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9話~感覚~


 ぼくは耳をとぎすましていた。

・・ブースの中でその表現はふさわしくないか。

ぼくの全身全霊をブースのむこう、

水槽のようなガラス張りの向こう側の部屋へと

集中させていた。


頭の中にふたりの人間の会話が

ビジョンを携えて入り込んでくる。

これはぼくひとりの力ではない。

マザーが助けてくれている。

水槽の向こう側の情報を掬い取って

チューブを通して流し込んでくれている。


はじかれる個体とは間違いなくぼくのことだ。

ということは、

いずれぼくはスクラップになるのか。

トラック積まれてどこかの廃棄物処理場へ運ばれて、

放りだされる?

それとも潰される?


痛いだろうか。

痛い?

痛いってどういうことだろうか。


感覚・・。


じいん、と頭の中で音がした。

音の波が反響している。

と、ともに全身に違和感が襲った。

いままでは無感覚の中、

おおきな気泡の中でただよっていただけのものが、

はじけて地面に叩きつけられたようだ、

といえばいいのだろうか。


背中に金属のベッドの冷たさ。

手首にはめられた人工輸液パルス計測器の重み。


感じる。


母親の体内から出て

世界という大気に襲われた感覚に似ている。

自分が無防備でこころもとない。

泣き声をあげたかった。

あかんぼうみたいに、ただ欲望のままに。

だけど、ぼくののどには声帯がないし、

叫びたくても、むずがりたくても

ぼくにできることはなにも無かった。


それがいい。

それでいい。

はじかれることを思えばじっとしておくのがいい。


 

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