんだけど。迷惑行為にはスクリーンショット撮ってGMコールしてくれとの旨もね。たまにGM関係ねえとか変な脅迫する人がいるけど無視しろとも言ってたね。

 さて。

 バカ連中は一瞬沈黙した後、ゲラゲラ笑い出した。

「ははは、それで勝ったつもりかい?君、ネトゲの現実を知らないねえ。GMなんて飾りだよ飾り。通報なんて無駄だって知らないの?」

「ぎゃはははは!」

 一般論の話なんてしてないさ。まぁツッコむ意味もないが。

 まぁいい。こっちのする事は終わった。

「さて。用はすんだ、帰るぞフラッシュ」

 後ろにひとりぶんの空間が空けられているのは知っていた。おそらくそれは狙ったものだ。俺がそっちに逃げるよう誘導し、タイミングあわせてフラッシュに攻撃しようっていうんだろう。

 だけど残念。こういう「包囲網突破」って森の中でさんざんゲームでやったんだよ。フィールドラビットたちを相手にな。あいつら、でかくて速いだけでなく頭もいいんだぜ?こういうハメ技も使うんだよ。

 こういう時にとるべきは、相手の読みを外す事。つまり、

 そんなわけで。

「え?」

 あっけにとられたような一瞬の声。

 次の瞬間には、俺は連中の包囲網の外に出ていた。フラッシュともども。

 そう。

 攻撃力があるなら、今の一瞬で頭を叩くのも手だ。だけど俺は攻撃力がない。

 だったらとる手は一択だろう。綺麗さっぱりトンズラするだけだ。

「さて行くぞ……って!?」

 だけど、そんな俺の考えも甘かったらしい。

 突然、ピュウッと切羽詰まったような声が聞こえた。そして俺はそっちを見た。

 そこには。

「よう、ひっかかったな。動くなよ?」

 俺と同じような、布の服姿の男がフラッシュを捕まえていた……手にはダガーを持って。

 

 

 うん。正直に言えば、なめていたと告白する。

 戦って勝てないのはわかっていた。だけど高い隠密技能がある限り、イザって時も逃げおおせる、そう考えていたんだ。

 甘かった。

 テイマーは確かに隠密専業に近い。だけど隠密使いはテイマーだけではないわけで。そして、そういう職種の人間が、β時代から全力でやりこみプレイを続けていたとしたら?

 そりゃあ無理だ。少なくとも現時点で勝てるわけがない。

「暗殺者」

 ぼそっと俺の口からこぼれた言葉に、男はニヤリと笑った。

「大したもんだよ新人。俺、これでも隠密専業ならトップランカーなんだぜ?危うく欺かれそうになっちまった」

「そりゃどうも。で、そいつをさっさと離してくれるかい?」

「そうはいかねえよ。わかってんだろ?」

 男はニヤニヤ笑った。

 そして気がつくと、馬鹿野郎連中が俺を取り巻きはじめていた。

「さ、とりあえず土下座してもらおうかね。センパイに対する口の聞き方とか全然なってないしねえ」

「まったくだ。おや、なに睨んでんの?かわいいウサギちゃんがどうなってもいいのかい?ぎゃはははは!」

 どうもこうも。おまえら、そもそもフラッシュを生かす気なんてこれっぽっちもないだろ?

 ちなみにレコーダーは回り続けている。この会話も全て記録されている。

 ならば、戦う手のない俺が今できる事なんてひとつしかない。泣き喚く事でも慈悲を乞う事でもない。そんな事をしてもこの事態が改善されない事くらい、いくら俺が馬鹿野郎でもわかる。

 ならばやれる事はひとつだけ。こいつらのデータをひとつでも多く集め、GMコールするだけだ。今すぐ。

 コールが受理されればその瞬間、この空間は固められる。つまりチャンスが作れるはず。

 ではとりあえず。

「人のペットを捕まえて、殺されたくなかったら言うこときけと脅迫か。そいつを放せ、これは最後の警告だぞ」

「おやおや、強いつもりなのボク?いひゃひゃひゃひゃあっ!」

「ふふふ。ほうら、さっさと土下座しないとぉ、うさぎちゃんの首がチョン切れちゃっても知らない、よぉぉぉぉっ!」

 何でもいいが鬱陶(うっとう)しいしゃべり方する奴だな。こういう奴なのか、それとも流行か何かなのか?

