第3回
3
なーんて会話をした講義中、気付くとあたしは例の別空間に飛ばされていた。
いっつ・あめーじんぐ・わーるど。
毎度思うけど、どうなってんのさ、この世界。
「……ふん、始まったか」
冷静なのはあたしの性分。
最初のゲームの時だって大して動揺はしなかった。
自分で言うのもなんだけど、肝が据わっているのである。
いつものように突然現れたあたしの腰から下がったホルスターには使い慣れた拳銃が一丁。
一応、弾が六発入っていることを確認。
――ヨシ。
さて、今回のステージは? と辺りを見回してみれば、やたらと寂れた商店街。
開いている店もあればシャッターの閉まっているお店もあるが、ひっそりとして人影一つ見当たらない。
とはいえ、ゲームが始まった以上、この空間にはあたしを含めて6人の参加者が揃っているはずである。
六発の弾丸に六人の参加者――サバイバーたち。
この中のひとりが殺人者として残りの五人を皆殺しにするか、或いは他の参加者五人がその殺人者を殺すまでゲームは続く。
殺人者を殺せば一〇〇〇点。殺人者が全員を殺せば一〇〇〇〇点。
そうしてランカーになって1位を取れば、どんな願い事もひとつ叶えてもらえる、らしい。
らしいっていうのは、アプリのルール説明にそう書かれているだけで、あたしはまだランカーではないからよく知らない。
けど、叶えたい願いなら、ある。
それはあたしが小さい頃に事故死した両親を生き返らせること。
ゲームの主催者はこんな不思議なゲームを作ることができるんだから、それくらいできそうだよね。
さて、と。
あたしはあたりをもう一度ぐるりと見渡して、
「どこから探っていこっかな」
そう独りごちた。
とりあえずアプリを起動して、今回の参加者の顔を確認。
ぽちっとな。
う~ん、どいつもこいつも悪そうな顔をした大人ばっかりだ。
特にこの柳瀬って男。顔中傷だらけでなんだかヤバそうなニオイがプンプンするぜ。
他の輩もなんだか強面でどいつもこいつも堅気じゃないような雰囲気だ。
ふ~む。どいつもこいつも怪しすぎる。
そんななか、あたしの他にもうひとり、女の人の顔があった。
名前は篠原梨花。
黒髪ロングのお姉さんって感じの美人さんだ。
この人もこの人で怪しさ抜群、そこら辺のキャバクラで働いてそうな感じの女だ。
この中に、今回の殺人者がいる。
誰も彼もが怪しすぎてまだ現時点では誰が殺人者かわからなかった。
さぁ、ひあ・うい・ごーだ。
とりあえず他の参加者が今どこにいるのか探らないとけない。
な~んて思っているうちから、
――パンッ! パンッ!
誰かが誰かを撃ち殺したか、撃ち殺そうとした音が聞こえてきた。
こりゃ探す手間が省けて助かるぜ。
あたしは思わずニヤリとほくそ笑んで、そちらの方に駆けだしたのだった。
しばらく進むと商店街の十字路のあたりでパーカーを着た若い男――たしか、飯沼なんちゃらって書いてあったと思う――と顔中傷だらけの黒いスーツに身を包んだ男――柳瀬なんちゃら――が銃を突き付けあい、怒号をあたりに撒き散らせていた。
おお、仁義なき戦いって感じがしてゾクゾクするぜ。
もはや二人の怒号は言葉になっておらず、互いに互いをけん制し合う闘犬みたいな吠え声でしかなかった。
もっと聞き取りやすい言葉でしゃべってくれればあたしだってわかるのになぁ。
――パンッ!
な~んて思っているうちから、パーカーを着た若い男・飯沼が眉間に弾丸を喰らってそのまま即死。
仰向けに倒れてばたん、きゅ~だ。
ありゃりゃ、これはもうゲーム終了かなって思ったのだけれど、いつものあのゲーム終了のファンファーレが鳴らない様子。
ふ~む。
これは殺人者と間違えて他の参加者を撃ち殺したか、さもなきゃあの顔中傷だらけのおっさん、柳瀬が殺人者なのか、はてさてどっちだ?
