10話~歴史とは伝説か~
二人の教官は無言で空のカップを眺めていた。
A棟教官は渋い顔を崩ず、それ以上口を開こうとしない。
アンドロイドは人間の男の子の脳のコピーだ。
その脳が覚醒しようとしている。
そのほかにもA棟教官には隠している情報があるようだ。
知らないほうが幸せな情報もある。
だが彼はA棟教官が話を続けることを期待している。
たぶん本人だって
口を開かせてくれるきっかけをまっているはずだ。
それならば、と
彼は、いままで誰にも話さなかった祖父の話題をとりだす。
「私の祖父は絵本の取締りをしていたんです。
皮肉なもので、削除しなけらばならない情報を
一番知っているのは祖父だった。
漏らしてはならない情報を抱えて、
祖父は苦しかっただろうと思います。
そのつらさが今よくわかる」
そう言って彼は相手の顔色をうかがう。
ゆっくりとA棟教官は口をひらいた。
「すべては噂の域をでないんだが」
と前置きをして
二杯目のコーヒーが注がれたカップを両手で包み込んだ。
かつて、国同士のの戦争を
自らの手で作り出した機械にゆだねてしまった人間達。
その中枢部の者達は
こぞってその機械の進化に心血を注いだ。
ピラミッドの頂上近くに位置する者たちは、
そのまた頂点に上り詰めようと
世界を自分の国の色だけに染め変えようと、
やっきになっていた。
三角形の下のほうのものたちには平和と平静を装って。
ロボットをもっともっと進化させた国。
1体の質より量をとった国。
作戦はいろいろだったが、
セクタシティは
とうとう禁断の域に踏み込んでしまった。
機械的なフォームではなく
少年の形のアンドロイドを使用する。
それは相手国の士気を弱める為だと発表された。
しかしよく考えれば腑に落ちない。
今の戦争では人間が指揮をとっているものの
実際戦うのはロボットだ。
ロボットに感情はない。
少年の形だろうが、
犬の形だろうが、
それで武器を振り下ろすのを躊躇するだろうか。
ではなぜ少年の姿を。
本当の理由は、それが少年のコピーだからにすぎなかった。
少年自身が志願したのか
選ばれたのか
それは今となってはわからない。
都市伝説のひとつをとれば、
少年は森の近くの小さな町の生まれで、
姉がひとりいた。
その姉は体が弱く手術をするためには
多額の費用が必要だった。
少年は頭脳明晰だったし
運動能力も長けていた。
だから政府は少年を買った。
いや、少年が力を貸した。
セクタシティと自分の姉を守る為に。
そういうふうに表現して伝えていくことが政府にはいいのだろう。
愛国心。
守るべき人間と、国。