 さて。じゃあGMコールするか。

 だが、そう思った瞬間だった。

「コールはちょっと待ってくれない?」

 その涼しい声と共に、キシャっともカシャッともつかない妙な音がした。

「……え?」

 次の瞬間、フラッシュにダガーを突きつけていた男がゆらめく光になって消えた。フラッシュは自由を取り戻し、次の瞬間には一気に飛び退いて皆から距離をとった。

 もしかして……今の、死にもどりって奴か?はじめて見た。

 でも、どうして?

 なんだ?何が起きている?

 そう思った時、

 

 

 そこにあったのは、どこかで見たPVのワンシーンだった。

 

 

 いや、あのPVと同じ巫女さんだった。

 映像で見たっきりのはずの、本物のツンダーク式巫女だった。

 基本のデザインは日本の巫女服とあまり変わらないのだけど、袖のところに何かの真言のようなものが刺繍で、ぐるっと袖口に添って縫い込まれていた。うん、和風とはちょっと違うけど、いかにも(みやび)だ。

 だけど、それを着込んでいる中身の女性はちょっと風変わりだった。

 スレンダーな人のようで豊満な印象はあまりないが、しなやかで野性味のある体格をしていそうだ。足がちょっと太いのかと思ったけど、それはアレだ。身体を使う職種という事なのかもしれない。

 両手にあるのは鉄扇(てっせん)、いや違うか。だがソレが何であれ、あれで暗殺者を殺したんだろう事は俺にもわかる。血の匂いがするから。

 だが、何よりも印象的なのは毛皮に覆われた手。そして首から上は……白いウサギ。

 獣頭人身(じゅうとうじんしん)

 そこにいたのは、まるで鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)からそのまま抜け出してきたような、見事なウサギの巫女さんだった。

「な、ななななんだ、なんだおまえ!?」

「あら、ごあいさつ。殺しに来たのなら、殺される覚悟は当然してるわよねえ、おバカさんたち?」

 クックックッと、ウサギ巫女は楽しそうに笑った。いいけど日本語うまいなオイ。

「何やってるの?わたしはステータス隠蔽したりしないけど?確認してみれば?するんでしょ?」

 その言葉にハッとした者がわずかに下をむいた。おそらくは情報チェックしているんだろう。

 だけど、すぐにゲッという感じで目を剥き、そしてウサギ巫女を見た。

「ラビノイドLv42。詳細不明。だめだそれ以上何も読めない!」

「読めないだって?」

「バカな、おまえよりレベル高いってのか!?」

 ラビノイドLv42って事は、フィールドラビットからの叩き上げならLv142って事かよ。おお凄いな!

 え?おまえも隠密行動Lv70超えてるだろうって?

 はっはっはっ、スキルレベルと当人のレベルは違うんだよ、残念。

 俺のレベルはな、レベルは……。

 いやまて、今はそれどころじゃないぞ!

 彼女、いや、たぶんメスだろうから彼女でいいだろ……彼女はスッと左手を前に、右手を後ろにかまえた。戦闘ポーズか?

 ちゃり、と小さな音をたて、両手にある鉄扇みたいなものが広がった。

「ああ、十五秒ほど待ってね、今終わらせちゃうから」

 それからは一方的だった。

「ああああああっ!」

「ちくしょ、くそ、くそ、くそぉっ!」

 必死に抵抗するバカどもだったが。

 そんな抵抗など無いかの如く、次から次へと一撃で屠っていって、

「はい、おまちどう」

 本当に約十五秒後、彼女はたったひとりでそこに立っていた。

 え、描写が薄い?

 そういわれてもね。

 本当に、がっ、ひゅん、がっ、しゃりぃぃんって感じで一瞬だったんだよ。あんなの俺の語彙じゃ、とても綺麗に表現できそうにない。

 自分のボキャブラリーのなさを実感したのは久しぶりかも。本当に残念だ。

 話を戻そう。

「ゲームシステムってやつがあると、プレイヤーさんたちの死体は消えちゃうのよね。まぁ便利だけど剥ぎ取りもできないし、また復活しちゃうのは嫌いかな?旨みがないもの。この『麻痺の扇』って、本当は生きたまま麻痺させて装備剥いだりイタズラするのが真骨頂なんだけどね。残念」

 物騒な事をいいつつ笑う巫女服姿のウサギ。なんていうかシュールだ。

「えっと、新人さん?知ってるかもしれないけど一応名乗るわ。質問あったら言ってね?