「――そんなに顔をのぞかせていたら、あいつにバレちゃうわよ?」
とはあたしの後ろに隠れていたお姉さんの台詞である。
別にその気配には気づいていたのだけれど、あたしを攻撃してる様子がなかったのでそのままにしておいたのである。
「そう?」
あたしは言われた通り、大人しく改めて物陰に身を潜めた。
それからお姉さんの方に顔を向けて、
「篠原さんは参加者? 殺人者?」
「一応、参加者のつもりだけれど」
「まぁ、だよね。そんな気がしてた」
「気がしてた? 何だか適当ね」
「あたし、自分の勘を一番信じることにしてるんだ」
「それで、あのふたりはどう思う? あなたの勘は?」
「う~ん」
あたしは死体検分をしている柳瀬の様子を窺いながら、
「あたしの勘は、殺人者っていってるけど」
「そう、あたしと一緒ね」
「へぇ、お姉さんはどうしてそう思ったわけ?」
「あたし、あの男のこと知ってるから」
「ほうほう――へ? そうなん?」
「以前のゲームでね、一緒になったことがあるの。なかなか粗野な人だったわ。もっとレディに対しては優しく接しないと駄目よね」
「それ、何の話?」
「大人の話よ」
「ふ~ん?」
わかるようなわからんような。
ま、あたしには関係のない話だ。
「それで、これからどうするの?」
あたしが訊ねれば、
「今回はあなたに譲ってあげる」
とお姉さんはその色っぽい唇に笑みを湛えた。
「なんで? ポイント、要らないの?」
「ポイントならたくさん持ってるから。あなたの実力、見せてちょうだいな」
「へへ、いいよ! んじゃ、行くよ!」
あたしは言って、物陰から飛び出した。
瞬間、柳瀬が慌てたようにこちらに振り向き、銃口を突き付けてくる。
でも――遅い。
あたしの小柄体形と素早さの前ではナマケモノ級にのんびりした動作だった。
あたしはホルスターから瞬時に銃を抜くと柳瀬の撃ってくる弾を華麗に避ける。
当たらぬ当たらぬ! 当たらなければどうということはないのよ!
「狙いはちゃんとつけなよ、おっさん!」
「んなっ!?」
――パンッ!
あたしはまず一発、おっさんの右足に銃弾を叩きこんだ。
血が飛び散り、ぐらりと崩れるおっさんの腹に、
――パンッ!
さらにもう一発を食らわせる。
「ぐはっ!」
おっさんの呻き声が耳に心地よい。
あたしはゾクゾクが止まらなかった。
足の先から頭のてっぺんまで、痺れるような快感が駆け抜けていく。
――パンッ!
続いて狙ったのはおっさんの胸だ。
これはあえて急所を外してやった。
「――ガッ!」
目をまん丸くして血を吐くおっさんのなんとひ弱なことだろうか。
さて、これで終わりよ。
あたしはおっさんの脳天に向かって照準を合わせて、迷わず、
――パンッ!
眉間に穴が開き、おっさんの身体が完全に地面に倒れ伏した。
この間、わずか十数秒。
瞬間、パンパカパ~ンとファンファーレが鳴り響いて、
『CONGRATULATIONS! Winner : Takako Kirigaya』
いつものように空に花火と共にあたしを賞賛する文字が浮かび上がった。
いえい、勘が的中!
あっという間にゲーム終了!
最速記録達成だぜ!
「やるじゃない。素晴らしい身のこなしね」
篠原さんも手をぱちぱちさせながら褒めてくれた。
他の参加者もちらほらと物陰から姿を現したけれど、はてさて誰が誰やらもう忘れてしまった。
ゲームが終われば参加者は解散。
もう一度会うこともあれば、二度と会わないこともあるわけで(殺されちゃったんじゃないかな?)、いちいち覚えてなんていられない。
はてさて、そんなわけであたしたちの周囲には四角いキューブがいくつも現れる。
このキューブによってあたしたちは現実の世界に戻されるってわけ。
篠原ってこのお姉さんともどうせ次に会う機会なんてそうそうないだろうから、さっさと忘れてしまおうと思っていたのだけれど。
「――またあとで、会いましょうね」
そんな謎の言葉を残されては、忘れるわけにはいかなかった。
あたしはその篠原さんの不敵な笑みを眺めながら、次第に強い光に包まれて――