 はじめまして、わたしの名はメイナ。『プレイヤー』最初のテイマーである『メイ』のはじめてのパートナーで、ここの『はじまりの森』で生まれた白ウサギの子の成れの果てよ」

 えっと、質問。

「何かしら?」

「変なこと聞きますけど、うさぎなのに喋れるんですか?」

 あぁ、そういうことねとウサギ巫女さん、もといメイナさんは頷いた。

「ラビノイド、つまり巫女クラス以上になると喋れるわね。でもこれは職業上の理由で声帯が変化しただけの話で、後輩ちゃん、つまりあなたのうさぎちゃんだって言葉は理解してる。知ってるよね?」

「はい」

 フラッシュが言語理解しているのは間違いない。しゃべれないだけだと思う。

 そうか。ということは、いずれはこのメイナさんみたいになるのか。ふむ。

「あー、その子がわたしのように進化するとは限らないわよ?」

 え?

「普通に育てば確かに戦士経由で巫女、つまりラビノイドになるわけだけど、そんなゲームキャラのモンスター進化じゃあるまいし、必ず同じように成長なんかするわけないじゃないの。それどころか、中には変異種っていって、なんなのこれって変態的進化をする子だっているんだから」

「……変異種ですか」

 なんか、嫌な予感しかしない名前だなぁ。

「まぁソレはいいわ、その後輩ちゃんはわりとノーマルみたいだから、少なくともボーパルバニーまでは素直にいくと思うしね、安心なさい。

 で、わたしだけど今はメイのそばにはいないの。メイの今の活動拠点は陸上タイプの獣にはちょっと住みにくい環境だからね。それにわたしも巫女になれたんだから、今は巫女の修行をしなよってメイにも勧められたしね。

 そんなわけで、今は巫女の修行中なの。ここにはちょっと、会いたい子がいて来たんだけど……」

 そう言うと、やれやれと肩をすくめた。

「いきなり、新人さんと後輩が殺されかけてるのに遭遇するなんてね。怪我はない?」

「はい、ないです。すみません、ありがとうございます」

 助けられたのは間違いない。彼女が来なけりゃフラッシュは殺されていた。

 しかし頭をさげると、メイナさんとやらは不機嫌そうな顔をして怒った。

「謝る必要はないわ。それより新人さん、あなたパートナーがこの子しかいないってどういう事?テイマーはね、フタマタミツマタ当たり前、とりあえず八匹従えて一人前っていうくらいなのよ?

 なのに一匹だけで満足してるとか。それでこの子を危うく死なせかけるとか、何考えてるの?」

「……すんません」

 返す言葉がない。俺は黙って項たれた。

 そしたら今度はフラッシュが、プーッ!プーッ!と何やら威嚇めいた声を上げ始めたんだけど、

「あなたもよ後輩ちゃん!」

 えらい勢いでフラッシュにまで文句を言い出した。

「この子がダメなら、筆頭テイムのあなたが補佐するのが道理でしょう?まったく、相手がダメダメなら逆にキン○マ握って支配しちゃうくらいの事やんなさいよ。コレを共有できそうな友達とかいないの?ねえ!」

 うわぁぁぁ、ちょっと!

 ったく、姿は可愛いのになんてぇ毒舌だい。

「おっしゃりたい事はわかりました、反省して一日も早く生かします、ええ即日さっそくマジやります、ありがとうございます。ところで会いたい人って誰ですか。僕が知ってる人なら案内しますけど?」

 とりあえず、ちょっと強引に話題を切り替えた。

「あー、うん、いえそっちはいいのよ。それよりさっきの彼らの事、通報するんじゃないの?」

「あ、そっか。じゃあすみません、三分もらえますか?」

「いいわよ」

 GMコールはいらないだろう。でも相談したんだから、顛末はデータをつけて報告しておくか。

 ささっと短く「問題発生。居合わせたNPCの巫女さんに助けてもらいましたが、報告いたします」と書いた。

 そしてデータを添え送信、よしと。

「通報はちゃんとやっとかないと、また逆恨みされて来たらたまったもんじゃないしなぁ」

 確かデスペナってやつがあるんだっけ?今日はとりあえず大丈夫だよね?

 だけど、もう一回来たら本当に洒落にならない。通報もそうだけど、仲間を急いで増やさないとな。

 そう言ったら、メイナさんはうふふと笑った。

「その心配はないと思うよ?」

「え?なんでです?」

「さて、どうしてかしらね……っと!」

 謎めいた余裕の笑みを返していたメイナさんだったけど、突然表情を歪ませた。

「この気配は」

「どうしたんです?」

「封印解除、いえ、近くでペットだった子が急に開放されて一気に進化したわね。でもこれは」

 え?

「わかるもんなんですか?そういうのって」

「知ってるかもしれないけど、ペット状態だと種族進化が起こらないのよ。でも、おうちで飼わずにいつも連れ歩いてる人のペットは当然、成長自体は続いている。それって、苦しいわけじゃないけどやっぱり窮屈なものなのよ。

 それがいきなり開放されるからね、かなり劇的なの。特に変異種の場合は遠くからでもわかるわ」

「変異種」

 すごいタイミングだな。噂をすればなんとやらって事か。

「いいわ、あなたもペーペーだけどテイマーさんだものね、いらっしゃい、どういう事か見せてあげる」

 そう言うと、メイナさんはさっさと歩き出し、そして「おいでおいで」をした。

 ふむ。

「それはいいんですが、メイナさん」

「なぁに?」

「微妙に子供扱いなのはどうしてです?」

 そうなのだ。なんとなくだけど、子供扱いされている気がするのだ。

 するとメイナさんは、楽しげにニヤニヤ笑った。

「ほんっとうに初心者なんだねえ。ねえ『レベル1』さん?」

「あ、いやそれは」

 ぷ、クスクスと笑いが大きくなった。

「どうして基本レベルが上がらないのか気にならなかったの?それとも、もふもふ遊びに夢中だった?ふふ、あなた、いえ、きみだったら遊びほうけていたクチかなぁ。違う?」

「……あー」

 うん。気になってはいたんだよね。確かに。

「チュートリアルってやつだっけ、あれサボったのね。まぁいっか。いいよ、教えたげる。

 いい?

 基本レベルの上昇は職業レベルのアップがきっかけなのよ。つまり、戦士なら戦士そのもののレベル、魔法使いなら魔法使いそのもののレベルがあるのね。職業の隣に出ているのに普通は。戦士Lv12みたいにね」

「え……でも」

 僕にはそんなの出てないぞ。テイマーはテイマーのままだ。Lv1だと出ないのかな?

「違う違う。テイマーってあなたたちの言うゲーム職じゃないの。だからレベルなんてないのよ」

「え……ええええっ!」

 ちょ、聞いてないよそんなの!

 たぶん青くなっている僕を見て、メイナさんはまるで浮かれたように楽しげだった。

「チュートリアルの時にレベルの話は出るのよねえ、職業の横にレベルが書いてあるのを必ず確認してくれって。名誉職や特別職にはレベルがない事があるからってね。そういう場合はもうひとつお仕事につかないと基本レベルがあがりませんよって」

「……」

「あー、その様子だと毎日楽しく後輩ちゃんと遊び惚けてたのね。だったら隠密スキルだけあがりまくってない?この子らって隠密技能が身を守る唯一最大の武器だから、日常生活がそのまんま隠密スキルの修行になってるしね」

 あがってます。めちゃめちゃ。

 返事をする前に理解したらしい。メイナさんは目を細めてクスクスと笑った。

「あのね、レベルとか経験点って、上がればあがるほどどんどん上がりにくくなるのよ。持ってるスキルが増えるとか、高レベルのスキルを保有しているとかになると、特にね。

 たとえば基本レベル1の人がLv100のスキルをひとつ所有していると、レベル2になるには通常のだいたい百倍の経験点が必要なのよね。ちなみにフィールドラビット一匹倒した場合の経験点は15、レベル1から2はチュートリアル目的で簡単にアップするから150でいい事になってるけど……もうわかったでしょう、この時点で、レベル2になるには15000の経験値が必要になる。十羽うさぎを倒せば進めたはずなのに、千羽倒さないとダメになっちゃうってわけ。

 だからスキルが上がるまま、取れるままに放置しておくとレベルが全然あがらなくなっちゃうわけで、控えやスキルの開放っていうのも後々必要になるんだけど……なぁに?」

「……」

 知らない。そんなの聞いてないよ。おぉ。

「いいわ、いいわね、うっふふふ。あなたメイに似てる。メイもやったのよねえソレ。うふ、うふふふ、あははははははっ!」

「……」

 いや、なんでそこまで笑うんでしょうか。確かにお間抜けな話だけど。

 それに気のせいかな、どうもこのメイナさん、恍惚としているような……ドSじゃないだろうな、まさか。

「うふふ……まぁいいわお間抜けさん、その話は後でしましょう。それにどのみち、ゲーム職じゃない(・・・・・・・・)あなたにはあまり関係ない話だしね」

「え?」

 基本レベルが関係ない?

「いいわ、その話は後あと、今はいきましょう。でないと面白いとこを見逃しちゃうからね!」 

「あ、はい」

 なんか流されたな。でも急いでいるのも事実らしい。

 変異種か。うん、確かに気になる。

 俺は気持ちを切り替え、フラッシュに「いこうぜ」と目配せした。

 そして、メイナさんの後について歩き出した。


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